歩き続けて、探し続けて、すっかりつかれ切った椋鳥は、遊園地のベンチに座ってうなだれていた。 「ひどいよ、うさぎさん」 ピンクのうさぎに、恨みがましく彼は言った。 「君はネコたちやキリンを助けて、ペガサスに恋人を作って、まだらのネコなんかに遊園地のキップをやった。なのに、なんで俺のボタンは探してくれないの」 ピンクのうさぎは微笑んだまま答えない。 「黒いタカが持っていたんだよね」 椋鳥は思い出したように言ったが、うさぎは首を振った。 「もう彼は、持っていないわ」 椋鳥はうなだれた。 「俺の、ボタン……」 「あなたのボタンなら、はじめからポケットに」 うさぎにそう言われ、椋鳥は呆気にとられたあと、あわてて自身のもっふりとした羽毛を探った。胸元から、ポロリと零れ落ちたそれは。 「俺の……! 俺のボタン……!」 キラキラ輝くそれを、星空にかざした椋鳥は、感激のあまり涙した。 「なんで、こんなところに……! 最初から俺が持っていたのか、なあんだ、そうだったのか。それにしても人が悪いようさぎさん! 知っているなら最初から、教えてくれればよかったのに……!」 ひとしきり大喜びした椋鳥は、あらためてうさぎに礼を言おうとして――うさぎの姿が消えていることに気付いた。 「あ、あれ? うさぎさん? どこへ行ったの」 きちんとお礼を言おうと思ったのに――椋鳥はしばらくあたりを探したが、ウサギの姿はすっかり消えていた。 それにしても、大切なボタン。 ずっとさがしつづけていた、ボタン。 椋鳥は、幸せそうに、大切なボタンに目をやり、はっとした顔をした。 「――ああ、俺は」 椋鳥は、ボタンを見たとたんに思い出したのだった。 失っていた、記憶を、すべて。 椋鳥は、号泣した。あらゆる後悔にさいなまれて。 「俺は――」 忘れていたかった。だから、ずっとボタンを隠していたんだ。自分で。 ひとしきり泣いた椋鳥は、よろよろと立った。大きな身体を支える細い足は、絶望にカクカクと折れそうだったが、彼は椋鳥だった。 まだ、翼がある。 椋鳥の目は決意に光り輝き、星空を睨み据えていた。 「上がらなきゃ、“階段”を」 贖罪の、ために。 |