クラウドの人間考察。



 

  やあ、俺はクラウド。

俺の名を知らないっていうひとは、まだ読み始めたばっかりか、あるいは俺が嫌いで俺の名が出てくるところは片っ端から読み飛ばしてる、そんな人だろう。

 俺はL18では心理作戦部というところに在籍していて、副隊長だった。階級は軍曹。ちなみに俺はずいぶんと美形らしいけど、そんなのはたいした問題じゃない。顔に目と鼻と口がそれ相応にあることは君と同じだ。

さて、今日は俺が、俺の身近な人間についてすこし紹介しようと思う。完全に俺びいきの俺目線だけど、それは許してくれ。

 

まずミシェル。

言うまでもない、俺のかわいい恋人。

彼女は俺のすべてだ。俺の薔薇。俺のハニデュー。俺の宝石。

俺の紅い薔薇が狂わす恋情を、どう記したらいいだろうか?

彼女は美しく、聡明で、いつでも一生懸命で素直でかわいくて愛おしい。彼女にうっとうしいといわれようが重いと言われようが足蹴にされようが、彼女は俺のすべてだ。俺のすべては彼女なくしてはあり得ない。あのふわふわの茶色い髪、いい匂いのする肌、華奢な肩、自己主張しすぎない胸(※ここで殴打の音)…すべてが俺を魅了する。しかも彼女は申し分ないツンデレだ。いつもあの青水晶の目が俺を誘惑する。これ以上俺を刺激する必要がどこにある? 彼女は俺の世界のすべてだ、彼女なしには……、

 

※以下、長すぎるのでカット。

 

――すまない。エキサイトしすぎたようだ。ミシェルについて語ると、本が一冊発行されてしまう。もうよそう。

 

俺のパパとママの話をしよう。

俺のパパは、ハーベスト。……いや、某有名メーカーのお菓子じゃない。

パパは、かつてはL36の考古学者だった。彼はL系列惑星群の原住民の歴史専門の学者だったが、やがてL4系の原住民たちの生活のひどさを知り、彼らの救済をしたいと考えるようになった。L19に、そのための部隊があると知り、まずL18にきて傭兵になった。アズの父、アダムさんとは、そのとき知り合った。彼の傭兵チーム「アダム・ファミリー」に在籍していた。今は、念願かなってL19で特別捜索隊の隊長をつとめている。

ママはアナクル。ママの名はパパがつけた。アナクルは、軍事惑星群の古語で「生誕した」とか、「始まった」とかいう意味だ。パパがママの名をつけた時からママの人生は始まったということ。ママの人生を語るとどうしてもシリアスにならざるを得ないので、今は省く。いつか管理人が本編で明かしてくれることだろう。

パパもママも健在だ。L19で元気に暮らしている。あと、パパとママと、俺のかけがえのない、マリア婆や。俺が心理作戦部に在籍して家を出たときから、パパたちはL19へ引っ越した。パパの親はふたりとももう亡くなっている。パパの乳母だったという彼女は、今もパパがいない間ママの面倒を見てくれている。

俺はママとパパと、マリア婆やが大好きだ。

 

俺の友人関係を語るうえで外せないのがアズ。

アズラエルは俺の幼馴染だ。でも、俺としては、アズは幼馴染というより「ママン」と言ったほうがしっくりくる。それを言うと彼は激怒するけど。彼の兄妹たち、スタークやオリーヴも、きっと頷くはずだ。

だって幼いころから俺は(俺というよりスタークとオリーヴも)アズの作るごはんを食べて育ってきたからだ。俺のママ、アナクルはとても料理なんてできるひとではなかったし、(俺がむしろ彼女専用に作られた病院食を三度、食べさせてあげなきゃならなかった。)アズのママのエマルさんの作る料理は、殺人兵器だった。だから必然的に俺たちはアズが作ったごはんを食べていた。今でもおふくろの味っていうと、アズの作ったコーンスープを思い出すんだ。これはアズには内緒だけれど。

彼は、豪快で面倒見が良くて、彼ほど兄という名称がふさわしい男もいない。でも実は繊細で傷つきやすいところもある。

俺はそれを知ってる。

スタークはアズに憧れていて、結構アズのまねをしたがる。本人は認めないけど。オリーヴはしたたかで、ユーモアがあって、兄貴二人が大好きだ。

 

で、そのアズがメロメロに溺愛してるルナちゃん。

彼女は――正直、掴みきれない。女性は永遠の謎だというけれど、彼女は生命体として謎に満ちているような気がしてならない。

どうして、彼女の頭から時折、ウサギ耳としか思えないようなものが生えているんだろう。たいていそれは、彼女がぼうっとして、遠くを見ているときなんかに表れる。

 

――ルナちゃんのことを考えるとカオスに陥るのでやめようと思う。

 

 さて、気を取り直して。

友人たちというと、オトゥールやミランダたちのことも話したいし、宇宙船内で友人になったミシェルやロイド、キラとリサ、ヴィアンカやマリアンヌ、ラガーの店長のことなんか話したいけど、紙面が足りないというので次回に回そう。

グレン? 彼は俺たちの一つ上で、L18の名門、ドーソン家の嫡男だ。俺はドーソンというだけで差別はしたくないが、彼はアズとは仲が悪かった。アズを殴ったこともあるし、俺もあいつは嫌いだ。

言うだろう? 理由なんかない。でも虫が好かないヤツってのはいるんだ。

え? ロビン?

ああ――あれは害虫だ。

 

 ……さて。

 一番触れたくない人間のことを書かなければならないような、そんな感じがしてきた。

 なるべく、俺の元職場のことには触れたくなかったが、致し方ない。

 

 まず、今俺の代わりに心理作戦部の副隊長を務めているのはベン・J・モーリス。

階級は軍曹だ。彼は俺と同じB班所属で、一年前、エーリヒにスカウトされてきた。

 性格は、難物ぞろいの心理作戦部において、比較的常識人。

 彼は「前職場、海軍のとある部隊において、だれも三日と耐えきれなかった理不尽な上司の命令に一年間、耐え抜いた」という実績を買われて、心理作戦部にスカウトされた。

 彼にはほかに突出した特技はなにもない。だが俺は彼の実直な性格は貴重だと思う。

 今は、エーリヒの理不尽な命令につき従わされてる哀れな男だ。

 

 そして、エーリヒ。

 ついにこの男について記さねばならないのか。俺にとって、これ以上の苦痛はない。

 彼は、ロナウド家系列の貴族出身で、その冷徹な頭脳と物怖じしない性格を買われて、すでに学生時代から心理作戦部への在籍が決まっていたという話だ。

 彼は恐ろしく有能だ。だれも彼のまえで隠し事はできない。鮮烈な話術と思考の組み立てで相手をかく乱する。彼にはいっさいの感情がないのではないかと思わせるほど、鉄面皮だ。誰も彼が笑ったのを見たことがない。笑顔もなければもちろん泣き顔もしかめ面もない。

 心理作戦部のエーリヒと言えば、L18のほかの部署では震えあがる――心理作戦部に来て、彼の評判を尋ねるといい。

彼は紛れもなく変人であることがわかるだろう。

 

 先日、こんなメールが来た。

 毎週送ってる報告書にはなんの返事も寄越さないくせに、たまにこういったメールを寄越す。

 『生でキャベツを食すには、どういった方法が可能かね?』

 きざめ。

 彼が目の前にいたら即座にそう返すところだが、俺はメールを返すのも億劫になって、そのまま放置しておいた。おいたら、夕方までになんと百通を超える同じメールでフォルダが埋め尽くされていたので、俺は仕方なく返信した。『千切りはどうでしょう?』

 その後の返信はなかった。だが次の日、俺は朝早く、涙声のベンに起こされた。しつこく唸る宇宙船内の電話を取ったら、相手は心理作戦部からかけているベンだった。

 『クラウド軍曹! 助けてください! 昨日からB班総出でキャベツの千切りをさせられてるんです! 俺もう手が痛くて……。これいったいなんの意味……、』

 ミシェルがベンの大声のせいで起きそうだったので、俺は微笑をたたえて電話を切った。

 エーリヒは恐ろしい男だ。

 キャベツは胃によい。

 たったこれだけの理由で、B班を動かし、徹夜でキャベツの千切りという意味不明な行動をとらせることができる。ちなみに、その大量のキャベツは、揚げ物に添えられて軍部の食堂に出されたそうだ。

 「心理作戦部が刻んだキャベツ」として。

 無論、そのキャベツには「人の指が混ざっていた」だの「腐臭がした」だの、くだらないウワサが飛び交ったらしい。

 

 こんなこともあった。

 心理作戦部は、入隊条件が厳しいこともあってか、その部署を希望する人間が少ないのも事実だ。だから常に人材不足で忙しい。部署の人事移動が行われる春、軍事教練所やセンターに貼り出された、心理作戦部の人材募集ポスターは、だれもが避けて通るほど奇異なものだった。

 エーリヒの顔がででんと中央に居座り、(その顔は妙に彫が深くてまつ毛が長いと思ったら、化粧か何かを施しているのだった)周りは赤いバラで埋め尽くされている。

 そして、悪趣味としか思えないおどろおどろしいフォントで、「心理作戦部へようこそ!」と書いてある。

 

 ――その年の心理作戦部への入隊志願者はゼロだった。

 エーリヒ自らが監修、プロデュースしたそのポスターのせいだとは、俺以外に彼には言えなかった。彼は俺に指摘され、「そうか」と頷いた。ちなみに、その日B班の執務室にはバラが飾られていた。元気がないと思っていたら。俺は気づかなかった自分に舌打ちした。まさか、振られた日にそれを告げなくてもよかっただろう。

 「いや、いいのだ」彼は言った。「あのポスター趣味悪い、と言われて振られたのでね……」

 

 いや、ポスターは言いわけだろう。

 俺は、そこまで言うほど無神経じゃなかったが。

 

 エーリヒについて語りだすと、また本が一冊刊行されてしまう。

 最後に付け足しておくが、彼は人望厚い隊長であることは間違いない。

 

 おおざっぱだが、以上が、俺の身近な人物における考察だ。

 苦情は受け付けてない。





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