――銀白色の光が、止んだ。 カーダマーヴァ村で、ロープを引くことも忘れて夜空から降りる光を見つめていたケヴィンだったが、はっと、腕時計を見た。 0時を過ぎている。 地球行き宇宙船では、朝日が昇ろうとしていた。 銀白色の光が消えるのと同時に、両脇の、夜の神と太陽の神が、ただの石像にもどっている。階段も、黒色から、もとの壁面にもどった。 ロビンは、倒れ伏したままだ。 ミシェルとエミリは、寿命塔の数字を見た。 まだ「1」を表示したままだが――砂が、残り少ない。 砂が、すっかり落ちようとしている。 それは、階下にいた皆にも見えた。――アズラエルにも。 「俺を入れろ!」 アズラエルは壁を殴った。 「俺を入れろ!!」 「アズ!」 クラウドが止めたが、アズラエルは振り払った。 「ロビンをここに連れて来たのは俺だ! 俺にだって、罪はあるだろ!」 壁は、消えない。バーガスのときのように、消えはしなかった。 「俺を入れろっ!!!!!」 アズラエルの絶叫とともに、だれかが、壁の向こうに現れた。 (ノワ) ノワは一瞬でかき消えた。彼が消えるのと同時に、壁も消えた。アズラエルは、駆けあがった。 「――砂が」 ミシェルが寿命塔にすがった。 最後の砂が。 ――落ちる。 「アズラエル!」 「バカ! まだ終わっとらん!」 アントニオやナキジンが止めるのも聞かず、アズラエルが階段を駆けあがった。 夜の神の錫杖が光る。 最後のいかづちが、ロビンを庇ったアズラエルを直撃した。 「うがっ!!」 寿命塔の数字が、「0」に変わった。砂時計の砂は、落ち切っていた。 最後の雷は、幾分か威力がちいさめだった。アズラエルは背中が焦げるにおいをかぎながら、まだ自分が生きていることを自覚した。 「ロビ、」 目を見開いたまま倒れているロビンの脈に手を当て――絶望に満ちた顔をした。 「――おい」 ロビンはすでに、冷たくなっていた。 アズラエルの様子に、階段上にいたエミリもミシェルも――皆が、気づいた。 銀白色の光が落ちてきたころから、ロビンは動かなくなっていた。 「ウソよ! ロビン! 起きて!!」 ミシェルが、がくりと膝をついた。エミリがロビンのもとへ駆け寄ろうとしたが、まだ、見えない壁が、エミリたちを阻んでいた。 エミリの嘆きが、木霊した。 「ロビン――!!」 ケヴィンが膝をつくと、雪に身体が埋まった。無情に時を刻んでいく秒針を見つめながら――ケヴィンは震える声で、つぶやいた。 「――なあ、イシュメルさま、出てきてくれ」 ケヴィンは這うように石室により、足を滑らせて階段を転げ落ち、扉に頭をぶつけた。目がくらんだが、ケヴィンは倒れるわけにいかなかった。 石の扉が、つめたくケヴィンを拒絶している。 「あぶねえ!」 エポスがケヴィンを引っ張ってくれたが、ケヴィンはかまわず、扉に頭を打ち付けて、絶叫した。 「お願いだよ! 出てきてよ!」 ケヴィンは泣きじゃくった。人目もはばからず号泣した。 「俺は、もう後悔なんかしたくない! なにもせずに、帰りたくない!」 バンクスさんは俺の知らない森で、ひとりで死んで、ヒュピテムさんとユハラムさんは、俺たちのために――。 「このままじゃ、ルナッちもロビンさんも、」 また俺は後悔するのか。だれかを死なせてしまったことを。 「もう嫌だよ! みんなを助けて! 俺を――助けてよ――!!」 石室から、閃光があふれ出た。 ゴゴッ――。 まるで、石の板がずれたような音だった。光が強くなる。 「う、わあっ――」 村人たちは、腰を抜かした。石室から、いっぱいに光があふれて――天井が、吹っ飛んだ。 ズドン――。 アズラエルの横の、階段がへこんだ。ひび割れた壁面に、ひとの足がめり込んでいる。アズラエルは、それが誰の足か、すぐにわかった。もう動けないアズラエルとロビンを、大きな腕が、抱え上げる。 ――イシュメル。 だれもが、その姿を見た。アズラエルとロビンを両肩に担ぎ上げ、階段を上がろうとする、イシュメルの姿を。 ふたたび、階段が真っ黒に染まっていく。 今度は、イシュメルに対する「地獄の審判」がはじまろうとしているのか。 太陽の神が手にした火の玉が燃え上がり、夜の神の錫杖が光る。 火の玉といかづちが、同時に降ろうとしている。 「――!!」 エミリとミシェルは、抱き合って目を瞑った。 いかづちと太陽の連弾が、ふたたび階段を覆い尽くす――はずだった。
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