そのため、皆は声をそろえてこういうのだった。 「エレナもジュリも、あいつらの百万倍美人だったが、俺たちを選り好みはしなかったぜ」と。 ロビンは、ルシアンの店長が苦笑いしながら言うのを聞いた。 「ありゃ、おまえやライアンとか――グレンクラスの男じゃねえと納得しねえよ。トールが、百八十センチないからフラれたってんで、あの女ブチ殺すかっていきまいてる。止めてくれ、アイツだってからかい半分で声かけただけなのによう」 トールはたしかに百八十センチなかったが、百七十そこそこ――あの小娘どもと同じ年くらいだろう。顔だちもセンスも、最高にいいとはいえないが、悪くない。あの女たちだって似たり寄ったりだ。それなのに振ったのか。 ロビンが黙っていても、逆恨みした男たちに、そのうち何らかの形で「手出し」はされる気がした。 彼女たちは、傭兵のフリをしたL4系出のスリや浮浪者、あるいは本物の傭兵だったが、認定ではなく自称傭兵というチンピラにはよく声を掛けられていたが、彼女らがお目当てのイケメン軍人からは、まったくお声がかからないようだった。 一度、ロビンでも、あれはまずいだろうという浮浪者風の男に気に入られて、警察を呼んでいたこともある。 そんな目に遭ってまで、どうしてまあ、懲りずにそのふたりは軍人の彼氏を探しているのだ。 ロビンはおかしくなってきたが、どうでもよかったので黙っていた。度が過ぎれば、ルシアンやラガーの店長がこぞって出入り禁止にするだろう。それでも懲りずに店の外でナンパ待ちをしようものなら、ほんとうに行方知れずになる確率は上がる。イマリたちは買わぬでもいい恨みを買いすぎている。なにごともなくいられるのは、彼女たちが、店長の目が光っている店の中にいるからだ。 最初から他人事だったロビンが黙っていられなくなったのは、イマリたちの目的を知ってからだった。 「あのふたり、バーベキューパーティーのことを相当根に持ってるぞ。なにかあったのか。アズラエル先輩の恋人ってたしか、栗色の髪の女だろ。ルナって名前。ソイツを消してくれる男を探してるんだとよ」と。 俺も、ほかの男からの又聞きなんだが、気になったから言ってみた、とライアンはそれだけ言って去って行こうとした。 ロビンはバカバカしさに口をあけそうになったが、急にふたりに興味が湧いた。ライアンの首根っこをつかみ、「ちょっと俺につきあわねえか」と誘ってみた。 バーベキューパーティーの顛末を、ようやくラガーの店長から聞いて、「そんなことがあったのか」と遅ればせに納得したロビンが、もっともらしく話してやると、ライアンも暇を持て余していたのだろう、興味深げに食いついた。 ロビンはライアンを伴って、ふたりに近づいてみた。 ロビンの予想通り、イマリたちは有頂天になってこちらに絡んできた。 バーベキューパーティーにロビンもいたことは、知らないらしい。当然かもしれない、ロビンは最初からまわりに興味がなかったし、あの騒動も他人事だったので、彼女らの前に姿を現さなかった。 近づいて正解だった。イマリとブレアは、ルナだけではなく、ミシェルも恨んでいる。 それも完璧な逆恨みだ。 すこしくらい美人だからどうとか、軍人を彼氏にしたから調子に乗っているだとか、単にモテないひがみが恨みに変わったものだ。 この女たちがどんな傭兵を恋人にしようが、ルナにはアズラエルもグレンもいる。だいじょうぶだろう。だが、ミシェルまで恨みの範疇に入れているのは、ロビンは危ういなと思った。クラウドでは、ちょっとボディガードには頼りない。 ルナとミシェルが今現在、ララの超お気に入りだということを知ったら、ロビンもイタズラはやめていたかもしれないが。 (場末の娼館にでも、売り飛ばしてやるかな……) そう考えていたロビンに、サルーディーバの依頼があったことを、イマリたちは感謝せねばならない。 そうでなければ、この悪いお兄さんに、次に寄る、宇宙船も四年に一回しか寄らないような、エリアC556――のさびれた娼館にあっさり捨てられたかもしれないのだから。 (アズラエルには悪いが、アイツだってそろそろ降りたくて、ウズウズしてるころだろう) アズラエルの性格はせっかちだ。そのうえヒマが嫌いで、傭兵の仕事が大好き。退屈を我慢して、宇宙船におとなしく乗っているのも、ルナがいるからだ。 (たぶんルナちゃんは、アズラエルが降りるっていったら降りるかもしんねえけど、あの子は地球に行きたいっていってたし) 地球に行ってからでも、L18には来られるだろう。アズラエルも浮気するかもしれないが、あのメロメロ具合は、まったくの本命だ。多少の遠距離恋愛は、スパイスになるくらいで、あのふたりに影響は及ぼさないはずだ。 ロビンは、コトがすんだら、必要経費だけ差し引いて、サルーディーバに金は返すつもりだった。 (たしかアイツら、大けがしてたな……) ふたりで本格的に殴り合いでもしたのか、グレンとアズラエルは車いすで運ばれるほどの大けがを負っていた。 (だとしたら、まあ確実に作戦は失敗だ) アズラエルが「動けない」状態ならば、作戦は失敗。悪運の強いやつだとロビンは笑い、だが女二人を脅してでも作戦は近日じゅうに決行する。 ロビンの目的は、イマリとブレアを宇宙船から追い出すことだからだ。 可愛いミシェルに害を及ぼす害虫は、排除するに限る。 任務達成をノロノロと長引かせていたのは、ロビンなりに考えていたからだった。 どんな方法が一番、後腐れなく、あのふたりを消せるか。 場末の娼館に売るか――餓えた浮浪者の巣に放り込んでやるか――。ライアンの相棒であるメリーというぽっちゃりだが魅力的な女の子も、「あのブレアだかいう女殺してやる」と怒っていたので、あの子に身柄を引き渡すか――。 彼女たちがあまりにあちこちで恨みを買うせいで、処分法の選択肢が広がってしまったのだ。 だがロビンは、サルーディーバ邸で思いついた方法を取ることに決めた。 恐らく一番、無難な方法だ。誰も手を汚さず、自業自得という形で、ふたりは宇宙船を降りる。 あのふたりをいちいち娼館に売る手配をするのも面倒だし、浮浪者の巣に放り込んだり、メリーに売ってやるのも、どうせあのふたりは自業自得の結果で済ませられるからいいが、L6系だったか7系の星の出なので、あとが面倒そうだった。 (悪いなアズラエル――すこし面倒に巻き込まれるが) ロビンは左右から、昨夜からの盛大なベッド上の運動のせいで、すっかり口紅の落ちた女たちのキスを顔中に受けながら、同僚に心の中だけで詫びた。 |