七十七話 バブロスカ〜エリックへの追悼にかえて〜




 

 バブロスカ〜わが革命の血潮〜が刊行され、早や二年の月日が流れました。あの本の執筆に全力を尽くされたエリック氏が亡くなられたのも二年前になります。

 あの本にはたくさんの反響が寄せられました。軍事惑星のみならず、辺境の惑星群から、L5系から、L7系から――とにかく、L系惑星群全土から、たくさんのメールや手紙が寄せられました。

昨今のL系惑星群の状況は、決して楽観視できるものではありません。L4系の原住民の反乱が勢いを増し、それが辺境の惑星群やL8系にも飛び火しています。いつL系惑星群全土を巻き込んだ戦争になるか――平穏な星の方々のなかには、S系惑星群に一時避難をしている方も多くなってきたと聞いています。

そんな中、L系惑星群の治安を守る軍事惑星群のかなめ――L18の高官たちが罷免され、牢獄の星L11に送られています。

そのために、鎮圧の軍が思うように動かず、彼らを釈放するべきだとの世論も大きくなってきています。

L18の危機は、ひいてはL系惑星群全体の危機と言っても過言ではないでしょう。

われらがL系惑星群の治安を守る、軍事惑星の出来事です。他人事ではありません。それは、私以上に読者の皆様が感じ取っておられたに違いありません。

しかし果たして、彼らの拘束を解くことが、正しい選択なのか――。

それはこの本を読み終わったのち、読者の方々がどのように感じるかに私バンクスは委ねたいと思います。

 

 わたくし、バンクスは、エリック氏と二冊目の刊行を約束しておりました。ですが、エリック氏は前作に、残された己の生命と死力を尽くされ、鬼籍に入られました。

 エリック氏の志を無駄にはすまいと、若輩ながらようやく二冊目の刊行にこぎつけました。それがこの本です。

 

 今回のこの本では、エリック氏との約束通り、バブロスカ革命から派生した数々の事件記録を追います。

前作にもわずかに取り上げました、「アンドレア事件」、「アラン少尉のバブロスカ裁判事件」、「少年空挺師団事件」です。

ですがアラン少尉の事件については、いまだ関係者も存命であり、時期尚早と感じたため、今回の本では記さぬことに決まりました。アラン少尉の出来事については、いずれ筆を執りたいと思います。

 

 前作は、エリック氏の体験談をもとに、第三次バブロスカ革命のできごとを中心に記しました。前作の注意事項にもあったように、ユキト氏および、バブロスカ革命の戦士たちは本名ですが、関係者およびユキト氏の本妻におきましてはプライバシー配慮のため、仮名とさせていただきました。

 

さて、読者の方々は、どれほど軍事惑星のことを知っておられるでしょうか。

今回の本では、前作が及ばなかった、軍事惑星群の詳しいシステムについても記していきたいと思っています。

 

 地球より、L系惑星群に移住した際、軍事惑星というものは存在しなかった、と言いましたら、大多数の方は驚かれるに違いありません。

 当初は、軍事惑星群はなかったのです。

 なぜ軍事惑星というものができたか――それは、諸々の理由がありますが、L系惑星群の原住民との共存ができなかった惑星において、原住民に対抗するための軍隊が必要になった、というのが主な理由と考えられます。

 警察星というのは初期から存在しましたが、原住民との争いが発展していくにつれ、防衛のための警察組織だけでは間に合わなくなったのだそうです。

 また、独自に軍事力をもった辺境の惑星群の一部の星や、L8系の一部がL系惑星群から独立のうごきを見せたため、L系惑星群中央組織の軍事力というものが必要になったのです。

 そこで、警察星と、辺境の惑星群の一部の星が軍事惑星群のために割かれ、そこが軍事惑星群になった、という記録が残っています。

 

 軍事惑星に移住し、L55の統治下において軍隊を作り組織した一族――代表格に、ドーソン、アーズガルド、マッケラン、ロナウドの名が存在します。

 軍事惑星の発展とともに、軍事惑星群も様相を変えていきます。

 最初はL18、19、20だけだった軍事惑星も、L17、21、22と増え、拡大化しました。

 

 L系惑星群の義務教育では必ず習うように、L18が軍事惑星群の中心であり、戦争やテロ対応の軍隊があります。惑星としての質量も軍事惑星内でもっとも大きく、我らが故郷、地球とほぼ同じ大きさで、人間が住める地域も一番広い星です。

 L19、20、ほかの軍事惑星は、L18の五分の一ほどの大きさしかありません。

 

年月が経つにつれ、星ごとの個性が色濃く出るようになりました。

ロナウド家が力を増したL19では、警察星との連携が強く、別名軍事惑星群警備星とも呼ばれます。警察星では間に合わない凶悪犯罪や、テロに対応する軍隊があるところです。

 マッケラン家は女系一族です。そのマッケラン家の力が強いL20では、女性に対しての特別措置があるため、自然と女性の軍人が多くなりました。今では、女性の軍事惑星という個性が強く出ているL20。

そして、L18では、ドーソン一族が権威を振るうようになりました。

 

 ドーソン一族は、代々、軍略に長けた一族です。でなければ、軍事惑星群の中央組織であるL18でのトップに立ち、あれほど軍事惑星群に根を張ることはできません。L5系から先の惑星群の方々には、にわかに想像しがたい話かもしれませんが、軍事惑星群は、軍事政権です。つまり、軍隊が一番強い力を持ちます。軍隊と政治が一つの権力に集中した独裁政権なのです。L18の軍隊が、ほぼドーソン一族の私兵だと言ったら皆さまは驚かれるでしょうが、そういっても差し支えないほどの権力なのです。

 

 今、軍事惑星が危機にあるということ。具体的に皆様方は理解されておられるでしょうか。

 いまL18では、将校のほぼ六割が、L11に投獄されているのです。

 元帥、大将、中将、少将から左官、尉官にいたる軍の幹部ともいえるべき将校が、ほとんどL18の要職から外されたのです。つまり、ドーソン一族とその姻戚関係にある将校ほとんどが、L18から消え失せたということになります。

 

 L19とL20は、軍事政権には変わりありませんが、L18のような独裁政権とは少し違います。L19ではロナウド家、L20ではマッケラン家の力が強いですが、ロナウド家とマッケラン家の人間は、めったに将軍位につきません。政治と軍事を分けているのです。両家は首相を多く輩出し、政治的実権を握っていますが、軍隊とは連携するだけで過度な干渉はしません。二権分立の傾向が大きいのです。

 

今、L19では、ロナウド家のバラディア氏が中将の位にありますが、彼は長年軍に貢献しながらもずっと大佐のままでした。マッケラン家でも、L20の首相も務めているミラ氏は、大佐の位のままで、将軍位になることはありません。

 

ですが、ドーソン家は違います。元帥から少将に至るまで、およそ六割がたドーソンの血筋の者です。政治も軍事も独占体制の惑星――それがL18でした。