百五十四話 真っ赤な子ウサギと、華麗なる青大将



 

 ルナは夢を見ている。

 森の中だった。おそらく、フクロウたちと宴会をした森と同じだろうが、ひらけた広場になっていて、かがやく星空のした、木々に囲まれた広場の中央には、おおきな木が立っているのだった。

 「おおきなうさぎの木よ」

 「うさぎの木?」

 ルナは、巨木を見上げて言った。たしかに言われてみると、幹の帽子みたいな葉っぱの群集は、ウサギ耳のように、二本、ぴょこん、と角を立てているように見えなくもない。

教えてくれたのは、だれだろう――ルナは周囲を見まわして、仰天した。

 広場が、いきなり、ものすごくたくさんの動物で埋められたからだ。

 でも、おおきな動物は一匹もいない。ぜんぶがぜんぶ、うさぎやネコ、子犬などの小動物ばかり――おまけに。

 (みんな、女の子だ)

 どの動物も、可愛いワンピースを着ていたり、リボンをつけていたりして、女の子だということがすぐに分かった。

 

 「ちょっと、がんばっちゃった」

 ルナに木の名前を教えてくれたのは、軍服を着た真っ白なウサギだった。

 「あ――!」

 たしか、うさぎコンペで、向かいに座っていたうさぎだ。彼女の横から、ジャータカの黒ウサギもひょこりと顔を出した。

 「いっしょにがんばったのよ。あちこちから、たくさん集めてきたの。あなたの手助けをしようと思って――」

 「え?」

 この、女の子ばかりの小動物の群れが、いったい、何を意味するのか、ルナにはさっぱりわからなかった。

 しかし、すぐに解明した。

 

 「うわあ! こんなにたくさん! うさぎさん、ありがとう!!」

 喜びの声とともに、おおきな青大将が姿を現したからだ。

 「か、華麗なる青大将さん!?」

 ルナは叫んだ。

 「覚えていてくれたの、うれしいなあ!」

 青大将はうれしげに、ほっぺたを赤くした。

 「やっぱり、派手な名前にしてよかった! 俺は地味だもの。だから、いつもみんなに嫌われちゃって」

 ルナは呆気にとられて青大将を見上げた。「華麗なる青大将」という名前は、自分でつけたのか――地味なのが、嫌で?

 (き、きらわれるのは――地味だからじゃ、ない、と)

 ルナは言いたかったが、怖くてなにも言えなかった。近くで見ると、ほんとうに大きい。

 

 とにかく、ルナにもわかったことは、このたくさんの小動物たちは、ジャータカの黒ウサギと、真っ白な子ウサギが集めてきたのだ。月を眺める子ウサギの手伝いをしようと思って。

 華麗なる青大将に、恋人をつくってあげようと、思って――。

 

 どの子にしよう、とさっそく鎌首をもちあげて、広場をながめわたした青大将。

 「きゃああああ!!」

 暗闇から、巨大な大ヘビの姿が現れたとたん、うさぎや子犬たちの間から、恐怖の悲鳴があがった。

四散した小動物たち、響きわたる悲鳴、「たすけて」「怖い」という絶叫――数分もしないうちに、草原から、小動物は消えた。

 

 ルナは口をあんぐりとあけて、その顛末をながめていた。ジャータカの黒ウサギと、真っ白な子ウサギも、まさかの全員逃亡に、ぽっかり口を開けてしまった。

 ――気づけば、すっかりとぐろを巻いたなかに、自分の頭を押し込んで落ち込んでいる、「華麗なる」青大将がいた。

 「――やっぱりね」

 俺なんか、どうせ――ヘビだから。

 もごもごと、とぐろの中から、青大将のかなしげなつぶやきが聞こえる。

 

 「ねえ、あのね」

 ルナは言った。

 「おなじヘビは、いやなの? ヘビ同士だったら、存外うまくいくかもよ」

 ジャータカの黒ウサギと真っ白な子ウサギも、うしろでうなずいている。だが、青大将は首を振った。

 「俺は、ヘビは嫌だ。同族嫌悪ってあるだろ? ヘビはなんとなくつめたくて、薄情で、俺は嫌だ。――君だって、ライオンなんかとつきあってるじゃないか。おまけにトラとパンダがキープされてる」

 ルナは、べつにあのふたりはキープではないと言いかけたが、話がややこしくなりそうなのでやめた。

 

 「あら、あたしは、運命の相手がウサギよ? とっても大きな、青いウサギ」

 しばらく会ってないけれど、とジャータカの黒ウサギは言った。白ウサギも青大将をはげますように、言った。

 「あたしも、銀色のトラさんとの相性はいいけれど、ホントの運命の相手はべつにいるのよ。もちろん、ウサギだわ。このあいだ生きていたときは、生まれ変わってなかったけれど――それに、“器用なオオカミ”さんとの相性もよかったの。だから、あなたも、ウサギや子犬や、子ネコにこだわらないで、同類の中でも、もっと探してみたらどう」

 器用なオオカミさん、はグレンの親友である傭兵のウォレスだった。ルナは、夢の中ならなんでもわかるのになあ、とため息をついた。

 

 青大将は、とぐろのなかから顔を持ち上げた。

 「俺は、ちいさくて、かわいくて、尽くしてくれる子がいいんだ」

 ルナたちは、顔を見合わせ――ジャータカの黒ウサギは、ひどく深刻な顔で言った。

 「……子ネコは、どっちかというと、気まぐれで、きっとあなたが尽くさなきゃいけないわよ? うさぎは、あなただけというより、多方面を見てしまうから、やきもきする羽目になるかも? 子犬は、尽くしてはくれるけど、ものすごく甘えんぼうで常に一緒にいたがるから、あなたは窒息しそうになるかもしれないわね?」

 ついに、青大将は悲憤の絶叫をした。

 「どこかに、俺の理想のうさぎはいないのか!?」

 「理想の相手――それが運命の相手かしら?」

 うさぎたちは、ひそひそと相談し合った。

 

 「小さくて、可愛くて、尽くしてくれる子ねえ――どうする――今度は、コマドリとカナリアでも集めてくる?」

 「ルナ、だれかいい人はいない?」

 「イマ――真っ赤な子ウサギは、ダメなんでしょ?」

 「だって、だってだわよ」

 「そうよね、だってよね」

 うさぎたちが車座になって、うさ耳をぴこぴこさせながら話し合っているところへ、金切り声が聞こえた。

 

 「見つけた!!!」

 



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