「これが、“パズル”になります」 ペリドットのめのまえに浮かび上がったのは、百ほどもある、たくさんのモニターだった。モニターにはそれぞれ、映像が浮かび上がっている。 「これは――」 そばに控えていたサルーディーバがぽつりとつぶやいた。 「これらの映像は、あなたの前世ではありませんか?」 「そうかもしれん」 ペリドットは断定しなかったが、たしかにこれらは、ペリドットの前世なのだった。百を数えるモニターの、一番下の右端――そこに、ペリドットがいる。前世のひとつひとつ――生まれてから死ぬまでを、まるで映画の予告編のような短さに短縮して、くりかえし、くりかえし上映されている。 「これが俺の、ひとつまえの前世か」 ペリドットが映っているモニターの左横のモニターは、うつくしい女性が映っている。原住民の貴族のようだ。ペリドットは興味深げにながめたのち、映像が流れているモニターの数を数えた。 「68」 「ペリドット様、美人ですね」 「今の俺を見てりゃ、わかるだろ」 モニターはすべてついているわけではないのだった。真っ暗なモニターもある。 「ペリドット・ラグ・ヴァーダ・マーサ・ジャ・ハーナ・サルーディーバ。前世の数、268」 中央モニターにいるジャータカの黒ウサギがそう言った。この百余りのモニターのほかに、あと200、自分の前世があるらしい。 ペリドットは肩をすくめた。 「いったい、これをどうつかう?」 彼の問いに答えるように、中央モニターに、「リハビリ」と「リカバリ」の二文字が浮かんだ。 「どちらを実行しますか?」 ペリドットは迷わず、“リカバリ”を押した。 「リカバリする人物の名前と、前世の名前を入れてください」 名前を打ち込むキーボードらしきものはなかったので、ペリドットは口頭でこたえた。 「ロビン・D・ヴァスカビルだ。前世の名は、プロメテウス・A・ヴァスカビル、第一次バブロスカ革命の首謀者らしいんだが――」 「ロビン・D・ヴァスカビルの前世をリカバリします。第一次バブロスカ革命首謀者、プロメテウス・A・ヴァスカビル――」 すべてのモニターの画像がいったん消え、あちこち、ついたり消えたりした。 「該当しません」 ジャータカの黒ウサギは言った。 「該当しません」 「なに?」 「該当する名前が存在しません。ロビン・D・ヴァスカビルの前世に、プロメテウス・A・ヴァスカビルという名は、存在しません」 「なんだと?」 ペリドットは、拍子抜けした。アンジェリカも身を乗り出した。 「ロビンの前世に、プロメテウスの存在はないって言うのか?」 「ございません」 まるで機械的な受け答えに、ペリドットは、これが本物のジャータカの黒ウサギではないことを知った。 「待て。では、第一次バブロスカ革命の時代に生きていた、ロビンの前世を――」 「第一次バブロスカ革命の正式な年代を入れてください」 ペリドットは、姉妹と顔を見合わせた。 「正確な年代が分からない場合は、前世の名前が必要です。どちらも不明な場合、検索には、膨大な時間がかかりますがよろしいですか?」 「……」 「ペリドット、もう一度、“真実をもたらすトラ”をお召しになられては?」 だまりこんだペリドットに、差し込まれるようなサルーディーバの意見。 「そうするか」 ペリドットが同意したと同時に、真実をもたらすトラが姿を現した。彼は、クラウドの魂である、“真実をもたらすライオン”を連れていた。 『すまん。軍事惑星関連はこいつが担当だから、探しに行っていて、遅くなった』 「いや、かまわん。――、なにか情報はないか」 『そのことなんだが』 真実をもたらすライオンが言った。 『君はパズルをつかおうとしているようだが、今のままでは、ロビンのリカバリはおそらくできないぞ』 ライオンは、決定的なことを口にした。 「――たしかに、俺はパズルの術者ではないが、」 『そういう意味ではない。そもそも、ふたりに必要なのは、リカバリとリハビリ、両方だ』 『ちがうだろう、“リカバリ”だ』 『いいや、両方だ。両方必要なんだ!』 トラとライオンはにらみ合った。ペリドットと姉妹はふたたび顔を見合わせた。とにかく、トラとライオンは、あまり仲が良くない。 「まァ、待て」 ペリドットが二人のケンカを止めた。 「じゃあ、とにかく、“真実”をもたらしてくれ。第一次バブロスカ革命時代のロビンの前世は何者だ? プロメテウスではないなら、だれだ」 『……』 ライオンは、悩みあぐねる顔を見せた。それは、こたえを見つけられないという類の悩みではなく――。 『ラグ・ヴァーダの武神が見ている』 ライオンは、困ったように小声で言った。 『謎を解け。直接は言えない。ロビンという男にまつわるものは、2の数字。 “ふたりの女が死に、ふたりの女が救い、ふたりの女が導き、ふたりの女が待っている。 ふたりの男が死に、ふたりの男が救い、ふたりの男が導き、ふたりの男が待っている。“』 「待て――もう一度、」 ペリドットが言いかけたが、アンジェリカがメモしていた。 「“ふたりの女が死に、ふたりの女が救い、ふたりの女が導き、ふたりの女が待っている。 ふたりの男が死に、ふたりの男が救い、ふたりの男が導き、ふたりの男が待っている。“――だね?」 『そうだ』 ライオンはうなずいた。 『いまはそれしか教えることはできない。それを探っていれば、“救う男”がもうひとり、現れてくれるだろう。そいつが突破口だ』 「それはいったいだれだ」 『言えないよ。なにせ――その男だけが、ラグ・ヴァーダの武神に気づかれず動ける、たったひとりの男なのだ』 「なんだと?」 ペリドットは目を見張った。 『クラウドにつたえてくれ。――では』 トラとライオンは、あっというまに姿を消した。 |