「グレン! グレンちょっとここいて! あたしミシェルたちに確認してくる」 ルナは大慌てでぴこぴことリズンへ走ったが、グレンが後ろから「遅ェなあ。なんであいつこんなに走るの遅ェんだ……」と、しみじみ呟いているのは聞こえなかった。 「あの……、」 グレンが声を掛けられて振り返ると、そこにはドレッドヘアの美女がいた。 褐色の肌の女は好きだ。身長が高いのも、俺と釣り合う。 女性に対しては愛想が良くなるのが軍事惑星の男、グレンも漏れなくそうだった。 「ルナさんはどこへ?」 「ああ、いまリズンのほうへ。俺が受付預かってますが、どうか?」 ドレッドの美女は、あくまで確認するように言った。 「わたくしたち、パーティーが始まった最初から来ているのですけれど」 「はい」 「このパーティーは招待客のみのパーティーで、主催はルナさんですし、リズンのイベントではないですよね?」 「俺もそう聞いてますが」 「わたくしたちの後ろでバーベキューしている方たち、――十人ほどの若い方たちですけど、何か勘違いされているのでは」 「――と、言いますと?」 「いきなり入ってきて、受付を通らずあそこに席を取ったのです。どうも、リズンのバーベキューパーティーだからいいというようなことを仰ってらして。一応知り合いがこの中にいるみたいなのですが、受付を通らず来たというのが気になって。盗み聞きのようで、申し訳ないですけれども。あの四人のカップルの方もそうらしいですよ。招待客の友人なら参加OKとのことでしたので、どなたかのご友人でしたら、わたしたちがでしゃばるのも失礼ですし――ルナさんに確認しにきたのです」 「おいウサちゃん!」 今度はラガーの店長がやってくる。ラガーの店長は、受付にグレンが座っているのを見て「ウサちゃんは?」と言った。 「いまリズンに行ってる。どうした」 「あそこの! あそこのカップル、招待客じゃねえぞ。こン中に知り合いいるわけでもねえ。これは私的なパーティーだって言ったら、目ェ丸くしてたぞ」 「帰ったのか?」 グレンも思わず聞きかえした。 「いや、食った分だけは払ってもらったぜ」 そういって、ラガーの店長は四人分の、酒を飲まない人用会費を、受付のテーブルに置いた。 「酒は飲む前だったし、だけど、肉は食っちまってたからな。焼いた分だけ紙袋に入れて手土産に持たせて、ビールひと缶ずつつけて、金はもらった」 「さすが店長」 「俺ンとこにカクテル注文しに来て、「あんた誰の知り合いだ」って聞いたら目ェ丸くしてよ。あの十人組の若ェ連中が、あのカップルに「大丈夫だ」って言ったらしいな。リズンのイベントだって、変な勘違いしてやがってよ、大丈夫だって言われたから座ったのにってぶつくさ言ってたぜ」 ぶつくさ言っても、ラガーの店長怖さに、それ以上言えずに帰ったのか。 「なあ、ちゃんと招待客みんなにこのパーティーがリズン主催じゃねえって伝わってんのか? あの十人組はこン中にしりあいがいるんだろ? これ以上お呼びでない人間をふやされちゃたまんねえから、俺がちゃんと訂正してきたんだが、あのガキどもすっかり酔っぱらいやがって、人の話を聞きゃしねえ。だれだ、あの十人組連れてきたヤツあ」 「俺は知らん。だが、あの家族連れもたぶん同じパターンだ。ルナのヤツ、それを言ったら、慌てて確認しにリズンに行ったんだよ」 「まあ……。じゃあ、ぜんぜん関係ない人が混じっているのですか?」 「みたいだな」 「いくらダチ呼んだって言ってもよ、礼儀知らずは困るぜ。黙ってみてりゃ、酒も勝手に持っていきやがるし、食い散らかし放題だ。リサちゃんをコキ使いやがってよ。これはみんなでやるパーティーだろ? リサちゃん使いっ走りにしてどうすんだ」 そうこういっているうちに、ルナが、レディ・ミシェルとナターシャを連れて、アントニオとともにやってきた。 「ごめんごめん。なんだか、困ったことになってるみたいだね」 俺がちゃんと確認しなかったから、とアントニオがエプロンで手を拭き拭き言った。 「招待制にしといてよかったね」 こっそりとレディ・ミシェルがルナに耳打ちし、ルナはそうかも、と思った。招待制じゃなかったら、なしくずしに人が増えていたかもしれなかった。 アントニオのアドバイス通りにしておいて、本当によかった。 ルナも落ち込んで、少しウサギ目になっていた。ちゃんと確認しなかった自分が悪かったのだ。 「ナターシャちゃん、ミシェルちゃん、あの家族連れと十人組、見覚えある?」 「あたしが受付にいた時は、あのひとたち、いなかった」 「あたしも」 二人とも首を振る。常に受付には、ルナかミシェルかナターシャかがいた。ということは、あそこのグループは、受付を通らずに、勝手に始めたということ。 アントニオは、ラガーの店長とカザマと、グレンから話を聞くと、ラガーの店長が受け取った会費をまとめて会費の袋に入れ、 「ありがとうオルティス。助かったよ。じゃあ、彼らは役員さんたちの知り合いでもないんだな。俺、ちょっとお話して引き取ってもらうわ」 「おう。誰の知り合いか知らねえが、ちょっと遠慮がなさすぎらあ。俺が言うとカドが立つからよ。頼むぜ」 「わたくしも行きましょうか?」 「だいじょうぶ。ミーちゃんは、バーベキュー楽しんでてよ」 「じゃあわたくしは、ルナさんが戻ってくるまで受け付けをお預かりしています」 「それはありがたいな。頼むよ。じゃ、ルナちゃん、行こう」 「うん」 「ま、待って……!」 一番ウサギ目になり、青ざめていたのはナターシャだった。ナターシャは受付係とはいえ、ほとんどリズンの調理場にいたから気づかなかったのだ。 あの十人組の中に、妹を見つけて、ショックのあまり卒倒しそうになっていた。 「あ、あの十人、イマリさんたちだわ……。ブレアもいる」 「ええっ!? あそこの十人、ナターシャってコが呼んだんじゃないの!?」 受付にきたリサが、グレンに言われてそれこそ目を丸くした。 「なんだ。おまえも知ってるやつらなのか」 リサは、昨夜の肉の串づくりには参加していないから、ナターシャのことは知らないのだ。 「ン。あんま仲いいコたちじゃないけど。でも、ナターシャってコの妹? っていうブレアってコもいたし、だれに呼ばれたのって嫌味たっぷりに聞いてやったら、ナターシャだっていうから。ミシェルに聞いたら、ナターシャって子はいるっていうし、そんな姉妹の裏事情知らないわよう。でも、受付通らないで勝手にやってるって、あいつららしいわ。あたしのこと従業員扱いして何も手伝わないし」 「あいつららしいよね」 レディ・ミシェルも肩をすくめた。 「マタドール・カフェの時だって、あいつら勝手に乱入してきたし」 「俺はてっきり、おまえらの友達かと思ってた」 「友達じゃないよ。てか、きのう頑張ったお肉、ほとんどあいつらに食われたわけ!? なんかそれがむかつく……」 「ごめんってば。知らないであたし、言われるまんまにお肉運んじゃったんだけど……。どうしよ……マジごめん」 「しかたないよ、リサは知らなかったんだし」 「なんとかなるさ。あの辺に、おカタすぎる役員さんもいらっしゃることだしな」 チャンが目くじら立てはじめたら、恐ろしいことになりそうだ、とグレンは役員の集団のほうを見やった。すでにチャンが臨戦態勢に入っている気がしてならない。 あの男の口が開き始めたら、徹底的にやられる。 「そうですね。最初に、「あの人たち受付通ってない」と言い出したのはチャンさんですから」とカザマが笑った。
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