人づてで、なんとか、L03の占い師だというサルディオーネ――L03を代表する占い師だという――に会えることになった。たった三人しかいない、新しい占術を生み出した者なのだという。

そのサルディオーネすら、人を何人も介して、さらに数千万にもおよぶ金を積んで、ようやく会うことを許された。

――たったの、二時間だけ。

さすがにミラは諦めかけたが、人を何人も介している以上、後戻りはできなかった。

 

ミラは、占う人物のすべての人生を映し出すという、水盆の占いをする、老女のサルディオーネに会いたかったのだが、彼女はL03から出られないのだと。ホロスコープのL系惑星群盤、宇宙儀の占いをする男性も、L03から出られない、直接会うことも禁止されているから、ミラ自身がL03に赴いても会えない、なんともまあ、閉鎖的な星だと呆れていたミラの元に来たのは、ZOOカードという、おもちゃのような占いをする、こどもにしか見えない娘だった。

ミラは、内心がっかりしたのだが、それでも彼女は星賓に値する。

仕方なく、彼女はZOOカードの占いを受けることにしたのだが、このこどもが星賓だと実感することになったのは、占いが始まってすぐだった。

 

「“孤高のキリン”」

サルディオネが差し出したカードに、ミラは目を見開くことになった。

「これが、あなたの姪御さんのカードですね」

 

童話の挿絵のような、イラストのカード。刑務所を背景に、キリンが泣いている。全体的に色合いも暗く、寂しげな絵だった。ミラは、この絵に描かれた刑務所に覚えがあった。 

 忘れようとて、忘れられない。姉アランが投獄されていた、L11の監獄だ。

 

震える手でカードを掴み、それを食い入るように眺めた。

「こ――これは、あなたが、描いたのかい?」

「いいえ。マリアンヌという女性です」

サルディオネは、小さな手でカードの束をシャッフルし、トランプのように並べた。

五枚のカードが、ミラの目の前に並べられた。

 

“嘆きの白鳥”

“パンダのお医者さん”

“月を眺める子うさぎ”

“布被りのペガサス”

“残虐なフクロウ”

 

 「この五枚のカードが指し示す人物は、これから、姪御さんの一生にふかく影響を及ぼす人物です」

 ミラには、カードを見ただけでは、何者かさえ見当がつかなかった。

「では、順番に」

サルディオネは、“嘆きの白鳥”をミラに差し出した。

「これがあなた」

「――あたし?」

 

ミラは、カードを見つめた。自分の涙の海に溺れそうになっている、白鳥。

 

「ミラ様、あなたが選ばれた道は間違ってはおりません」

サルディオネの言葉が――ミラの胸を熱くさせた。このこどものような娘の前で、大声で泣きだしてしまいそうだった。

「あなたは、姉を見捨てたと、姪を見捨てたと、心の奥で自分を責めておられる。けれど、それは違います。あなたがマッケランを支え続けられたがために、姪御さんは救われる。――あなたがマッケランの当主でなかったら、こうも簡単に、地球行き宇宙船のチケットは落札できないでしょうから」

彼女は、後半を少しおどけた調子で言ったので、ミラは涙目でほんの少しだけ、笑うことができた。

それから気づいて、はっとした。ミラはまだ、彼女に何一つ話していないのだ。相談ごとも、自分の身内のことも――。

 

「あなたは――」

ミラは何か言おうとしたが、サルディオネは苦笑して、さえぎった。

「申し訳ない。たった二時間しか時間がない。このまま続けさせていただきます」

ミラは黙った。この少女の話を、最後まで聞いてみようと思ったのだ。

 

「最初に申しあげます。姪御さんは、マッケランの命綱になる。カレン様がマッケラン当主になれば、マッケランは安泰です。これからも末永く続いていく。けれど、あなたの娘さんのアミザ様では、これからの難局を乗り切っていくことはできないでしょう」

 

それは、ミラも感じていたことだ。ミラは確信を持った。ミラがカレンを当主にと選んだ選択は、間違っていなかった。

アミザは、ミラと同じで、いままでのマッケランを維持していくことはできるかもしれないが、恐らく、変化を必要とするこれからの時代に、大きな決断をすることはできないだろう。アミザは安定を重視する――だが、その安定すら奪われかねない現状なのだ。

 

「軍事惑星には、“大変革”の象意が」

サルディオネが宇宙儀をまわした。ミラには、宇宙儀の動きは、なにがなにやらさっぱりだったが、大変革が起ころうとしていることは、分かる。ミラは最近、それを肌でひしひしと感じている。

「L18に、一番おおきな変革が起こります。三千年に一度の大変革。L18は百八十度、変わってしまう。ここ十年のうちにそれは起こり、あたらしくL18は生まれ変わる」

「生まれ変わる?」

「はい。L18は生まれ変わる。ですが、生まれたばかりの新生児は、だれかが育て上げねばなりません。その役割を、L20とL19が担うでしょう」

 ミラは、ごくりと喉を鳴らした。

「ドーソンは――」

「はっきりとは申し上げられませんが」

言いつつも、サルディオネははっきりと言った。

「“新”L18には、ドーソンの身の置き所は、ないでしょう」

 

言葉通りに取れば、ロナウドの計画が成るということだろうか。

ミラには、想像もつかなかった。ドーソンのいない、L18。

――新しいL18とは、なんなのか。

 

「軍事惑星群のバランスは、いままでどおり、L18、L19、L20の三星でとっていかねばなりません。ひとつでもくずれると、大参事になる。新生児を放って置くわけに行かないのは、母であるあなたならおわかりでしょう」

「つまり、新しくなったL18を、L19とL20で抑えねばならないということだね」

「そうです。そのときに、L20の軍事力や立場が劣化していますと、新生L18を抑えられない――抑止力とならない。ですから――これからL20が背負わねばならない責務を、L19に投げてはなりません」

ミラは、悩みの一つを看破されて、はっと顔を上げた。