百五十三話 真っ赤なプードルのおしゃべり



 

私は「真っ赤なプードル」。

聞いたことあるでしょ。私って有名よね。オシャレで可愛くて、世界中のオトコはみんなわたしのトリコ! ……なあんてね。でも、それだけの自信はあるわ。

真っ赤な動物ってね、基本的に可愛い子とか、綺麗な子が多いのよ。なぜかしらね、やっぱり恋が自分の中心だから、自然と自分を美しく見せることに、全力を賭けるからよね。

女って、もとがあんまり――アレでも――化粧の仕方や髪形の工夫で、いくらでも綺麗になれるとおもう。あと自信よね。それからいつでも、オトコの目に触れることが大切。

……え? うん、そうそう、「美容師の子ネコ」も綺麗よね。でも、私のほうがどっちかいうと美人よね。

うん。美容師の子ネコ、たしかに美人だわ。でも私のほうが、キレイだと思わない。

あの子は美容師だから、髪形とか服のセンスはまあいいと思うけど、子供のころからモデルをやってるわたしにはかなわないし。

でもでも――でもネ。真っ赤な動物って、意外といるものだけど、わたし、「真っ赤な子うさぎ」にはびっくりしちゃったわあ。

なにがオドロキって――ビックリって――あの子、マジで可愛くないんだもん。

赤い動物で美人じゃない子って、私はじめて見た。

あ、ダメ? 言いすぎ? 正直すぎ? いやだって、さあ……。

みんな、そう思ってるわ。口に出して言わないだけで。

 

真っ赤な動物って、基本的にキレイ系が多いわけ。でもさ、あのうさぎだけは別。ブスなんだもん。え? はっきり言いすぎ? だってマジでそうじゃん。

もともときっつい顔してるし、化粧の仕方も間違いだらけだし、きっつい顔をさらにきっつく見せる化粧してるし、服のセンスもなってないし、あの顔で真っ白のワンピースは似合わないでしょ。ナチュラル系、合わないんだって。

ああいうのが似合うのは、「茶色いプードル」とか「月を眺める子うさぎ」とか――なによりも、アイツ、性格ブスが思いっきり顔に出てるって。――だから、はっきり言い過ぎだって? だって、あんたもそう思ってるでしょ。

 

絶対、あの真っ赤な子うさぎ、友達いないって。

 

この宇宙船に乗ってからできた彼氏、友達、バーベキューパーティーをだいなしにしたから、みんなそろって宇宙船を降ろされたじゃない。

あの件に関しては、ざまあみろ、よね。

「真っ赤な子うさぎ」は、付き合っていた軍人気取りのヤンキーに、ひどいことを言われたの。

「真っ赤な子うさぎ」は妥協してたわけ。そのうち、本物の軍人と付き合うってンで――遊んでやっているつもりだった。

だから、ヤンキーが、宇宙船をおりるまえ、「てめえみてえなブスと付き合ってやっただけ、ありがたく思え」っていったもんだからさ。

男の方も、宇宙船に乗っているあいだの暇つぶしに、自分と付き合っていただけだと知って、大ショックも大ショック。

ほかの友達も、真っ赤な子うさぎだけ宇宙船に残されるって聞いて、「ずるい」だの「なんでおまえだけ」とか、さんざん悪態ついて降りたみたいね。もちろん、かりそめの恋も友情も、そこでパア。

だからって、「月を眺める子うさぎ」を逆うらみするのはおかしいって。

 

――そうそう、そうなのよ。真っ赤な子うさぎが「月を眺める子うさぎ」をやたらライバル視するのはさ、「月を眺める子うさぎ」の彼氏が、「傭兵のライオン」だからなんだよね。

つまり、「傭兵のライオン」は、真っ赤な子うさぎが彼氏にしたい軍人の、理想の姿、なわけよ! 

傭兵と軍人は違う? ――そうね、たしかにそれはそうだけど、わたしたちL5からL7系の、フツーの女の子にとっては、あまり区別がつかないの。

真っ赤な子うさぎはさ、軍人に憧れているの。理由があるのよ。軍人にこだわるのにもね。

 

いい? ちょっと長くなるけど。

 

真っ赤な子うさぎにはね、お姉さんがいるの。それはそれは美人なお姉さんが。

美人なだけじゃないわ。

彼女は「選ばれたアメリカン・ショートヘア」。

猫は猫でも、種の名前が具体的に挙がるということは、その名を冠した動物により近い性質を宿すというわけ。「猫」は「猫」でも、「アメリカン・ショートヘア」。

彼女は、徳高きたましい。

上品で美しく、高貴な雰囲気を醸し出した女性。「真っ赤な子猫」とうりふたつなのに、彼女は「高貴」、真っ赤な子うさぎは「冷たそうな顔」と言われるの。

「選ばれたアメリカン・ショートヘア」は、いつでも選ばれたわ。

子どものころから、なにか集まりがあれば、すぐリーダーに選ばれるの。町内会のリーダーに。学級委員長に。学校の生徒会長に。ピアノの発表会でも、いつも代表だった。

つまり、いつでも人の中心にいて、トップに立つひとだった。みんなのあこがれの的であり、誰もがお近づきになりたい女性だったの。

天は二物を与えず、というのはウソだわぜったい。

いくら私でも、こんな姉持ちたくないわね。当然のように、真っ赤な子うさぎは姉と比べられて育つ。

 

さて、高貴な姉は大学の卒業後、「選ばれて」L5系の、とある大企業の社長秘書になり、三年後に、素敵な男性と知り合って、彼に「選ばれて」結婚した。

相手はL22の将校。「誠実なセントバーナード」。

 

最初に言っておくわね。

同じ軍事惑星群でも、L22とL18って、ものすごく違うの。

L22がだれでも遊べる海水浴場だとしたら、L18は海溝。一般的に、L5系からL7系までの平和な惑星群でイメージしている軍事惑星って、L22のこと。

L22は軍事惑星群の広報担当、軍事惑星群の窓口であって、大都市が立ち並ぶ都会よ。

環境はL5系に似ていて、入星するときも、特別な審査はいらない。パスポート――入星許可証さえあれば誰でも入れる――ほかの星と同じ。

 

暗くて重い歴史があって、L4系やL8系方面などの戦争に、実際に行っているのはL18、L19、L20。この三つの惑星とL22は、同じ軍事惑星群でも、政治情勢も、社会環境も、全く違うのね。

最近は、アーズガルドの軍隊なんかがL22に入ってきたけれど、もともとL22は、ほかの星とはくらべものにならないくらい、戦争に行かない軍人たちであふれているの。

 

真っ赤な子うさぎは、それを知らない。真っ赤な子うさぎだけじゃないわ。基本的に、私たちL5系からL7系の女の子なんて、そんなの分からなくて当然なのよ。軍事惑星っていえば、みんな同じだと思っている。

軍人と傭兵の区別がつかないのと同じように。

 



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