プロメテウスは、軍部に直談判しに行きます。傭兵にまず、居住権を与え、軍の指揮下にある組織を作る許可を軍部に求めました。 そうすれば、ならず者の傭兵たちも、自分たち傭兵の組合で管理する。そうなれば、治安も落ち着くだろう、プロメテウスはそう考えました。 今でいう、傭兵グループの創設をうったえたのです。 ですが、これだけ大規模になった傭兵群が、軍部の許可を得て組織化したら、軍部が乗っ取られる可能性もあります。 それに、このならず者たちを軍事惑星の民は信用できませんでした。軍部の許可を得て、さらなる悪事を企んでいるのではないか。 軍部をはじめ、軍事惑星群の民は猛反対しました。許可が欲しいなら、まずさきにならず者たちを束ねろと軍部は突っぱねました。そのあいだも、治安は悪化する一方。 軍事惑星群の民の、傭兵たちへの怒りはやがて、プロメテウスたちに集中しました。 軍事惑星群を救いたくて立ち上がったプロメテウスたちは、がっかりしました。 ですが、このままでは自分たちの身が危うい。 プロメテウスは、一度引こうと言いました。 L81にもどって、組織を立て直そう。 彼女はそう言いました。 けれども、それに反対したのはエピメテウスです。 エピメテウスは、尚も軍部に押しかけ、「武力行使も辞さない!」と宣言しました。 群衆が、軍部に押しかけます。 傭兵たちを追いだせ――。 軍部はついに、エピメテウスを拘束しました。 彼女を、群衆の怒りを鎮めるための生け贄にしようとしたのです。 エピメテウスは喉を裂かれ、声を出せなくなりました。もう、民衆の前に引き出されても、なにも訴えることができません。牢で処刑の日を待つエピメテウスのまえに、姉や仲間たちが連行されてきます。 彼らはひどい拷問を受けました。 ほかに仲間がいないか、吐かせようとしたのです。 エピメテウスは後悔しました。 自分が、姉の言うことを聞いてさえいれば。 姉の言うとおり一度引き、L81にもどっていれば――。 こんなことには、ならなかったのに。 拷問がはじまって七日――牢屋に、ノワが現れました。 かつてノワは、L81の鉱山で、金を採掘できるようにしてくれたのです。その礼として、姉妹はノワをもてなしました。 みなは、ノワが現れたことにおどろきましたが、軍人たちにはノワの姿が見えていません。 ノワは次々に、不思議な力で軍人たちを気絶させ、プロメテウスたちを助け出そうとします。 けれども、プロメテウスは言いました。歯をすべて抜かれた真っ赤な口を開けて。 「われわれは、もうだめだ」 プロメテウスは、もう自分が助からないことを知っていました。拷問で死んだ仲間も、まだ生きている仲間も、助け出されたとしてももう生きられないことを知っていました。 「ノワよ。わたしの願いを聞け」 傭兵たちの未来のために、軍事惑星の民の怒りを鎮めるために、わたしたちは、処刑されよう。 だが――妹は助けてくれ。 エピメテウスは声なき声を発して叫びましたが、姉の決意は揺らぎません。ノワは、エピメテウスだけを連れて、牢を出ました。 拷問は、もはや長引きませんでした。ノワがなにかをしたのでしょう。処刑は、明日にも行われることになりました。 姉や仲間が処刑されるのを、エピメテウスは、ノワとともに高台から見つめました。 ――その後のエピメテウスの行方は知れません。ですが、残った記録には、処刑されたのはエピメテウスで、生き残ったプロメテウスが、仲間とともに、「ヤマト」、「白龍グループ」、「メフラー商社」のもとになる組織をつくったと言われています。 エピメテウスの名前は、記録に残っていません。 のこっているのは、プロメテウスの名だけです。 けれども、最初の傭兵グループをつくった「プロメテウス」は、傭兵たちの英雄でもあります。 プロメテウスの名を冠した二人の姉妹――その伝説は、受け継がれます。 いつか、ふたりの姉妹がそろって生まれ変わり、出会うとき、ふたたび傭兵たちは立ち上がるのです。 生き残った「プロメテウス」を、ひとびとはこう呼びます。 ――「偉大なる椋鳥たちの王」と。 悔いているのか。 ロビンは、意識を失いそうになりながら、だれかの声を聞いた。 おまえは、悔いているのか。 (悔いている? なにに? 俺が――なにを?) ロビンには分からなかった。だが男の声は、悲痛だった。おだやかな、眠りに誘うような優しい声でありながら、かなしみにあふれていた。 その声に呼応するように、ロビンの胸にも、かなしみがあふれた。 吐き気をもよおすほどの後悔と、かなしみ――。 (ああ、後悔している) ロビンはうなずいた。走馬灯のように、記憶が頭の中を駆けめぐる。 捕らえられ、声を失い、牢に放り込まれる、――苦しめられ、燃やされる十人の仲間たち。ノワの声、姿――声をなくした自分をかくまい、さらに死んでいった仲間、つくりあげた傭兵グループ。 ――母の声、「ここで待っているのよ、すぐ迎えに来るからね」 父の声、「おまえたちを死なせはしない」 ――父も母も、帰ってこなかった。甘い、ブレンダン・クッキー。よく食べていた菓子だった。あのときはじめて買ったのではない。ロビンは、よくあのクッキーを食べていた。アーズガルドの家で。 ロビンを殴り、蹴った傭兵たちの顔は忘れてしまった。プロメテウスの墓、子どもたち、後悔、――後悔。後悔だらけ。 自分のせいで、姉は死んだ。仲間たちは死んだ。そのあともさらに死んだ。 生まれかわって「ロビン」の名を持った今も、母が死んだ、父が死んだ――ロビンを逃がすために。 母と叔母、ふたりの姉妹は死んだ。 ――プロメテウスの悲願を、果たすために。 階段を進むロビンをうちすえる業火といかづちは、拷問を受けたプロメテウスたちの痛みに似ていた。 その顛末を招いたのは自分。 だとしたら、自分もその痛みを引き受けようと思う。 (俺は、進むのをやめない) 俺は、階段を上がり切る。 後悔と痛みは、俺を押しつぶすことなどできはしない。 俺には、あの恐ろしい二柱の男神の後ろに、しろく光り輝く、祝福の女神が見える。 |