――四日目。

 ルナとミシェルはふたたび出遅れるという事態に出くわし、こんなことが四日も続いたので、さすがになにかある――もう、時間どおりに真砂名神社には行けないのだと覚悟を決めた。

 今日のトラブルは、アズラエルとグレンがついに起き上がれなくなったという事態である。連日の猛特訓に身体が悲鳴を上げ、倒れたのだ。ルナが連絡するまえに、ニックから電話が来た。

 「そろそろぶっ倒れるころだろうから、おやすみにしてあげるって、二人に言っといて」

 ルナは疲労のせいで高熱を出したふたりの看病に追われ、かわりに神社へ行ったミシェルは、ふたたび授与所の前で膝をついた。午前中に間に合ったはずなのに、売り切れていたのだ。

だが、カザマが購入しておいてくれるというラッキーが、もういちど起きた。

 こうして、四日目の、「真昼の神」の星守りも手に入った。

最近出店したばかりのサンドイッチのチェーン店に立ち寄り、ミシェルはカザマと星守りとサンドイッチをお土産に、家路についた。

三人は、ルナの家で昼食となったのだった。

 

 

 五日目。

本日は、「太陽の神」の星守り。

 やっとその日、ルナとミシェルは一番で真砂名神社に行くことができた。まったく人通りのない大路を駆け抜け、授与所についたふたりを待っていたのは、もう何度目かしれない、巫女さんの申し訳なさそうな声。

 

 「ごめんなさい……まだ、お守りが届いていなくて」

 

 ウサギとネコは絶句した。どうやら、早すぎたらしい。

まだお守り自体が授与所に届いていなくて、さずけられる時刻は十時から。授与所自体も、準備ちゅうだった。

一度かえって、みなの食事をつくらねばならないルナは、

「ミシェル、ここで待ってる?」

と言ったが、ミシェルはいっしょに帰って、十時ジャストにここに来れるようにする、と言った。

発売時刻がわかれば、それに合わせて来ることができる。

それにしても、どうして最初に発売時刻を聞いておかなかったのだろうとふたりは猛省した。

 

準備で忙しそうな巫女さんは、「そうそう」と思い出したように教えてくれた。

「明日から三日は、時刻が変わるんです。お守りをおさずけできるのは、夕方から夜にかけてになります」

 明日は「夜の神」の星守り。

 夜の神なので、夜からなのだろうか。

 「夜の神様のお守りは、神官たちが殺到しますので、お早く来られた方がいいですよ」

 魔除けにつよい夜の神の呪符やお守りは、神官たちに大人気なのだという。

 知る人ぞ知るお守りなのに、夜の神の星守りだけは、毎年あっというまになくなるらしい。

 授与所に届くのはだいたい夕方五時――というのをふたりは聞いたが、ますますゲットできる可能性が低くなった。

日中より、夜が混むのだ。祭りも四日目を過ぎたのに、夜の人出の多さは半端ではない。

明日も簡単には手に入れることができなさそうだ。

  

 ルナたちが帰ると、アズラエルは起きていた。グレンも、「メシ〜」と不精髭の顔でルナたちの部屋に現れた。アズラエルたちの熱は、すっかり下がったようだった。

 ミシェルはごはんを食べ終わると、すぐさま真砂名神社に向かおうとしたが、とんでもない障害が待ち受けていた。

 めずらしく、ミシェルの部屋に鳴り響いた電話。

 反射的にとってしまった電話は、かつて宇宙船に乗りたてのころ、一度だけ手芸教室に行ったときに友人になった女の子からだった。

 「元気にしてる?」というあいさつから始まって、ずいぶんと長電話らしいその子は、なかなか電話を切ろうとしなかった。一時間もつきあわされたミシェルは、やっと玄関を出ようとした矢先に「買い物に行かない?」とレイチェルに誘われ、

 「いいかげんにしてえ!!」

 とついに叫んでしまった。

 何も知らないレイチェルが傷ついたのは言うまでもない。ミシェルは、レイチェルに謝るのとなだめるのとに、全力を尽くさねばならなかった。

 

 結局ミシェルが真砂名神社についたのは、午後だった。

 

 ルナのほうは、ミシェルがとっくに真砂名神社に行ったものと思っているので、すいぶん呑気にしていた。

 大事を取って、アズラエルたちは今日も休むことにしたが、そうとう過酷な訓練だったらしい。

 「ニックとベッタラが羨ましがって訓練が過酷になるから、弁当はしばらくいい」といったアズラエルの言葉を受け取り、ルナはいそいそとキッチンに立っていた。

 

 ベッタラの分は、セシルがつくっているのかなと思っていたルナだったが、セシルは料理が不得意らしい。できるのは、ハムエッグと、野菜を切って混ぜるだけのサラダくらい。

 親子の食生活はレトルトで成り立っていた。

 今ではセシル親子も、一週間に一度くらい、食卓をともにしている。セシルも手伝ってくれるので、ルナはたいへんに助かっていた。セシルはセシルで、「料理のレパートリーが増えたよ」と喜んでいる。彼女のいまの目標は、「ラークのシチューをおいしくつくれるようになること」だ。

 

 ルナは、メインはともかく、おかずはみんなでつまめるように、お重の弁当箱につめるというアイデアを思いつき、一人でほくそ笑んだあと、ふんぬと気合を入れて、ふたりぶんの弁当をつくった。

 今日も、ニックとベッタラはK33区で特訓しているらしい。

 ルナが弁当を作り終えたころだった。

 消沈したミシェルが、帰ってきたのは。

 

 「ええーっ!? それじゃ、今日も買えなかったの」

 ミシェルから事の次第を聞いたルナは絶叫し、いっしょに落ち込んだ。

 今日はさすがに、くれる人はいなかったようだ。ミシェルは、アントニオが現れて、「これあげるよ」なんて言いながらくれるんじゃないかと期待して、三十分ほど神社を動かなかったそうなのだが、彼はこなかった。

 当然だった。リズンは今日も、通常営業だ。

 

 「あ〜あ……やっぱ、朝行ったときに、十時まで神社で待ってればよかったんだわ……」

 ミシェルはこれ以上後悔しようがないといったげっそり顔で落ち込んだが、どうしようもなかった。