商店街の面々が見つめるなか――戦車から、小さな山なら一撃で崩してしまう、一発目の光化エネルギー砲が放たれた。

 「こんなもんで、地獄の審判が終わるわけがない……」

 口々に彼らは言ったが、大路に戦車を持ち込んだ連中も初めてである。

 エネルギー砲は、見えない壁に命中した。山にドーナツにしてしまうエネルギー砲は、数分間放射しつづけたが、なにひとつ役割を果たせずエネルギーを使い果たした。

 「くっそォ!」

 バーガスが、これでもかとスイッチを押した。

 ロビンがいる位置を避けて、連続して大砲が撃ち込まれる。だが、見えない壁はビクともしなかった。

 

 「――ダメだ」

 アントニオの顔に焦りが見えた。

 「バーガス君! はやく戦車から出て!」

 

 「――!」

 アントニオの声を聞きつけて、チャンとバグムントが、バーガスを戦車内から引きずり出した。バーガスの足が、地面に降りた瞬間――。

 「うおおっ!!」

 「きゃあ!!」

 戦車を、いかづちが直撃した。爆発こそはしなかったが、戦車はいかづちを受けて中央部分がへこみ、砲台は真っ二つに折れた。

 

 「避けろ! 避けろ――!」

 ナキジンの悲鳴。

 大路一帯に、いかづちが落とされる。

 ロビンをうち付けているのとおなじいかづちが、さらに戦車を襲った。

 

 五分も続いただろうか。

 雷鳴が止み――商店街の皆がおそるおそる、逃げ込んでいた店から出て来た。戦車は、見る影もなく、大破していた。

 

 「なんちゅうことをするんじゃ! わしらまで死ぬわい!!」

 ハッカ堂の主人が、涙声で怒鳴った。

 「その鉄くずをさっさとどけろ! 神さんの邪魔をしちゃイカン!!」

 

 商店街の悲鳴をよそに、背後に待機していた車両から、グレネードランチャーを持ち出したバーガスは、間髪入れず、階段に向かって放った。

 「やめんかあーっ!!」

 ナキジンの悲鳴が轟く。

 

 見えない壁は、壊れなかった。

 「くそっ! くそっ! くそお!」

 バーガスはランチャーを投げ捨て、車両にある武器をさぐった――。

 

 最初に気付いたのは、だれだっただろうか。

 

「――おい」

その声に導かれて、皆が、上空を見上げた。

「……?」

拝殿前にいるララもエーリヒも、大路に出て来た商店街の皆も、砲弾の音に、目覚めて紅葉庵から出て来たミシェルたちも、目を見張った。

 

バーガスは機関銃に手を伸ばした。取ろうとすると、腕に小鳥が乗っていた。

おどろいて手を引っ込めたバーガスだったが、小鳥は、バーガスの肩にも乗っていた。

足元にも、たくさんいた。

「あァ!?」

踏みそうになってあわててよけたバーガスは、大路全体と、拝殿に至るまで、びっしりと小鳥で覆われているのを目にして、絶句した。

 

「どこから現れた」

アズラエルも、怯むほどの小鳥たちの群れを見て、つぶやいた。

「なんだこりゃ――スズメか?」

 

「違う」

ナキジンが言った。自分の肩に乗っかった、小鳥の姿を見て。

 

「――ムクドリじゃ」

 

真砂名神社が、椋鳥で覆われている。

 

おびただしい数の椋鳥が、拝殿から階段脇の樹木、灯篭の上や、紅葉庵の屋根――まるでロビンを囲むかのようにあつまっていた。すべての小鳥が、ロビンを見ている。

小鳥たちのなき声と羽音が、炎の音さえかき消す。

 

「うわ! ちょ、ルーシーに乗っかるんじゃないよ!」

パラソルにも、ルナの肩や頭にも乗っていた。ララは慌てて払ったが、小鳥は増える一方だ。拝殿まえの砂地は、椋鳥でびっしり覆われていた。

まるで、宇宙船にいるすべての椋鳥が飛んできたといわんばかりの、異様な数だった。

 

「なんだ、これ――」

 

グレンの言葉と同時に、キラリと、夜の神の錫杖が光る。いかづちの試練がはじまる合図だ。

階段下の樹木に群れをなしていた椋鳥たちが、いっせいに飛び立った。

椋鳥たちは――見えない壁を突き抜けた。

ふたたび、鼓膜がぶれるほどの雷鳴と、白い閃光――だが、今度こそ、ロビンは焼け焦げていなかった。

かわりに、ロビンの周りには、たくさんの椋鳥たちの亡骸があった。

 

ロビンは、力の入らない手で、自分を守った椋鳥に触れた。ロビンの指先から滴った血が、まるで椋鳥の涙のようにこぼれた。指先に触れると、椋鳥の形をした消し炭は、かさりと音を立ててくずれ、風がさらっていった。

ロビンの唇が、わずかに動いた。言葉は、椋鳥たちにつたわったのだろうか。どちらにしろ、アズラエルたちには聞こえない。その羽根のようにかすかな言葉を聞き取れるものがあるなら、神なる者以外にあるはずはなかった。

 

ロビンは、渾身の力を込めて、身を起こした。

――階段を、上がるために。

 

 「なんじゃこれは」

「――椋鳥が、ロビンを守っておるのか」

 こんな現象も、はじめてだった。

椋鳥たちはふたたびいっせいに羽ばたき、盾となって、ロビンを太陽の火から守った。

太陽の業火に、一瞬にして消し炭になった小鳥たちは、ちいさな鳴き声をこぼすこともなく消えていく。

 

「“椋鳥”ならば、あの壁の向こうに入れるのですね」

 

アズラエルたちは、はっと後ろを振り返った。チャンの額には、汗が浮かんでいた。

「チャン!?」

クラウドが止める間もなく、チャンは武器庫の車両に引き返し、中から盾を持ってきた。

ジェラルミンと、L系惑星群いちの硬度をほこる鉱石でつくられた、盾だ。

チャンはそれを携えると、階段に向かって走り出した。

 

「よせ! チャン!」

アズラエルが止めたが、チャンは突き進んだ。

見えない壁は、チャンを弾くことなく、受け入れた。

「なんだと!?」

バーガスの叫び。バーガスもあとを追うが、バーガスは弾かれた。

「ちっくしょう! どうして俺は、入れねえんだ!」

 

いかづちの試練がやんだ隙に、チャンはロビンのもとまで駆けつけた。

「チャン! ロビンを守ってくれ!!」

バーガスの絶叫。

太陽の神が手にした火の玉が、ごうっと燃え上がる。

 



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