いつのまにか酒がテーブルに並んでいて、適当とはいいがたい、おいしそうな料理がテーブルを埋め尽くした。

 今日は客を祭りにとられて閑古鳥だったリズンの店長も、早々に店を閉めて、宴会に加わった。

 このあいだバーベキュー・パーティーに行けなかったアントニオは、ハイテンションで生ビールのジョッキをアズラエルたちと打ち鳴らした。

 「次回のバーベキュー・パーティーは絶対行くよ! 今度こそ、アンジェとサルちゃんを連れてさ」

 

 今日、サルーディーバとアンジェリカは、久々に姉妹水いらずで食事に行ったのだそうだ。

 サルーディーバに拒絶されていたわけではないとわかったアンジェリカは泣くだけ泣いて、ずいぶん元気を取り戻した。

 だが相変わらず、彼女のZOOカードは動かない。それでも、もう一度真砂名の神に向かう気力は出てきたようだ。

 「サルちゃんも、もういちどあらゆる文献を見直してみるって言ってた。アンジェと一緒にね――イシュメルの生誕に向けて、なにかできることはないか考えてみるって。ルナちゃんには、申し訳ないことをしたとしきりに言っていてさ」

 「……」

 アズラエルもクラウドも、神妙な顔で聞いていた。

 サルーディーバはすくなくとも、この先しばらくは、ルナとアズラエルの仲を裂くための工作はしないということだろうか。

 

 「サルーディーバになにがあったっていうんだ?」

 アズラエルは聞いた。

 ルナには言っていないが、イマリとブレアを利用して、ロビンがアズラエルを宇宙船から降ろそうとした一件――それが、ロビンがだれかから受けた任務だと聞いて、アズラエルは首謀者がサルーディーバではないかと見当をつけたのだった。

 サルーディーバがかつて、ルナに、アズラエルと別れろといい、ルナが泣いて帰ってきた事件はアズラエルも忘れていない。

 おまけに、これはクラウドの推測だったが、セシル親子の呪いを解くのと引き換えに、ルナがふたたび「アズラエルと別れろ」と言われた形跡がある。

 ここまでくれば、疑いようがなかった。

 ロビンに依頼をしたのはおそらくサルーディーバだ。

 ルナがグレンと結ばれて、イシュメルを生むのだと頑なに信じ切って、ルナとアズラエルの仲を引き裂こうとし続けていたサルーディーバに、いったい、どんな心境の変化があったというのだ。

 

 「……サルちゃんはね、ただ迷っているだけなんだよ」

 アントニオは、静かに言った。

 「サルちゃんは今でも、ルナちゃんとグレンが結ばれて、イシュメルが生まれるっていうことは、疑ってない、信じ切ってる。でも、それを成し遂げるために強引なことをしすぎたと、反省しているんだ」

 「やっと、反省したのかよ」

 グレンはネイシャとピエトを肩に担ぎあげて、二人を喜ばせている。彼に聞こえていないのをたしかめながら、三人は話をしていた。

 

 「サルちゃんがロビンに依頼した任務のせいで、過程はどうあれ、グレンが宇宙船を降ろされるかもしれなかったことを知って、ずいぶん後悔したようだ」

 「……肝心のグレンが降ろされちゃね」

 グレンとルナちゃんを結び付けたいのに、とクラウドも肩をすくめた。

 「うん。サルちゃんは、それが真砂名の神が自分に与えた罰だとおもって――おとなしくなったのさ」

 

 ルナに、セシル親子の呪いを解く代わりにアズラエルと別れろと告げたあとだった。ひさしぶりにカザマと会ったサルーディーバは、カザマから、イマリとブレアが起こしたトラブルのことを聞いた。そのとき、アズラエルだけではなく、グレンまで降ろされるかもしれなかったことを知り、自分のしでかしたことをひどく後悔したのだという。

 サルーディーバは、ロビンに「アズラエルを宇宙船から降ろすこと」を依頼したが、グレンまで巻き添えを食うことになったのは、予想外のことだった。

 サルーディーバは償いのために、カザマとメリッサにセシルたちのことを教え、ルナのもとに行ってくれるように頼んだ。そして自身は、夜の神の塔のまえで、祈祷に入った――。

 

 「じゃァ、俺を宇宙船から降ろそうっていうのを、あきらめたわけじゃねえのか」

 「そっちは多分、あきらめたと思うよ――あきらめたっていうか、真砂名の神の望むところじゃないと思ったわけだね。でも、ルナちゃんがグレンと結ばれて――っていう公式は、信じているままだから、なんとか、ほかの方法を考えている」

 「メンドくせえなァ――」

 アズラエルはグレンを眺めつつ、ぼやいた。

 「グレンとサルーディーバがとっととくっつきゃいい話なんじゃねえのか」

 「じゃあ、アズラエルがキューピッドになってくれよ」

 アントニオの言葉に、アズラエルは苦々しい顔で黙った。キューピッドなんて、柄ではない。

 「グレンは、サルーディーバのこと、恩人だとは思っているけど、さすがにそういう対象には見てないだろうな……」

 クラウドも苦笑まじりの顔を、グレンがいる方に向けた。

 

だれかが買って来たのか、花火が打ちあがった。

 気づけばグレンと一緒に、ピエトとネイシャも、花火で遊んでいる。レイチェルが「あぶないから、振り回しちゃだめよ」と言っているのが聞こえた。

カレンがねずみ花火に火をつけて放つのを、ジュリとシナモンは、きゃあきゃあ言って、はしゃいで逃げ回った。

「ルナとミシェルも、花火しましょうよ」

 レイチェルが持ってきてくれたので、二人は当然花火にありついた。ルナもウサギ口で線香花火がおちるのを見ながら、打ち上げ花火の音色を聞いた。

 「たーまやー!!」

 ニックが叫ぶのに、「タマヤとはなんです? 美味いのですか」というベッタラの天然ボケがさく裂していた。

 

 「あしたは、夜の神様だね」

 ミシェルがうきうきとそういうのに、ルナは「うん!」と元気よく返事をかえし、それからたいへんなことを思い出した。

 

 もし、ほんとうに――ニックが言ったように、神様たちとお茶をするために、連日、あんなことが起きていたのだとしたら。

 

 ルナはセルゲイのほうを見た。

 セルゲイはルナの視線に気づき、にっこりと笑い返した。

 あれは、夜の神の笑みである。

 「たいへんだ……」

 このあいだの、夜の神様とのデートを、ルナは忘れたわけではない。