「ルナ」 ドローレスが、ルナに向きなおった。 「アダムが助けようとしている恩人は、わたしたちの恩人でもある。――ルナ、彼がわたしたちを助けてくれなかったら、おまえは生まれていなかったかもしれない」 「!」 ルナはそれで、アダムとドローレスが助けようとしている「恩人」の正体が分かった。 「もちろん、アズラエルも、ここにはいない。いま、軍事惑星の動乱に巻き込まれれば、彼は間違いなく命を落とすだろう。わたしとアダムは、そうならないよう助けに行くんだ――分かるな?」 「う、うん!」 ルナは真剣そのものの顔でうなずいた。 「リン」 「分かってるわ」 リンファンも、気丈に、ピエトとツキヨの手を握りしめた。 「ツキヨさんを頼むぞ」 「ちょっと待って、アダムとエマルが任務から抜けるの?」 アマンダが、叫んだ。 「そのふたりが抜けると、穴がでかいよ。かわりに、宇宙船役員の傭兵でだれかいないの。ふたりの代わりになりそうな――」 「もともと、アダムさんの名は、任務のメンバーには入っておりません」 ヴィアンカの、大層な笑顔だった。 「え!?」 傭兵たちが、冗談だろという顔をした。あわてて、手元の用紙を確かめる。さっき、あらためて渡された任務要綱には、たしかに、アダムの名はない。 「ほんとだ……」 アダムには、任務要綱に自分の名がない理由が分かっていた。アダムは、不本意とはいえ、かつてメルヴァから依頼された任務に従事した。 では、なんのためにここまで呼ばれたのか? アダムはまだ、興奮のために冷静な思考をとりもどしてはいなかったが、そのためだとしても、どう考えても、そこに行きついてしまうのだった。 このチケットを受け取るために、ドローレスたちに再会するために、ここへ来た――。 地球行き宇宙船は奇跡が起こる場所なのだという。 ドローレスやツキヨたちとの再会が奇跡でなければ、なんだというのだ。 E348で受け取った、ピーターからの封書から、奇跡ははじまったといっても過言ではない。 もう死んだと思っていた旧友や、二度と会えないと思っていたツキヨとの再会――それにくわえ、恩人を助け出す道まで、ひらかれた。 このことがきっかけで、ドローレスは、もしかしたら傭兵にもどるかもしれない。 (アズ、おめえは、とんでもねえ宇宙船に乗ったんだな) アダムは、息子とルナを、不思議な面持ちで見つめることしかできなかった。 メルヴァがもたらす不可思議はまっぴらだが、息子とルナがもたらした不思議は、まさに最高のクリスマスプレゼントだった。 「エマルさんには、アストロスに到着次第、任務に就いてもらうこともあるかもしれません」 エマルの名は、任務要綱にはちゃんとあった。 「そりゃかまわないよ。宇宙船の中でも、鍛えられるしね」 「はいはいはーいっ!!」 オリーヴが、右手を挙げてずいずいやってきた。 「地球行き宇宙船って、チケット一枚で、ペアで乗れるんでしょ!? おふくろと、リンさんと、ツキヨばーちゃんと三人で、あとひとり空いてる!」 オリーヴの言いたいことが分かったアマンダとエマルは、左右から、娘の後頭部をべしっと叩いた。 「あんたまで任務から抜けたら、なにしにここまで来たか分からないじゃないか!」 「あたしも乗りたいいいいいい!!」 オリーヴが地団太を踏み、ツキヨが苦笑しつつ、言った。 「まあまあ……三ヶ月くらい、ダメかねえ。オリーヴも一回乗れば、気がすむだろ」 孫に甘いおばあちゃんに、アマンダとエマルの眉が凶悪にしかめられたが――。 「ダメだ」 はっきりと言ったのは、アズラエルだった。 「ダメだ。ツキヨばあちゃんのチケットで、もうひとり、乗る人間は決まってるんだ」 アズラエルがルナにウィンクをした。ルナはほっと、肩を落とした。 “バラ色の蝶々”が、だれなのか、まだ分かってはいないが、その人物を乗せるように、ZOOカードでは出てきた。 「ええ〜っ。つまんねえ……」 オリーヴがすっかり猫背になっていじけたが、ヴィアンカが助け舟を出すように、言った。 「一日だけですが、船内の見学はできますよ?」 「マジ!?」 ふて腐れてソファの布地を引っ張っていたオリーヴが、ヴィアンカに飛びついた。 「任務の報酬から、きっちり引いときます。一日乗船券は、ひとり五十万デルです」 「なんだと!?」 金銭にうるさいアマンダは、任務要綱にあった報酬と照らし合わせてさっそく計算し、 「……一日で、五十万、う〜ん、見学で入るだけで五十万、う〜ん、」 と財布のヒモをかたく縛る様子を見せたが、 「乗っとくか」 メフラー親父のひとことで、すべてが決まった。 「ええっ!?」 反対したのは、アマンダだけだった。 |