一回目。 合コン、というよりパーティー? だって、全部で五十人くらいいたんじゃないかな。カフェ丸ごとひとつ、貸し切って。 あたしは、今世最高のモテ具合というものを経験した。だって、おもしろいくらい寄ってくるんだもん。五人? 五人できかなかったと思う。でも、あんまり囲まれすぎて、正直誰が誰だかわからないまま終わってしまった。キラは、不発だったらしい。好みの男はいなかったそうだ。ルナは、最初から最後まで一人の男の人と喋ってた。すごいじゃんルナ、とか思ってたら、パーティが終わる直前に泣きそうになってあたしのとこに来て――隠れながら一緒に帰った。「あの人、いきなりヤラせてっていった」 ……お気の毒に。 アレが、リズンのアントニオだって、ルナもあたしも、けっこうあとになるまで気づかなかったんだよね。 二回目。 一回目があんまり人数が多かったから、リサが企画した合コン(男四人、こっちも四人。)で、居酒屋で会ったけど、男三人がリサ目当てだったらしく。(このことはリサ本人も知らなかったそうだ。)合コンらしい合コンにもならずに、キラが怒って帰って終わった。ルナは怒らなかったけど、早々に帰りはした。ヘコミはしてるみたいだった。残りの一人はあたしにくっついてきたけど、顔のことしか言わないので、(美人だとかなんだとか)お付き合いは断った。 多分このころからだ。キラがごはん一緒に食べなくなったの。 三回目。 リサが二回目のことを気にして、キラに男を引き合わせた。今度は一人ずつにしようとしたらしい。キラも意外とネが優しくて断れない子だし、リサの顔も立てて、その男と一回は付き合ってみたが、三日で別れた。男の方がキラについて行けなかったらしい。あたしは、キラは同じ趣味のグループできっと彼氏できるから、放っておいてあげなよと言った。リサは納得したようだった。 そしたら次はあたし。あたしは丁重に断った。そしたらリサは怒ったのか、次の日は口きいてくれなかった。 今度はリサはルナを連れて、「マタドール・カフェ」に行った。ルナを、L56から来た男の子と会せようとしたらしい。あの人は最初の合コンで見たから、あたしも知っていた。おとなしそうな子で、ルナに話しかけに行きたいけど、アントニオが独り占めしてるのでもじもじしてるうちにパーティはお開きになってしまった。優しそうで大人しそう。ルナと同じタイプみたいで、ルナには合いそうだった。 しかし、なんの因果か、(かわいそうに)ルナは、その日にグレンに襲われたんだったね……。(遠い目) それが原因で、結局その男の子のことはうやむやになってしまった。 こうして、今までのナンパ歴を思い出すと、ろくでもない感じばっかりする。 「ねえ――ルナ」 ルナがこの一週間、アズラエルと夜二人きりで残されて、いったいどうなったのか大体見当はつく。 レイプこそされなかったものの、実はあたしは少し心配してた。あんな大柄なオトコに押し倒されたらルナなんて潰れちゃう。ぷちって。いや、シャレじゃなく。 クラウドは、「アズはそんなことしない」って言ってたけど、分からないじゃない。男だもん。 「――ええっとさ、あたしらがさ、クラウドとかミシェルとかとつきあったからっていって、ルナも数合わせでアズラエルと付き合うこと、ないんだよ?」 ルナは、ぐっと、ご飯を喉に詰まらせた。 「ルナはさ、ルナが自分で選んで、ルナの好きな人とつきあいなよ。アズラエルがおっかないのは分かるよ。だからさ、言えないんだったら、あたしとクラウドがついてるからさ、つきあう気ないんだったら、アズラエルにそういいなよ」 この一週間、アズラエルがルナにかわされて、日に日に怒り心頭になっているのはあたしも気づいていた。ルナの部屋に泊まるはずのアズラエルが毎日、自分の部屋に帰ってくるからだ。帰ってくるのは一瞬だけ。着替えて、すぐ出て行ってしまう。クラウドは、「たぶんラガーに行ってるんだよ」と言った。だとしたら、一晩じゅう、アズラエルはそのバーにいるのか。 アズラエルも気の毒だと思うし、――あたしたちが、一緒に夕ご飯を食べるのも、もう限界だ。 「ね? そうしなよ。ルナだってさ、いつまでもごまかしきれるとは思ってないんでしょ?」 ルナは、しばらく沈黙していたが、やがて、ゆっくりうなずいた。 ぽりぽりぽりぽり。ぬか漬けキュウリを食べるルナが、なんだかウサギみたいで、あたしは笑ってしまった。その笑いに元気づけられたのか、ルナも笑う。 やっぱり、笑わなきゃね。笑わなきゃ、元気が出ないよ。 あたしはその夜、クラウドと一緒にアズラエルの説得を試みるつもりだったけど、その夜は、クラウドが急にジャズバーから呼び出されて、仕方なくそっちへ向かう羽目になった。そういうときにかぎって事件は起こるもの。 アズラエルがついにルナにキレたのは、その夜だった。 そのあとも、マタドール・カフェであたしは、ルナとアズラエルの、お互いの誤解を解こうとしてみんなを集めてみた。けど、イマリやアズラエルの知り合い連中のせいで事態は悪化した。 もうさ、ここまで来ると、縁がないって思えたらいいよね? でも、アズラエルがルナを諦めきれないのは、あたしもクラウドも知ってた。 挙句に。 アズラエルが、自分の仕事先から、リゾート宿泊券なんか調達してきて、あたしをルナから引き離そうとしてる。 リゾート地へ出発する朝、あたしは、本当はルナを一緒に連れて行こうとした。でも、IQ180だっていうクラウドには、あたしの考えはお見通しだったみたいだ。 クラウドは、あたしの部屋へは寄らずに、リゾート地、K08へ出発してしまった。 不貞腐れたあたしの横で、クラウドは困ったようにちらちらとあたしを見てる。 やがて。 「ねえ、ミシェル」タバコ吸っていい? とクラウドが聞く。あたしはいいよと言った。ちょっとあたしは驚いた。クラウドもタバコ吸うなんて、思ってもみなかった。 最初は、この綺麗なモデルみたいな男が、あたしを好きだなんて半信半疑だった。 口調はロビン師匠みたく柔らかいけど、でも、ロビン師匠みたいに根っこの優しさが表れた声じゃない。ときに、ものすごく機械的に感じることがあるんだ。 ルナも宇宙にぶっ飛んだ思考回路をしてるけど、クラウドはもっとそんな感じ。でも、ルナみたいにふわふわした感じじゃない。すごく機械的――ロボットみたいなの。 最初は、顔が整い過ぎてるって言うか、綺麗過ぎるせいだと思った。でも違う。あんまり、人間味を感じさせない。すごく考え方も割り切ってて、あたしに対する接し方も、バランスが取れ過ぎていて――コンピューターみたいなのに、あたしのことを、小さいころから夢で見てた、なんてコドモみたいなコトを言う。 ギャップといえばギャップ。でも、理解不能な人間であることは確か。 軍事惑星の、心理作戦部の副隊長だったなんていわれても、あたしにはちっともわからない。ただ、心理作戦部、なんてすごく頭のいい人が入る部署であろうことは、想像できる。 たしかにクラウドは頭が良かった。一緒にスーパーに買い物に行くと、カートに入れた品物を、片っぱしから計算しちゃうの。レジに着くころには、ぜんぶでいくらかわかっちゃって、あたしに合計を耳打ちしてくれる。無意識にやってるのが怖い。 あと、記憶力がすごくいい。本を読むスピードが尋常じゃない。 分厚い本や、レポートみたいのを、パラパラパラーってめくって、「全部読んだ」。 内容、ぜんぶ暗記してるんだから、あたしはほんとうにびっくりした。
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