――ついに、祭りの最終日を迎えた。 「真砂名の神」の星守りがもらえる日である。 「よし! これでいいかな」 ルナは、ピエトの浴衣の襟元をととのえて、満足げにうなずいた。 「これ、涼しくていいな!」 ピエトは浴衣が気に入ったようだ。 みんなの浴衣は、ジュリが着せてくれた。ネイシャで最後だ。キモノ文化で育ってきたジュリは、さすがに手早く、完璧だった。 「すごいじゃん! ジュリ!」 カレンやまわりに褒められて、得意げなジュリは、自分のかんざしをネイシャの髪に差してあげるという太っ腹ぶりを見せた。以前カレンにプレゼントされたという、お気に入りを、である。 祭り最終日の今日は、大勢で向かうことになったため、ルナたちの部屋のリビングは、これでもかと人でひしめいていた。 「いいね〜♪ 女の子たちの浴衣姿、華やかで!」 どこに売っているんだと聞きたくなるような真オレンジの浴衣を着たアントニオが、うちわを片手に、頬を染めた。 ルナにミシェル、カザマとユミコに、キラとジュリ。セシルとネイシャが加わって、華やかな競演だ。 「ルナちゃんの群青色の浴衣、セクシーだね! ミシェルちゃんの金魚模様のゆかた、可愛いなァ〜! ユミコちゃんは、その黄色、似合うねえ〜、ミーちゃんはさすがだね! 藤色なんて着こなしちゃう! キラちゃんどっからその蛍光グリーン探してきたの? ジュリちゃんは、いつもより色っぽいよぉ! さすがもとゲイシャさん♪ セシルさんとネイシャちゃんはお揃いなんだね! 二人が着ると、大輪の牡丹がよりあでやかに……あでっ!!」 「鼻の下伸びきってるぞ、アントニオ」 大興奮でほめたたえるアントニオの後頭部を、グレンが丸めたパンフレットで殴った。 そういう男性陣も、浴衣姿である。(カレン含む) 薄鼠いろの生地に、赤の派手な模様がはいった男性用浴衣を着こなし、カレンはご機嫌だ。 アズラエル、グレンにセルゲイ、クラウドにジュリ。ロイドにアントニオにチャン、バグムントも、なんとかそれなりに浴衣を着こなしている。 「ルナちゃん……すごくカワイイ……というか、綺麗だ……」 言葉にできない想いを言葉にしてしまったセルゲイだったが、夜の神(同一神物)が選んだだけあって、ルナの浴衣姿はセルゲイの好みドストライクであった。 群青色に映える赤い花の模様。どちらかというと渋い柄なのだが、ルナをかなり大人っぽく見せていた。かんざしも、夜の神の星守りを模したような純黒の玉飾りと、月と星型の、きらめく金細工がついた、銀色の簪棒。 ルナの栗色の髪にひどく映えた。 「えへ、ほ、ほんと? 似合う? 」 うなじからのぞく白い肌が実にまぶしかった。照れながらくるりと一回転したルナに、男たちは脳内だけで拍手喝さいを浴びせた。大人びた装いのルナを見たとたん、アズラエルもグレンも一瞬固まったし、セルゲイもまた、ルナと同じような白い肌が、めずらしく真っ赤に染まるありさまだった。 「今日は美人じゃねえか、ルゥ」 「今日はって、なんですか!!」 「いつも美人だぜ、ルナは――」 「てめえは黙れ」 いつもどおりの筋肉兄弟の言い争いのバックで、セルゲイが実感を込めてうなずく。 「うん……、すごく似合う……!」 セルゲイのしぼり出すような声とともに、ピカリと窓の外に閃光が走り、ゴロゴロゴロ……と不吉な音が鳴った。 「セルゲイさん、あまり興奮しないで。祭りの最終日が台無しになりますから」 今日は花火なのに、雨は降らせないで、とアントニオが冷や汗をかきつつ言い、 「……なんでもかんでも私たちのせいにしないでください」 セルゲイは言ったが、ルナの浴衣姿に、夜の神のテンションも軒並み上昇中なのはあきらかだった。セルゲイは内心、(おさえて……おさえて。ルナちゃんの浴衣姿のせいで花火が台無しになるなんて、目も当てられない)と必死に念じていた。 「みなさん、用意はできましたか。では、まいりましょう」 しぶい黒絣の浴衣姿のチャンのシャイン・カードをつかって、K05区に移動だ。 ルナとミシェルは、もはや星守りをゲットせんと戦々恐々にはならなかった。この七日間、いろいろあったけれども、結果的に星守りをもらえてきたからだ。 それでも真砂名神社に行ったら、一応授与所に並んでみるつもりでいたが、今日はだれがくれるんだろう、何が起こるんだろうというワクワク感のほうがつよかった。 真砂名神社は。大路の入り口から、ものすごいひとごみだった。大路近くの大駐車場は、観光バスがみっしり詰まっている。タクシーも次から次へと駐車場へなだれこんでいく。 「今日、花火があるからかな。今までで一番すごいひとだね」 一番背の高いセルゲイが先頭で、目印。彼は呆れ声でいい、カレンとはぐれないように手をつないだ。もう片方の手でジュリと手をつなごうとし、握ったら、そのごつさに一瞬怯んだ。となりにはグレンがいて、不審な目でセルゲイを見ていた。 「誤解だよ、わかるだろグレン」 「良かったよ、誤解で」 肝心のジュリは、カレンと腕を組んでしあわせそうに歩いている。 「宇宙船に、これだけの人がいるんだってことがさ、オドロキだよね」 キラも、ぼうぜんとつぶやいた。だが、ネイシャとピエトが、さっきからキラの頭に散りばめられているクリスマスツリーのオーナメントのような髪飾りを見て、ぼうぜんとしているのには気付いていないようだった。チカチカと等間隔に輝くのだ。 「キラは、これが通常スタイルだから、慣れて」 ロイドが、フォローなのかなんなのか分からないことを、真剣に子どもたちにつたえていた。 ルナは連行される宇宙人にならざるを得なかった。グレンとアズラエルに挟まれ、ピエトと手をつないで、迷子にならないようにしながら必死にあとをついていく。 大路の入り口にある「ハッカ堂」という駄菓子屋のまえでルナたちは、ベッタラとニックと合流した。ふたりは、やはり女の子たちの浴衣姿に歓声を上げた。 「美しいです! セーシル! ネーイシャ!!」 「いやァ〜♪ 目の保養!!」 ニックが、さっきのアントニオと同じような褒め方をしだしたので、ふたたびグレンが後頭部を殴打するというちいさな事件が起こったが、ひとごみがいっそうひどくなるにつれて、呑気にしてもいられなくなった。 あまりな人ごみなので、ベッタラがネイシャを、アズラエルがピエトを肩車した。 はぐれないように、ゆっくりと人ごみに流され、階段を上がった。 ルナとミシェルは、お参りを済ませると一目散に授与所へならんだ。午後六時、やはり星守りは売り切れていたが、ふたりはへこまなかった。 「今日は、なにがあると思う?」 「……想像もつかないや」 ウサギの本音だ。 ルナとミシェルは授与所から離れ、あたりをキョロキョロしたが、不測の事態も、「これ、あげるよ」といって現れるだれかも、今のところ見当たらない。 「やっぱり売り切れてた? 残念だったね」 キラが、安産守りを引っ提げて合流した。 「うん――」 ふたりは、落ち着かなげにあたりを見回す。だが、なにごとも起こらない。 「屋台のほうに行こうってさ――どうしたの、ルナちゃん、ミシェルちゃん」 挙動不審なウサギとネコを見て、ロイドが首を傾げた。 ルナたちばかり別行動をとるわけにいかないので、ルナとミシェルはしかたなく、皆のあとをついていった。 (どうしようルナ! 今日は何ごとも起こらなかったら!) (落ち着いてミシェル! まだ、まだ、わかんないよ!?) 二人は小声で怒鳴りあった。 でも、毎回、神社にいるうちにもらえた。神社を離れてしまえば、もらえなくなるのではないか――。 |