(――っは、はっ、……はっ、あ、)

 腕の拘束を緩めてやると、ルナの腰が勝手に動く。さっきもそうだ。セルゲイもがっついたが、ルナのほうの飢えも相当だった。ルナが身を起こし、自分の頼りない腕をつっかえ棒にしてセルゲイの腰の上で座る。

 セルゲイが、右手でルナの顎を掴み、上げさせた。頬を撫でる。

 「……君のお兄ちゃんは、よっぽど君を甘やかしてたんだな」 

 たぶん自分だ。反省しよう。

(……?)

 ルナが首をかしげている。そのしぐさも可愛かった。

 

 (あにさま、)ルナがもどかしげに腰をくねらせる。(はやく、して)

 「ダメだよ。……おにいちゃんは我慢を教えてくれなかったの」

 (はっ、……あ、あ、ふ、ぅン、や、早くして、)

 「そんなに早くイッちゃったらつまらないでしょ。もっと楽しませてあげる」

 (ふ、あぁあ……!)

 セルゲイは身を起こし、ルナを抱き寄せ、ルナの左手に右手を絡ませた。ルナの小さな指に自分の大きい指が絡まると、ヘタに力を籠めれば折ってしまいそうな気がして怖いが。

 ルナは何とか背伸びしてセルゲイにキスしようとするので、セルゲイは苦笑した。

 「そんなにキスしたいの?」

 ルナは涙目だ。いつになく「お兄様」がイジワルなので、戸惑っているのだろう。

 

 「――しょうがないなあ……」

 セルゲイは左手で、さらにルナの右手の手首を掴み、ルナの唇を啄んだ。しかし、深いキスはくれない。

 (……あっ!)

 ルナが甘い声を上げて身をよじらせた。セルゲイの腰が、ゆるく、動く。同時に、唇に与えられるより深いキスが、ルナの頬、首筋、耳の後ろに。でも両手が捕えられていて、うまく身体が動かせない。ルナの腰が、もどかしげに、小刻みに揺れる。

 「気持ちいいでしょ。……ね?」

 (や、ああ……、あ、に、さまぁ、)

 「ダメ、――もう少し我慢して」

 (いや、や、……もっと、)

 セルゲイは、ひどくゆっくりと腰を動かす。強く突き上げては、浅く揺らす。だがこのルナは、相当「お兄様」に慣らされているのか、なまじ優しい刺激では満足できないようだ。もっと強く、もっと、と何度もねだられて、セルゲイは苦笑した。

ルナは、セルゲイに縋りたいのだが、それができなくて、泣く。

 ルナのすすり泣きは暗い部屋に響いた。いますぐ腰を打ち付けたい気は満々だが、さっきのルナの声もかん高かった。隣の部屋に聞こえてはいまいかという冷静な頭が、今頃蘇る。

 

 (――まあ、いいか)

 

 夢みたいなものかもしれない。夢とは思えないほどリアルだが。

 「……おいで」

 イジメすぎては夢が終わってしまうかもしれない。セルゲイは、ルナの両手を解放すると、ぎゅっと抱きしめて、それからルナが待ち望んでいたキスをした。

 (ン……)

 深い、深いキス。ルナも夢中で舌を絡ませてくる。

 

 ……このルナちゃんは、せっかちだな。

 

 セルゲイは、なんとなくそう思った。どこか気品のある顔なのに、恥じらいも何もなく快楽に従順だ。積極的なのはいいが、せっかちすぎてキスは下手。本物の(?)ルナより大人っぽいのに、頭はヨワそうな気がする。

 ……可愛いから、いいけど。

 セルゲイは、勝手にさせていたルナの舌を退けると、ぬるりとルナの口の中いっぱいに舌を滑り込ませ、上顎を舐め、舌の裏を舐める。ルナがきゅうっと足を震わせて、セルゲイの腰を締めた。

 (ン、ン、ンンっ……)

 ルナの甘ったるい鼻声。口の周りの唾液を舐めとるようにしてキスを終えると、ルナがうっとりとした顔で見上げていた。

 

 「――口の周りベットベトだよ。……わかってる?」

セルゲイは、ルナの腰を支えると、一気に突き上げた。

 (……っ、! ひゃ、あぁんっ!)

 「……っは、」

 (あっ! あ、ああ、あぁあ、)

 ルナがセルゲイの腹の上で跳ねあがる。逃げそうになるのを捕まえて、押し込んだ。

 「逃げないで」

セルゲイの一オクターブ低い声に、ルナが蕩けるような悲鳴を上げる。悪いが、この先は優しくしてやれない。

 「っは、……はっ、」

 額を、玉のような汗が流れた。――終わらせたくないが、終わらせないと次ができない。

 セルゲイも、限界だった。

 (ああ、あ! もっと、あにさま、もっと……!)

 可愛すぎる。本当に。夜ごと愛したって言うのも納得がいく。

 「はは……」

 また中出しはまずいだろうな、とぼんやり考えながら、ルナの白い腹を撫でる。白くて細い腰が、ほとんど根元まで自分を飲み込んでいる。視界の暴力だ。今にも出そう。俺が先にイッちゃったらどうしよう。

幸いにも、ガクガクと揺さぶられるルナが、先に限界を訴えた。

 (だめ、もう、だめ……っ!)

 どっち、汚しちゃおうかな。セルゲイは、ルナの汗ばんだ白いおなかと、ピンク色の乳首が揺れている小ぶりな乳房を見比べたが、

 (セルゲイ……っ)

 「……――!?」

 セルゲイの臨界点突破は、致し方なかった。

(なかに、ちょうだい……)

 思わずルナを抱きすくめて、口を塞いでいた。(ン、あ、あ――っ!)

 ルナが、ビクビクと腰をうねらせた。「……っ!」それに誘発されるようにセルゲイもまた、ルナの中に放っていた。危うく、声をあげるところだった。

 (あ、――大好き)

 「……大好きだよ。愛してる」

 ルナの折れそうな身体を抱きすくめ、キスを繰り返す。

 

 ――セルゲイ、好きよ。大好き。

 

 そういわれた気がしたので、セルゲイも、「……ルナちゃん、愛してる」と言った気がするのだが、その後の記憶がない。

 

 

 「――!?」

 セルゲイは飛び起きた。

 いつの間にか、朝だ。いつもそうするように、起きた瞬間時計を探す。枕元の腕時計で時刻を確かめる。六時半。障子の隙間から、光がこぼれてくる。

 

 ――夢か?

 

 「……………」

 夢ではなさそうだ。

セルゲイは、別の意味で頭が痛くなりそうだった。昨日着たはずのキモノはすっかり脱いでいたし、この布団の汚れようが、昨夜のお盛んぶりを証明していた。この、腰の鈍い疲労感も。やたらスッキリした気分も。

 ルナが自分の肩に、快楽に堪えるためにつけた歯型も。

 すべてが、現実味を帯びていた。

 背中もちょっと痛い気がするので、爪痕でもついてるかもしれない。

 

 「……………」

 セルゲイは(彼にしては珍しくも)眉間に皺をよせ、ルナの姿を探した。昨夜限定の恋人は、すっかり姿を消していた。

 セルゲイはキモノを羽織り、立って、障子を開けた。

 ふわりと桜の香りに交じって、あり得ないはずの、濃厚な桃の香りがする。このあたりに、桃の木などない。

 昨夜の、ルナ姫の香りだ。

 「はあ……」

 セルゲイは、なんだか知らないがひどい疲労を感じて、しゃがみこんだ。