カレンは誰にも愛されない子ども。

祖父が、酔った席で暴言を吐いた。

 

おまえはのぞまれて生まれてきたわけではない。

おまえがアランの腹にさえいなかったら、アランも自殺することはなかっただろう。

おまえのせいでアランは死んだ。

ユージィンと同じ顔をしよって、恨めしい。

母上がおまえを引き取るなどしたからこの家におるのだ。

ドーソンへ行けばよかったのに。

おまえが生んだ子供もマッケランの子ではない。

おまえはぜったいに子どもを産むな。

 

おまえの子をマッケランの子とは認めんぞ!

 

祖父は、ツヤコに殴り倒されてマッケラン家を追い出された。

カレンは、そのあとのことをほとんど覚えていないのだが、子どもながらにショックが大きかったのだろう、――いまだに、だれも愛せなかった。

だれかをふかく、愛せる気がしなかった。

 

カレンが「傭兵を差別するのはおかしい」といったときから、カレンはマッケラン家次期当主として不適格の烙印を押された。

カレンはその瞬間から、義母と妹アミザのお荷物となり、マッケラン家の腫物となった。

 ミラとアミザが、必死でカレンを庇い、泣きそうな目を向けてくるたび、自分の存在を消したくなった。

 

――自分さえいなければ、義母の心労も、妹の苦悩もなくなるのに。

 

何度、そう思って来たかしれなかった。そしてついに、苦悩が身体をむしばみ、アバド病となってカレンを虐げた。

治るはずの病が治らないと知ったミラは、あらゆる手立てをさがしたが、どうにもならなかった。万策尽きたミラが、最後に、カレンを地球行き宇宙船にのせた。

カレンは、宇宙船が起こす奇跡のことなどは、なにひとつ眼中になかった。

ただ、これがさだめなのだろうと、諦めていた。

自分はマッケランを離れ、どんなところかも分からない地球で命を終えようとしている。

地球に、たどりつけるかもさだかではなかった――。

 

(奇跡、あたしにも、起きたね)

 

カレンはひとすじの涙をこぼしながら、落ちるように眠りに入った。

 

 

 

 

――真っ暗で、真っ赤な空。不吉な空。

 

(また、この夢)

空には暗雲漂い、眼前にそびえたつのは巨大な山岳だ。カレンを阻むようにそびえている、険しい山々。

ふいに、バサバサと白鳥が飛んできて、カレンを突つきはじめた。

(なにをするんだ!!)

たくさんの白鳥が、カレンをくちばしで攻撃する。カレンは長い首をぶるんと振るって、一度ははね飛ばしたが、きりがなかった。白鳥は次から次へとやってくる。カレンは悲鳴を上げた。

 

(やめて!!)

身体のほとんどが地中に埋まってしまっていて、身動きが取れないのだ。カレンは、少し離れたところに、一羽の白鳥が血まみれで転がっているのが見えた。倒れたその白鳥を、もう一羽が必死で守っている。彼女の涙と、流した血で、二羽の白鳥は溺れそうだ。

(義母さん、アミザ)

カレンは、二羽を助けようともがいた。だが、身体が動かない。ますます身体は埋まっていく。自分にも、二羽のもとにも、白鳥が容赦ない攻撃をしかける。倒れて動けない白鳥を、さらに小突き回すのだ。

降ってくるのはくちばしと、罵声、揶揄、あざけり――。

カレンは何度も白鳥を振り飛ばしたが、ますます攻撃は激しくなる一方だ。カレンの力が尽きて来た。

(やめろ! やめて! おまえら、覚えていろ、あたしはきっと……)

カレンには今、倒れた白鳥たちのほうにのばす腕もない。悲痛にさけびながら、カレンはずぶずぶと地面に埋まっていく。

 

もう、だめだ。

 

カレンが、目を閉じかけたときだった。

 

――信じられないことが起こった。

 

カレンの沈みゆく身体がぴたりと止まったのだ。カレンを突つきまわしていた白鳥も、いなかった。

それもそのはず。カレンを痛めつけていた白鳥たちはことごとく、檻に入れられるか、捕まっていたからだ――フクロウたちに。

カレンは目を見張った。自分を土の中から引き上げているのは、おそろしく大きなフクロウだった。キリンと同じ大きさのフクロウなど、カレンは初めて見た。

片目に眼帯をつけ、片方の羽根は折れてまがっている。フクロウは、無事な方の羽根で、カレンを土の中からやすやすと引き上げた。