「ふっふっふ。どう? コレ」 K27のラブホの中でも一番高い部屋に、リサとミシェルはいた。キングサイズベッドのうえで、さらにミシェルの上に乗っかり――大胆にもがばあとセクシーワンピースを頭から抜きとって現れたリサの下着は、それはそれは煽情的なものだった。 ブラは黒のシースルーで、胸の先っちょを辛うじて覆い隠してるだけ。ショーツもひもで結ばれた、似たようなもの。申し訳程度にアレな場所を隠しているだけの。 「すっごい。リサ、サイコーvv」 「でっしょー♪ 今日は燃えようね♪」 「うんうん♪」 あとはめくるめく快楽のひと時。 さて、翌日。 朝から女性ホルモン満開のリサは、最近にないくらいご機嫌だった。今朝は珍しく(こっちも最近にないくらい)偶然の確率で、リサ、ミシェル、キラ、ルナの四人で朝食をとっていた。 超ごきげんで、蝶が舞い、頭のてっぺんから花が咲いているリサは、彼女らしい、もっともな意見を口にした。(女性ホルモン満開の朝である) 「やっぱさー、たまには刺激って必要だと思うのよね♪ エロい下着って、一番手っ取り早くてイイ方法じゃないかとあたしは思うわけでー、みんなもやってみたら?」 それを聞いた3人の反応は、それぞれ、こうである。 キラ:(あ、意外といいかも。今夜ロイドに試してみよっと。どんなの好きかな♪) ミシェル:(なんかクラウドの場合、すっごい喜びそうで逆にイヤなんだけど……。なんであたしがアイツを喜ばせなきゃなんないわけ?) ルナ:(……これ以上刺激いらない……) 約一名、青ざめた者を抜かし、とりあえず試すだけ試してみようかと、彼女らは思ったわけである。 ★キラの場合 「うっふ〜ン♪ どう? ロイドvv」 ロイドの目の前には、露出度がかなり高いブラとショーツのキラがいた。デザインは派手なひょう柄。 「ふ・ふ・ふ。脱がせたい???」 そう言って、ホワイトラメと、キラキラ星、真っ赤なネイルでコーティングされた爪で、ショーツのひもに手をかけるキラに、ついに耐えきれなくなってロイドは言った。真っ赤な顔を両手で覆って。 「……ろっ、ろろろろろ露出度、高すぎないキラ!!!????」 いつもよりセクシーなキラに、目も当てられないらしい。 「やっだー♪ 照れてんの??」 そう言って、ムリヤリロイドの両手を顔からはがすと、ロイドは、ゆでダコのようになって、目尻から涙が零れていた。直視できないのか、両目をぎゅっと瞑って。 刺激が強すぎたらしい。 「ロイド……か・わ・い・い……vvv」 女豹発情。肉食系女子。 ロイドは、六つも年下の彼女に美味しくいただかれたのであった。 ★ミシェルの場合 「うん……。セックスの倦怠期における下着の変化は男女とも双方にここちよい刺激をもたらし、情感を高め、また、淡泊なセックスにも潤いをもたらす……、といったところだけど、でも、俺たちのセックスは別に淡泊でも倦怠期でもないし……だからといって、ミシェルがセクシーな下着をつけるっていうその滅多にないチャンスにあやかりたい気も俺はしないでもなく」 「だから、見たいわけ? 見たくないわけ?」 「……俺は、ミシェルの普段つけてるスポーツブラもマニアックで、とても素敵だと思う」 「いや、別にマニアック狙ってないから」 「ミシェルは黒、のゴージャスなレースが、意外と似会うと思う。ガーターベルト付きで」 「で、……なんでおまえが今それを持っている」 「心理作戦部もと副隊長の準備の良さをミシェルは舐めちゃいけない。情報伝達の早さもね。しかもコレには設定がある……」 「は?」 クラウドは、黒のレース付きブラとショーツ。オプションにガーターベルトとバラの模様入りストッキングのセットを並べ、さらにメイド服を取り出していった。 「可愛いツンデレのメイド、ミシェルは普段は気が強くてご主人様にも平気で口答えする生意気娘。でも、そんな彼女は深夜、ご主人さまのベッドで豹変するのであった……」 「……クラウド。あんたって、ほんとはっきり分かる変態だね」 「ミシェルに褒められた……!」 100人中98人のヲトメが惚れる、モデルにも滅多にいない、完全無欠の超美形の顔を含羞みさせて、クラウドは微笑した。先の変態発言さえなければ、十分王子様なのに。 「褒めてないから。つうか下着はきてやってもいいけど、メイド服は着ないわよ」 「大丈夫。オプションとして、ネコ耳、しっぽ、ファーつき手錠を用意している。ミシェルが望むなら、俺は執事やってもいい」 「それあたしの望みじゃなくて、全部アンタの希望だよね? そうだよね? つかその袋の中でブーンブーンいってんの何?」 「 「正気にかえれ。あのさ、なんでこのパンツ穴あいてんの? 縫っていい? ねえ」 「そのままつながるために決まってるだろ」 「ちょ、あんた、なんでそんなキャラ違うく、な……ギャー!!!!!!」 ★ルナの場合 ミシェルがクラウドに強引に接続される数時間前。 ルナは下着売り場で、ひとつの下着とにらめっこしていた。 (う、う〜ん。どうしよ……) ルナが手に持って悩んでいるのは、真っ赤っかな総レースの、下着である。しかもショーツはスケスケ。見てるだけでこっちが赤くなるようなセクシー下着。 「ルナちゃん。決まった?」 クラウドが、レジで会計を済ませて、袋を持ってルナのほうへやってくる。 アズラエルが好きな下着はどんなのなのか――それをクラウドに聞いたら、クラウドが、「じゃあ一緒に買いに行こうか。俺もミシェルの買いに行きたいし」と言われたので、一緒に見に来たのである。 さすがは天然ウサギ。ミシェルのセクシー下着を堂々と買いに来るクラウドの変態さは、ルナには伝わりもしなかった。クラウドって親切だな、ミシェルの下着買ってあげるなんて。と能天気モードを発動していた。それだけ、クラウドはルナにオトコに見られていない、ということもあったが、こういうときこそ事態を深読みすべきである。 「う、うん。コレに決めた!」 ルナが手にしている赤いセクシー下着。それはたしかに、クラウドのアドバイスどおり、アズラエルの好みであったかもしれない。 だが――。 「それでいいの?」クラウドは念のため、聞いてみたが。 「う、うんいいの! 買ってくるね!」 「あ……、ルナちゃ」 長いこと、そのセクシー下着を握りしめているのは恥ずかしかったのか、ルナはわたわたとレジに行って、勘定をすませていた。 (あれは、アズの好みには間違いないけど、ルナちゃんにはあっちが似合うと思うんだけどな) クラウドは、どっちかいうと、ファンシーな下着のほうにある、フリルが満載のピンクのベビードールを眺めてそう思った。 さて、その夜。 ルナは、バスローブのなかに、昼間買った下着を着込んで、いつもより真っ赤になりながら、アズラエルの待っているベッドに向かった。 「なんだ? どうした。顔、赤いぞ?」 「え? ……う、うん……、ひゃっ!!」 おずおずと、ベッドの傍らまできたルナを、すぐさま抱え上げて、膝の上に乗せる。 バスローブの結び目に、指をかけたアズラエルに、ルナは、ドキドキしながら言った。 「きょ、今日……あ、アズが、すきな、下着、かっ……買った、の……」 語尾がどんどん小さくなっていくのは仕方ない。「ン? 下着って?」 「セ、セクシーな、やつ……」 合わせ目を必死で両手で押さえて、白い肌をピンク色にしてプルプル震えているウサギに、ライオンの欲情グラフはK点を超えた。 「に、似合ってなくても……笑っちゃ、ダメだよ?」 プラス、潤んだ目の上目づかい。ライオンの理性スイッチは噴火なみの勢いで壊れた。 「あ、――ヤ、」 ルナの手ごと強引に合わせ目を開き――その胸元に口づけようとしたライオンは――固まった。 ルナも、アズラエルの様子がおかしいのは分かった。アズラエルは開いたなかの下着をガン見し――それから、パタン、と扉でも閉めるように、合わせ目を、閉めた。 「……ああ、うん。……………今日は寝るか。ルゥ」 「ええ!? なんで!?」 こんな状態で、アズラエルがやめたことは一度だってない。 「え? なに? なんか変だった!?」 「いや――ヘンとかじゃなくてな――悪いのは俺だな、ン、たぶん――」 「気、気に入らなかったの!?」 「――そうじゃねえ。――うん。あまり無理すんなよ。おまえはそのままでいいんだ」 よしよし、と幼子をあやすしぐさで背を撫でてくれたが、ルナは、あまりのショックで、その夜は寝付けなかった。 「最低だな」 ラガーで、グレンが吐き捨てた。 「なんでおまえがここにいて、俺の話を聞いてるんだ」 アズラエルはラガーのマスターと話していたのである。アズラエルのツッコミを軽く無視し、となりのスツールに座っていたグレンはタバコを吸って、吐きだした。 「赤いセクシー下着? あのウサギちゃんがどんだけ勇気振り絞ってそんなもん買ったんだか。似合ってなくても褒めちぎって、抱いて、メッチャクチャに可愛がってやるのが彼氏ってモンだろうが。傭兵ってのは無神経で困る。ルナは俺が慰める。さっさと別れろ」 「誰が別れるか。てめえだって、現物見りゃわかる」 「俺は、似合ってねえ下着つけたルナだって、褒め殺す自信はある」 「限度があるだろ。……なんつうか……ガキが背伸びして、親の下着盗んで着たようなあの痛々しさ……?」 お兄さん、涙出ちゃう。アズラエルは目を覆った。 「ルゥの華奢な身体が――あの下着のせいで――なんでだか、よけい幼く見えて――」 「それで萎えたってのか? おまえの愛も大したことねえな」 「そうだよ。その派手な大人びた下着をつけることによるギャップというか――むしろ、ルナちゃんの幼さと愛らしさが引き立てられて、そこがモエどころってものじゃないか」 「セルゲイ。おまえが変態なのはよくわかった」 グレンとアズラエルが、なぜか隣にいたセルゲイに口をそろえて突っ込んだ。 「(聞いていない)そもそも、私だったら、ルナちゃんにそんな下着を買ってこさせるようなことはしないね」 「じゃあ、ルナにはどんなのが似合うって言うんだ?」 「ルナちゃんに似合うのは、ベビードールだろ? ピンクのベビードール」 ベビードール……。 カウンターに座った、銀、こげ茶、黒髪の男の脳裏では、それぞれ愛らしいベビードールを着たルナが、恥らって頬を染め、あるいは泣きそうな顔で俯いていた。 (ピンクもいいが、やっぱルゥには真っ白の、丈の短いヤツだろ) (まえ着てた黒の、スリップドレスだったか……ああいうのでベビードールタイプのねえかな。ジュリに聞いてみっか) (ルナちゃんはピンクだな。ピンクで、フリルがいっぱいの……) ベビードール……。なんていい響きだ……。 「俺ゃ、おまえら全員大して変わらねえと思うんだけどな」 ヘンタイ具合に関しては。 ラガーのマスターのツッコミは、永遠に誰にも聞こえることはなかった。 その数日後。 ルナのもとには、白、黒、ピンクのベビードールが届けられた。 「……」 それらの下着を絨毯の上に並べてぽかんとしたあと、 (アズなら分かるけど……どうして、グレンとセルゲイから送られてきたんだろう) ウサギちゃんは、半日、その理由を考え込んでいた。
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