百四十四話 夢 X



 

歩き続けて、探し続けて、すっかりつかれ切った椋鳥は、遊園地のベンチに座ってうなだれていた。

「ひどいよ、うさぎさん」

ピンクのうさぎに、恨みがましく彼は言った。

「君はネコたちやキリンを助けて、ペガサスに恋人を作って、まだらのネコなんかに遊園地のキップをやった。なのに、なんで俺のボタンは探してくれないの」

 

ピンクのうさぎは微笑んだまま答えない。

「黒いタカが持っていたんだよね」

椋鳥は思い出したように言ったが、うさぎは首を振った。

「もう彼は、持っていないわ」

 

椋鳥はうなだれた。

「俺の、ボタン……」

「あなたのボタンなら、はじめからポケットに」

うさぎにそう言われ、椋鳥は呆気にとられたあと、あわてて自身のもっふりとした羽毛を探った。胸元から、ポロリと零れ落ちたそれは。

 

「俺の……! 俺のボタン……!」

キラキラ輝くそれを、星空にかざした椋鳥は、感激のあまり涙した。

「なんで、こんなところに……! 最初から俺が持っていたのか、なあんだ、そうだったのか。それにしても人が悪いようさぎさん! 知っているなら最初から、教えてくれればよかったのに……!」

 

 ひとしきり大喜びした椋鳥は、あらためてうさぎに礼を言おうとして――うさぎの姿が消えていることに気付いた。

 「あ、あれ? うさぎさん? どこへ行ったの」

きちんとお礼を言おうと思ったのに――椋鳥はしばらくあたりを探したが、ウサギの姿はすっかり消えていた。

それにしても、大切なボタン。

ずっとさがしつづけていた、ボタン。

椋鳥は、幸せそうに、大切なボタンに目をやり、はっとした顔をした。

 

 「――ああ、俺は」

 椋鳥は、ボタンを見たとたんに思い出したのだった。

 失っていた、記憶を、すべて。

 

 椋鳥は、号泣した。あらゆる後悔にさいなまれて。

 「俺は――」

 忘れていたかった。だから、ずっとボタンを隠していたんだ。自分で。

 

 ひとしきり泣いた椋鳥は、よろよろと立った。大きな身体を支える細い足は、絶望にカクカクと折れそうだったが、彼は椋鳥だった。

まだ、翼がある。

椋鳥の目は決意に光り輝き、星空を睨み据えていた。

 

 「上がらなきゃ、“階段”を」

 

 贖罪の、ために。

 

 



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