「あしたは、五時ジャストに神社に行けるようにしよう」

 「五時ジャスト狙っちゃダメだよ。邪魔が入るからね、ぜったい。二時間くらい前から行ったほうがいい」

 ルナとミシェルは、落ち込みながらも、明日の星守りをゲットするために作戦を立てたが。

 ルナは二人分の弁当を作ったことを思い出した。

 「あたし、ニックたちにおべんととどけてくる」

 「ン〜、行ってらっしゃい」

 いつもなら、あたしも行く! というミシェルだったが、太陽の神の星守りが手に入らなかったことがずいぶんこたえているようで、投げやりな声でそういうだけだった。

 

 昼も過ぎたし、もう食事は終えているかもしれなかったが、終えていたら終えていたで、持って帰ってアズラエルたちに食べてもらえばいい。

ルナはとりあえずできたてのお弁当をK33区のふたりに届けた。

 ニックとベッタラは大感激し、特訓に私情をはさまないとかたく誓ったのだった。

 そこへ、五日ぶりにペリドットが帰ってきた。

 彼も真砂名神社の祭りに駆り出されている、実行委員の一人だ。イシュマールと一緒で、祭りのあいだは真砂名神社にくぎ付けにされている。

 

 「ルナおまえ、この星守り知ってるか?」

 来て早々、彼がルナの手のひらに置いたのは、「太陽の神」の星守りだった。

 

 「ウキャー!!」

 ルナは嬉しいのと驚いたので、へんな悲鳴をあげた。その悲鳴に、ペリドットがすこし怯んだ。ほんの少しだ。

 「……なんだ? そんなにうれしかったのか」

 「嬉しいもなにも!!」

 ルナはこの五日間、星守りを手に入れるのがたいへんだった苦労話を、支離滅裂に話した。

 原住民語やら、共通語やらを自在に駆使する彼らだからこそ、ルナの言語をだいたい理解することができたのだ。

 

 「……それは、大変には違いないことです」

 ベッタラが重々しくうなずいた。彼らは、ルナがしゃべる間に、すっかり弁当を食べ終えていた。ニックも食後のお茶を喫しながら、「美味しかった〜♪」と満足げに腹をさすり、言った。

 「いちいち邪魔が入って、ルナちゃんたちが授与所でお守りをもらえなかった理由ね――僕、すこし分かる気がするな」

 「へ?」

 「神様が、ルナちゃんたちとお茶したかったんじゃないかな」

ルナのうさ耳がぴこたんと揺れた。

「まァ、そういうことになるだろう」

ペリドットも異論はないようだった。

 

 ニックいわく、神様がルナたちとお茶をしたかったがために――カザマやサルーディーバ、イシュマールたちとルナたちがお茶をするために、いちいち予定が狂って、ストレートにはもらえなかったのではないかというのだ。

 

 一日目のラグ・ヴァーダの女王は、イシュマールに懸かってルナたちと白玉あんみつを食べた。

 二日目のアストロスの女王は、カザマの前世だ。当時娘だったルナたちと、椿の宿で食事をした。

 三日目の地球のサルーディーバ――ルナは、ペリドットに教えられて、はじめて知った。

 

 「え? 地球のマーサ・ジャ・ハーナの神話のサルーディーバって、あの、サルーディーバさんなんですか」

 「そうだ」

 

 ルナたちには、「はじまりの物語」といえる、地球のマーサ・ジャ・ハーナの神話。ルナが「月の女神」、セルゲイが「夜の神」で、アズラエルとグレンが「船大工の兄弟」だった時代。

 そのとき、「船大工の兄弟」の父で、いわゆる神話で「永遠に生きる存在」とされているサルーディーバが、アンジェリカの姉である、サルーディーバの前世だという。

 

 「だから、サルーディーバさんといっしょに、料亭まさなでごはん食べたんだ……」

 「料亭まさなに行ったの? あそこ、ちょっと高いけど美味しいよね!」

 ニックは、自分も一緒に行きたそうな顔をした。

 「祭りの期間は、神々が地上に降りて、民とにぎわいを楽しむ時期だ」

 神々が、おまえらに直接、星守りを渡したかったんだ、とペリドットは笑った。

 「神さまから直接恵みを受けるなんて、辺境惑星群の神官からしたら、うらやましいことこの上ない状況だね」

 ニックも言ったが、ルナはぷんすかした。

 「そんなのだったら、最初にゆってくれればよかったのに!」

 「まァ、そういうな。結果として、ぜんぶ手に入れて来たんだからいいじゃねえか」

 ペリドットがルナをなだめる。

 

 四日目は真昼の神――カザマとふたたび食事をともにした。

 そして、本日、五日目は。

 

 「ルナ、メシは食っちまったんだな?」

 太陽の神の支配下にあるZOOの支配者たるペリドットは、厳かに言った。ルナは予言師ではなかったが、彼の言いたいことはわかった。

 「なら、今からリズンに行って、茶でも飲もう」

 「うん!!」

 「僕も行く!」

 「ワタシも行きます!!」

 

 

 ペリドットに、ベッタラ、ニック。ルナが呼んだミシェルとピエトに、ベッタラが呼んだセシル親子、といった大勢で、リズンに押しかけた。

 「どうしたの、みんなそろって」

 アントニオは、外のカフェテラスにわざわざ出てきた。

 「あ、そうか。今日五日目だし、太陽の神の日か」

 とすぐに悟った。

 いかにも太陽の神が喜びそうな、大人数だ。

 「太陽の神は、少人数じゃつまらんらしい」

 ペリドットも口の端を上げて笑い、コーヒーでみなと乾杯した。

 ミシェルもペリドットから、「太陽の神」の星守りを受け取り、「ウッヒャオオオ」と奇声をあげて飛び跳ね、ペリドットを怯ませた。

 やがてカレンやセルゲイ、クラウド、ジュリ、病み上がりのグレン、アズラエルもくわわり、どんどん大所帯になる。

 ルナとミシェルが呼んだレイチェルたちも加わった。

 

 「ずいぶんふくれあがったな――どうせなら、夕メシ食ってくか」

 ペリドットの発案に否を唱える者はいなかった。

 「アントニオ、なにか適当につくれよ」

 相棒のマイペースな声に、アントニオは笑い、

 「はいはい、テキトーね。どうせ夜までいるんだろ。俺の仕事が終わるまでみんな、帰るなよ」