「ごめんね、アントニオ……。あたし受付だったのに……」

ちゃんと見てないあたしが悪かったでした、とルナが落ち込んだ声で言うと、

「ルゥのせいじゃねえ「ルナちゃんのせいじゃないよ「ウサちゃん「嬢ちゃんのせいじゃねえ」

と、アズラエルとアントニオとラガーの店長とバグムントの声が被った。「……だな」とバーガスは痛む足を押さえながら続けるのが、精いっぱいだった。

 

「ま、これだけの人数で、だれがだれの友達か分からなくなってれば、仕方ないさ」

 今日は友達同士のイベントですって張り紙は、しといたほうが良かったかもね、とアントニオは言い、

 「やれやれ……あとは、あの連中だね」

若い連中は酔っぱらって気が大きくなっている。なかなか厄介な相手になっていることは違いなかった。

「まさかイマリちゃんたちだったとはねえ。気づかなかったよ。お得意様だけど、今日はリズンのイベントじゃないからね。今日のところは帰ってもらおう」

 

 「あの子たち、呼ばれざる客なのね。まったく、こっちの手土産、勝手に開けて持っていくもんだから、ここが船内じゃなかったら、叱り飛ばしてるとこだわよ」

 役員なのって、こういう時辛いわよね、とヴィアンカは憤慨したように言った。

 「あたしが絞り上げてきたげようか?」

 レオナが筋肉の盛り上がった頼もしい腕を晒すと、

 「やめとけ。おまえが行ったら死人が出る」とバーガスにすかさず突っ込まれ、レオナの華麗な回し蹴りが夫の脇腹にヒットした。

 

 「あ、あたしのせいだから――あたしが行ってきます」

 

 ルナが、かなり低い位置から毅然と頭を上げて言った。

 「あ、あ、あたしも――あたしも、行くわ」

 あたしがいるから、ブレアが邪魔しに来たんだもの。あたしのせいだわ。

 ナターシャは、ほぼ涙目だったが、今までにない険しい目をしていた。ブレアに対して、何らかの覚悟を決めているのは明らかだった。ルナとナターシャは手を取り合い、ごくりと喉を鳴らすと、

 「ちゃ、ちゃんとおんびんにすませます!」

 声高に叫んで、てとてと歩いていく。

 「僕も行くよ!」とアルフレッドが追った。

 

「ちょ、ちょっとルナちゃん、待ちなよ……」

 アントニオが止めたが、ルナは一度ふん! と気合を入れて、「だいじょうぶ!」と肩をいからせて歩いていく。

 

 「う〜ん。気持ちはわかるが、頼りない背中だねえ」

 とレオナが呟いた。

「こっちが穏便にすませたくてもさ、あのガキどもは舐めてかかってくるよ」

確かに、後姿を見る限り、小動物が三匹。しかもだいぶぷるぷるいっている。アルフレッドもどっちかいうと小柄。小動物と言ってもいい。これでは、舐めてくれと言わんばかりの様相だ。

アズラエルが何も言わず、のっそりとルナとナターシャの後をついていった。

 

カレンもルーイも、「まあルナなら大丈夫と思うけどね。でもアズラエルはキレそうだから、ストッパー必要だよね」と言いつつ、ルナの後を追うために腰を上げた。

「ルナを傷つけたら、あたしが許さないからね!」とエレナが腕をまくって立った。「あたしも!」とジュリが両腕を上げて立つ。

 ヴィアンカが、「仕方ないわねえ……、」と言いながら立ち、リサとレディ・ミシェルが「あたしらもよく見てなかったのが悪いんだしさ!」と言って肉の串を頬張ったまま歩き出した。

 レオナも黙って後を追った。なんだか指先がコキコキ鳴っているのだが、そこは気にしない。

さっきまで一緒にいたセルゲイがいないことに、カレンもルーイも気づかなかった。

アントニオも、いなくなっている。

 

「何をしてるんです。貴方がたは」

 チャンが、眼鏡を押し上げながら、立ち尽くしているバーガスたち強面連中に向かって言った。彼はすでに、バーガスたちよりも数歩前に進んでいた。

 「小さな少女を矢面に立たせるのが、L18の男ですか?」

 

 

 エドワードたちも立とうとしたが、「そんなに大勢で行かなくていいだろ。すぐすむさ」とロビンに言われ、椅子に座りなおした。役員たちが、リズンにカレーを取りに行き、マックスとユミコが、エドワードたちのために串を焼いてくれている。

 「私たちは、ここでおとなしく待っていましょう」とマックスが言った。

  それにしても、ぞろぞろとあの人数でこられたら、いい迫力だ。

 いくら図々しいあいつらでもさっさと帰るだろう、とエドワードたちは思ったが、それが甘い考えだとわかるのは、すぐだった。

 

 

 

 

 うん。こわくないこわくない。

 ヤンキーなんて、こわくない。

 ヤンキーに比べたら、アズは大魔王だもの。

 

 アズラエルに対して大変しつれいなことを呟きながら、ルナは自分を励ましていた。

 椿の宿での夢とか、エレナさんに襲われたときのほうが、よっぽど怖かったはずだ。

 自分は、けっこう「しゅらば」をくぐっているのだ。

 だから、ヤンキー程度、なにほどのことか。

 

 「ルナ……。ルナちゃん」

 ナターシャが、俯いたままルナに呟いた。

 「ごめんね……。あたしが来なかったら、こんなことにならなかったのに」

 「だいじょうぶよ。ちゃんと、言えばいいんだから。今日のは貴方たち招待してないって。バーベキューするなら、ちゃんとお金払ってって」

 「あたしのせいだわ……。迷惑かけてごめんなさい……」

 「何言ってるのよ! 友達じゃない!」

 ルナは、思わず口にしていた。アルフレッドが、「俺だっているのに。元気出せよな」と呟き、アズラエルを後ろでくっくと笑わせた。

 アズラエルがついてきているとは思わなくて、ルナが思わず振り返ると、

 「俺は何もしねえから。おまえらだけでなんとかしろよ?」

 と眉を上げて言った。

 ルナもナターシャも、アルフレッドも振り返ってびっくりした。

 アズラエルだけではない。

 

 頼もしいとしか言えない味方が、みんな、ぞろぞろと、後ろをついてきているのだから。

 

 ――そうして。

 

「……あら」

「……あン?」

 ちょうどそのとき、グレンとカザマがその長身を縮めて座っている受付前の道路に、この地区には場違いな、大きなリムジンが横付けされたことは。

 受付にいる彼らしか、知る由はなかった。