――あたしはキリン。 白鳥じゃなく、キリンなの。なぜなのか考えたこともない。 あたしはキリン。 首が長くておおきいから、遠くの景色までよく見える。 山の向こうに、海が見える、川も見える、花畑も見える。 だけどキリンだから、白鳥のみんなみたいに、軽々と山を越えて飛んでいくことなんてできないの。 みんなが見えているものが、あたしにも見えるのに、みんなのように海まで、川まで、花畑まで飛んでいくことができない。この大きな山を越えるのに、あたしは自分の足で、ゆっくりと歩かなければならないの。 やさしい白鳥が二羽いて、あたしをいっしょに連れて行ってくれようとするけれど、あたしは重くて、たった二羽きりじゃ、持ちあがらない。 ほかの白鳥は、キリンなんか放って置きなさいと言っている。あなたとわたしはべつのもの。白鳥とキリンは違うのだからって。 あたしはキリン。孤独なキリン。 白鳥に囲まれて、仲間のいない孤独なキリン。 ママキリンは、山にぶつかって死んでしまった。 それをつめたく、白鳥たちは見ていた。 あたしを連れて行こうと懸命に羽根を羽ばたかせている白鳥は、あたしのママの、妹だった。 彼女の涙があふれて、あたしは膝上まで浸かっている。 ねえママ、きっと、山はすこしずつ歩いていけば越えて行けたんだわ。 白鳥たちのように、ひと息に飛び越せなくても。 でもあたしは寂しくて、義母さんの涙につかって、もう身動きが取れないの。 孤高に歩いて行こうとしたけれど、もう一歩も歩けないの。 だれか、義母さんの涙を止めて。 あたしも、もう一羽の白鳥も溺れそうなの。 泣かないで、義母さん。 もうあたしを置いていってもいいんだよ。 あたしはひとりでもだいじょうぶ。 少しずつ、歩いていくから。 どうか神さま。 あたしに、孤独でも、一歩ずつ歩いていける力をください――。 |