ルナたちが花火の特等席――河川敷のスペースまで行くと、端にいたペリドットが、「遅かったな」と言ってふたりぶんのスペースをあけてくれた。

 「星守りは無事ゲットできた?」

 カレンが聞いた。ルナとミシェルは、笑いながら、ふたつずつお守りを掲げて見せた。

 「今日は、ふたつも買えたの」

 おどろいてカレンが言うと、

 「ううん。いっこは、授与所の巫女さんが取っててくれたの。いっこは、アンジェから」

 「アンジェに会ったの」

 クラウドが「元気になったのか? だったら会いたいな」と言ったのに、ミシェルが首を振った。

 「本人は元気になったって言ってたけど――あれはやっぱり、まだ本調子じゃないよ。すごい痩せてたし、顔色もわるかったもん」

 「うん――そうだったね」

 ルナもうなずいた。

 

 「ルナちゃんがZOOカードをペリドットからもらったのは、アンジェを助けるために、だろう? その後、アンジェのことに関しては、進展はないの」

 「あたしが、アンジェみたいにZOOカードつかえたらね!」

 ルナはほっぺたをぷっくりさせた。

 「あたしが、どうやってアンジェを助けたらいいんだろうってうさこに聞いたら、アンジェはあと回しにして、イマリをなんとかしましょうってゆったの! ものごとには順番があるんだって! アンジェは黒いタカさんが乗ってこないと助けられないけど、黒いタカさんが乗ってきたら、青大将ものってくるから、イマリはタイムアウトだってゆわれて、」

 「ええっ!?」

 「なんだって!?」

 「はァ!?」

 悲鳴のような声を上げたのは、クラウドだけではなく、ペリドットとアントニオもだった。ルナは三人の男に詰め寄られ、ミシェルというつっかえがなかったら、ビニールシートから転げ落ちるところだった。

 

 「なに!? その話、俺聞いてないよ!?」

 「俺もだ――“月を眺める子ウサギ”がそう言ったんだな? ルナ」

 「“英知ある黒いタカ”に、“華麗なる青大将”、――なるほど、そういうつながりか」

 クラウドだけが、ふんふん、と腑に落ちたようにうなずくだけで、ルナはまったく腑に落ちなかった。

 「聞いてないのはとうぜんだよ! アントニオにゆってないもん」

 

 ルナがそう叫んだ瞬間、大スターマインの名を冠する、一番派手な花火がはじまった。勇壮な音楽に合わせて、光が雪崩のように降り注ぎ、つぎつぎ打ちあがる花火の饗宴に、ルナたちはしばし、口を開けて見とれた――。

 はじめて花火を見るピエトは、最初、腹に響くような花火の音を爆撃と勘違いし、アズラエルにしがみついて泣きそうになっていたが、夜空に打ちあがった光の粒をみて、あんぐりと口をあけた。

 いまも、間抜けなくらい大きな口をあけたまま、ネイシャと一緒に花火にくぎ付けになっていた。

 

 いちばん盛大な花火が終わると、大きな拍手やら歓声やらで、あたりはいっそう賑やかになった。やがて、打ち止めの空砲があがり、終了のアナウンスが流れだすと、人々はぞろぞろと帰路に着いた。

 ルナたちは、ひとごみが落ち着くまで、ビニールシートで待った。

 「かゆい!」

 ピエトは、だいぶ蚊に刺されていた。ネイシャもだ。ルナは虫よけスプレーを持ってこなかったことを後悔し、とりあえず持っていたかゆみ止めの薬をふたりに塗ってやった。

 

 「さっきの話だが、ルナ」

 ペリドットが蒸し返した。

 「“月を眺める子ウサギ”が現れてなにか言ったときは、どんなくだらんことでもいいから教えてくれ」

 ペリドットは、“真実をもたらすトラ”と“月を眺める子ウサギ”のテリトリーは違うから、彼女がもたらす情報は何でも欲しい、といった。ルナはうなずいた。

 「できれば、俺にも」

 アントニオも言った。ルナはふたたびうなずいたが、回覧板がいるんじゃないかと、だんだん思い始めた。クラウドにペリドット、アントニオ。アンジェも、なにか教えてほしいというようなことを言っていた気がする。知らせるべきところがたくさんだ。

 「ルナちゃんは、一番大切なことを教えてくれないんだ……いつも」

 ふてくされたクラウドがなにかブツブツ言っていたが、ルナは無視した。うさこも、いつもルナにいちばん大切なことを教えてくれないのだ。

 

 「よっしゃ! もういいだろおっさんたち! ルナとミシェルを開放しな! あたしとデートするんだからさ!」

 「おっさん!?」

 クラウドとアントニオに異議がありそうだったが、ペリドットは特に異議はなさそうだった。

 カレンはミシェルとルナに、がばっと抱き付いて肩を組み、

 「今日は、これからふたりともあたしと、屋台デート! いいだろ?」

 ミシェルとルナに異存はなかったが、クラウドもアズラエルも、苦笑するばかりで何も言わない。ふたりがいつものノリツッコミすらせずに、ルナとミシェルをカレンに譲った――ルナは、なんとなく、その理由がわかった。

 

 (――カレン、もしかして、降りちゃうの)

 

 このあいだのカレンの検査結果は、皆でもう一度、おめでとうパーティーを計画したくらい、良好だった。まだ油断はできないが、カレンのアバド病は、ほぼ完治していた。

 カレンは、完治のめどが立ったら、降りると言っていた。

 (カレン)

 ルナは真面目な顔でカレンを見つめたが、カレンはそれに気が付かないように上機嫌で言った。

 「ふたりとも、まだ何も食べてないんだろ」

 「白玉あんみつデラックス食べたよ? 紅葉庵の」

 ミシェルがいい、カレンが目を剥いた。

 「なんだそりゃ! あたしも食いてえ!!」

 「あたしも行く〜!!」

 ジュリもあとを追いかけてきた。カレンはジュリも抱きしめて、

 「ハーレム! ハーレム!」

 とご機嫌に笑いながら、大路のほうに出た。

 

 ルナは星守りを落とさないように、やっとバッグの中にしまった。バッグの中には、八日間、集め続けてきたお守りがぜんぶ入っている。

 「ルナあ! なに食いたい?」

 「えっとね、」

 ルナはあわてて、屋台に目をうつした。今日でお祭りは終わりだ。ジュリとミシェルが金魚すくいの屋台に飛びつくのを見て、カレンがあとを追っていった。

 

 (今日は、目いっぱい楽しもう)

 カレンといっしょにお祭りにいったことが、いい思い出になるように。

 

 ルナが空を見上げると、玉のような星々が、宇宙にきらめいていた。