「てゆかさあ、アズラエルってドSなんでしょ? じゃあさ、やっぱエッチとかもえすえむなわけ? ルナスパン●ングとかされたりすんの?」 ほがらかなある日の午後である。 例のごとく8人が和やかに囲んだ、リズンのアンティークの、艶あるテーブルの上に、メンズミシェルの吹いたコーヒーが音を立てて散らばり、ついでに白いレースのテーブルクロスも汚した。 爆弾発言をかましたのはキラで、動揺したのはミシェル二人とリサである。 意味がわかっていないのは言われた本人のルナと、ロイド。 あきれ顔で返したのはアズラエルだった。 「……なんでドSだとそうなるんだ。おまえのイメージってそうなのか?」 「てかアズラエルってお仕置きしそうだから」 キラが、レモンの入った炭酸水を飲んで言った。 「――アズのスパンキ●グは96%の確率でどんな女の子もMになっちゃう超絶テク。絶妙なタイミングと力加減で繰り出される平手と言葉攻めに五分と持たずに絶頂間違いなし。クセになるうえに「お仕置きだ」のひとことでイッちゃう女のこは数知れず」 「てめえはもうしゃべるなクラウド」 おまえが喋ると百割増しおおげさなんだよ、とアズラエルはぼやいた。 「ねールナ! やっぱアズラエルってサディスティック? 縛ったりとかすんの」 興味しんしんに聞いてくるキラに、ルナは何ともいえず首をかしげる。 いまのとこ縛られてはいないなあ。お仕置きってなんにもあたし悪いコトしてないし……てか、キングって――なにかの王さま? スパゲッティ? スパゲッティの王さま? 聞いたのは、ルナではなくロイドだった。 「ねえ。……す、す●んきんぐってなに?」 エロい意味なのはわかるが、それがどんなものなのかは知らない。真っ赤な顔でおそるおそる聞くロイドに、キラが絶叫してロイドの耳を塞ぐ。 「いやっ! ダメっ! ロイドを汚さないでええ!!」 最初に言ったのおまえですけど。 ルナを除いた全員のツッコミは口に出されはしなかった。 だれも何も言わなくなってしまったので、今度はルナがこっそり左隣のレディ・ミシェルに聞く。「ね、ねえ……すぱん、」 「なんで俺に聞かねえ、ルナ?」 右隣から、低い声の主にガッシリ腕を掴まれる。 そこには、おあつらえむきのSな笑みを浮かべたアズラエルの顔が。 「うっわあ……。その笑顔、ほんとにヤッてそう……」 レディ・ミシェルが思わず零すほど、アズラエルの笑みは悪人面だった。まさしく、「俺に聞けよ。してやるから」と言わんばかりの顔だ。 その極悪面になぜか見当外れのM男が反応した。 「……俺。アズラエルにならスパ●キングされたいかも……」 「ちょ、何言ってんのミシェル?」 ツッコミはリサがした。せずにはいられなかっただろう。 「戻ってこいミシェル。野郎のケツ叩いたってなにもおもしろくねえ」 「お、おしりたたくの!?」 ルナとロイドが声をそろえて絶叫した。 ――春のリズンには相応しくない話題だった。 レディ・ミシェルとリサとキラは生々しい想像がアタマを駆け巡ったし、ロイドはいまいちそれが性的なものに結び付かなかったし、ミシェルは妙にドキドキしていたし、クラウドは何回目でルナがネを上げるか真剣に分析していたし、なぜか聞き耳を立てていたリズンの店長が、「ルナちゃんにス、スパ……!」と、興奮しすぎて鼻血を吹いていたことはだれも知らない。 アズラエルはちょっとやってみたかったが、そんなことしたらこのウサギちゃんは泣くな、と思って我慢することに決めた。でもウサギちゃんの白いおしりを想像しただけで、鼻血吹きそうになった時点でアントニオと大差ない。違いは実行に移すかどうかだ。このライオンは多分そのうち、実行するだろう。 つうか、ヤルなら、ルナがグレンとキスしたってときにやっとくべきだったな、と後悔した。 ルナはルナで、遠い目をしながら、スパゲッティの王さまを勝手に脳内で作り上げて現実逃避していた。味はトマトクリームベースらしい。 その夜、ルナがスパゲッティの王さまをアズラエルにされたかどうかは、ルナだけが知っている。
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Background by 戦場に猫さま