「それはほんとうか!?」

なぜそれを早く言わん! とオルドは怒ったが、ケヴィンも、今の今、思い出したのだ。

「カーダマーヴァ村の付近は、今はL20ではなく、L19の管轄下だ」

「はい」

フライヤもうなずいた。

「L20は、首都のほうにいます。今は、L03そのものが、ものすごく物騒ですから」

「どうする」

オルドはふたりに聞いた。

「L03まで、行くのか」

「……」

双子は、真剣に考えた。顔を何度も見合わせ、そっくりな顔の、互いの意志を、たしかめあった。

そして――答えた。

「――行きます」

オルドもしばし双子の顔を見つめ――「わかった」とうなずいた。

 

「気を付けてくださいね。アーズガルドさんの保護下で探しに行く分にはだいじょうぶとは思いますが――今、L03はほんとうに、危険ですから」

L03にいるかもしれないって、言っちゃったあたしがいえることじゃないですけど、とフライヤは焦り顔で付け足したが、

「いいえ。フライヤさん、これでまた、可能性が見えてきました。ありがとうございます」

ケヴィンの言葉に、フライヤは照れた顔で笑った。

 

 

 

 「あ、あのっ、あのっ、また今度――伺ってもいいですか」

 「もちろんです! あの――これ、あたしのメールアドレスです。最近忙しくなっちゃって、すぐにはお返事返せないかもしれないけど、メールください! 待ってます!」

 「はい! メールします! あ、一応、これ、僕のメアド……」

 名刺交換でもするように、メールアドレスを書いたメモを交換し、二人とも独身で、恋人もいない間柄だったら、よもやカップル成立!? とでもなりそうなくらい、アルフレッドとフライヤは意気投合していた。

 

 「まったく……何しに来たんだかな」

 オルドは最初から最後まであきれ顔だったが、もう何も言わなかった。いう気も失せていたのかもしれない。アルフレッドは、何度もお辞儀をしながらハイヤーに乗り込んだ。フライヤも、門の外に出て、いつまでも手を振ってくれた。

 「しかし、少尉さんなんていうから、どんな怖い女の人が待ち構えてるかと思ってたから、ほっとしました」

 あいかわらず口の軽いケヴィンが、正直な気持ちを話すと、オルドは鼻で笑った。

 「あの女も、軍事惑星じゃ、特殊な経歴の持ち主だ。――だいたい少尉ってのは、おまえらの想像通りだよ」

 

 L19からいったん、L22のホテルに戻った。オルドは明日の朝来ると言って、ロビーで双子と別れた。その日はふたりとも、ふたたび意識を失ったように眠り、朝起きたら、ソファでオルドが新聞を読んでいた。

 ルーム・サービスで朝食をとったあと、ナターシャに定期報告をし、辺境惑星群に向かうことを告げると、当然のごとく心配された。だが、ふたりの決意が固いことを知ると、最終的にはお金の心配だけをして、電話を切った。

 編集者のコジーのほうは、オルドがガイドについていることを知ったときから、不要な心配はしなくなった。

 アルフレッドとケヴィンは、通帳をつきあわせて、金の算段をした。バンクスが振り込んでくれた金額は、ゼロのけたが違っていたというのはほんとうで、あと二ヶ月は、なんとかなりそうだった――突然、多額の出費が襲ってこなければ。

 しかし、あんな記事を書くほど金に困っていたのなら、こんなにバイト代を振り込んでくれなくてもよかったのに、とふたりは思った。

 

 「もしかしたら、アミザからもらった報酬を、ふたりの口座に分けたのかもしれねえ」

 オルドは言った。

 「ATMからおろせば、その時点で足はつく。バンクスは持てるだけの現金を持ち、口座はゼロにして、逃亡した」

 双子は、ごくりと息をのんだ。

 「逃亡中に金がなくなって、あの記事を書いた――出版社から、L22のスペース・ステーションに現金書留で金をおくった形跡がある。おそらく記事の原稿料だろう。なにもかも、失踪前の話で、出版社もバンクスが消えてしまうとは思っていなかった」

 「……」

 

 オルドは、話を変えた。

 「ところで、俺は、L03にはいっしょに行けない」

 「えっ――!」

 急に、双子の顔が気弱になったのを見て、オルドは苦笑した。

 「軍事惑星群内なら、仕事の合間におまえらの面倒は見れるが、L03にいくとなりゃ、カンタンに、こちらへ帰れなくなるからな。――まァ、最後まで聞け。L03への渡航は、いま、政治的混乱もあってむずかしい。しばらくL09で待機することになるだろう。そのあいだに、俺も、L03へのガイドを探す。俺の代わりになるヤツをな」

 

 「あの――昨日聞けなかったけど――フライヤさんは、無理でしょうか――」

 L20の軍が王都に駐屯しているというなら、そこまででもいい、連れて行ってもらえないだろうか。

 アルフレッドの言葉に、オルドは首を振った。

 「それは無理だ。フライヤはきのう、それを提案しなかったろう。彼女にもわかっているんだ――今、L03が相当あぶねえってことはな。彼女はおまえらを王都までは連れていける。だが、その先の責任は負えねえから、口にしなかったんだ。俺が探すのは、おまえらをL03まで渡航させ、危険な目に遭わせずカーダマーヴァ村まで送り、そして、バンクスの捜索に協力し、L22まで無事に帰らせることができるガイドだ。それが見つからない限りは、おまえらをL03に行かせることはできねえ」

 

 ケヴィンは目を見張り――それから、また真剣な顔になって、頭を下げた。

 「ほんとうに――オルドさん、なにからなにまで、」

 「……」

アルフレッドも神妙な顔で、オルドを見つめた。礼を言いたくても、言葉が見つからない様子だった。

ふたりは、オルドなしでは、ほんとうに何もできなかった。感謝の言葉もない。オルドは、金銭的要求もせず、ただ、恩人であるルナへの借りだけで、双子のために動いてくれているのだ。

 

「……オルドさ、」

オルドは不機嫌にさえぎった。

 「最後まで聞けと言ったろうが。礼は、バンクスが見つかったら言え! ――一ヶ月は、L09に足止めを食らう覚悟はしておけ。それから、昨夜、カーダマーヴァ地区に駐屯しているL19の軍に問い合わせてみたが、カーダマーヴァ村付近の街に、今のところバンクスらしき姿は見られない」

 オルドは本当に行動が早い。もう、連絡をつけてくれていたのか。

 「そ、そう、ですか」

 「おまえの言った情報は、ウチで留めてある。よそでは絶対口にするなよ。マッケランとドーソンに知れたら、あいつらもL03に顔を出しちまう。フライヤにも言わないよう、かん口令を敷いておいた――まァ、あの様子じゃ言わんだろうが」

 双子は顔を引き締めて、うなずいた。

 「カーダマーヴァ地区の、出入りの住民を細かにチェックするそうだ。おまえらは、あっちで、ロナウド家の軍と合流することになる。いまのところ、バンクスの気配すらねえが――それでも行くか?」

 「行きます」

 二人は迷いなく返事をした。

 

 結局、L18には入れない。なぜなら、L18は、バンクスが消えた可能性がいちばん高い場所だから、四名家の捜索隊が交錯していて、顔の割れているケヴィンやアルフレッドが行動するのは危ない。ドーソンの巣であるL18で、バンクスにかかわりのあるふたりが行動するのは正気の沙汰ではないと、ドーソンに見つかりでもしたら命はないとオルドは言い、彼らがL18に行くことは、ピーターもコジーも、許さなかった。

 ふたりにL18への渡航チケットは出ない。ピーターが、それは阻止すると言った。ふたりの安全のためだ。

 だとしたら、あとは最後の可能性であるL03に行ってみるしかない。

 ふたりにはもう、それ以外、バンクスが行きそうな場所は見当がつかないのだ。

 

 「――行ってきます」

オルドは、いつもの不敵な笑みを浮かべて、なにも言わずに、ふたりにL09行きの渡航チケットをわたした。

 

 



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