あまり立て続けにいろいろあったルナたちは、すっかりクリスマスのことなど頭からすっぽ抜けていたわけだが――宿泊先の水上ヴィラも、クリスマス、という気分からはいまいち遠かった――しかし、クリスマスと認識したとたんに、皆々は行動を開始した。

 任務の打ち合わせは、大きなところは済んだ。あとは、アストロスに着いてからだ。地球行き宇宙船がE353を発つ1月10日には、メフラー商社とアダム・ファミリー一行も、アストロスに向かって出立する。

 アダムとドローレスが、L系惑星群にもどる日付も、その日にした。

 

 「もう、もう! らめです! これ以上はだめです!」

 ルナは涙目で主張していた。

 「これ以上ピエトを甘やかさないでください!!」

 

 部屋に山積みにされたクリスマスプレゼントに、ピエトは目を剥き、自分より高く積み上げられた箱や袋を、あっけにとられて見上げていた。

 初孫への、気合の入ったじいさんばあさんのプレゼントは、そっけなさを装いながらも尋常ではなく、ひいじいさんとひいばあさんが存在することも、ルナたちは思い出した。

 メフラー親父などは、すっかりピエトとルナを自分の孫と決めつけていたし、ツキヨは無理を押してまで、ショッピングセンターに出向いて、ルナとアズラエルとオリーヴと、ここにはいないスターク、ひ孫のピエトへのプレゼントをいそいそと選んだ。

 

 新しい長靴に、帽子、スニーカー、洋服、菓子の詰まったクリスマスボックス、ゼラチンジャーのおもちゃが3つ、ゲーム機にゲームソフト、絵本、カメラ……と、ピエトはルナと送り主と、中身をくりかえし見ながら、箱を開けた。

 ひ孫のピエトにプレゼントが集中したのは仕方ないとしても、ルナたちも、プレゼント交換はした。しかし、ルナにも、とくべつなプレゼントの箱が積み上げられていたのには、ルナは焦った。

 全員からプレゼントをもらってしまったルナは途方に暮れた。

 ボリスとベックまで、菓子が詰まったクリスマスボックスをルナにくれた。

 

 「ひぎい……これ、メチャ高いヤツだよ……」

 “オリーヴから、オネエサマへ”とキスマーク付きのクリスマスカードがついたプレゼントは、高級化粧品のクリスマスコフレだった。

 「今年は、ものすごいクリスマスになっちゃった……」

 ルナは嘆息し、隣室の、ピエトの呆然自失具合を思い出していた。ゼラチンジャーのあたらしい変身セットが3つもあったので、ピエトは、「ネイシャとベッタラにやる」といって、包みなおしていた。

 すっかり日は沈み、水上コテージの明かりが、点々と、星のようにきらめいている。目を瞑ると、波の音が耳をくすぐった。

 みんなは、ひと部屋に集まって、クリスマス・パーティーをはじめている。ルーム・サービスを運ぶボートが、みんなの集まる部屋に着いたのを見て、ルナは「あたしも行かなきゃ」と立った。

 

 

 

 「リンさんっ……ドローレスさん!!」

 「うわああ……本物だ!」

 31日、バーガスとレオナが水上コテージまでやってきた。そして、さらなる感動の再会を果たした。

 「バーガスちゃんに、レオナちゃんも――大きくなって!」

 リンファンの天然ボケに、ふたりは泣きながら噴いた。

 「俺たちは、もともとでかかったよ!」

 「ふたりと別れたのは、あたしたちが二十歳になるかならないかのころだろ――リンさんは、まったく変わってないね!」

 「ついに結婚したのね! ――まあ、可愛い子!」

 「バーガスにそっくりだな」

 ドローレスは、チロルを抱き上げて、笑みを見せた。ドローレスは、この水上コテージにいる間、一年分も笑ったのではないだろうか。

 

 ルナは、砂浜に、セルゲイとグレンの姿も見つけて、目を見開いた。

 「セルゲイ! グレン!」

 「俺はお呼びじゃねえと思うんだが――バーガスに引っ張られてな」

 セルゲイはともかく、グレンはひどく、居心地の悪い顔をしていた。

 

 「グレン・J・ドーソンじゃねえか」

 ボリスが、一瞬かまえた。ベックやアマンダの顔も強張る。

 「どうして、ここに」

 

 ルナは、彼らが構える理由も分かっていたが、きちんと言った。

 「グレンは、一緒に住んでいます」

 「!?」

 皆の顔色が、変わるのが分かった。

 「ちゃんとゴミ出しもします! お掃除もするよ!? 最近は、オムライスとパエリアと、ごはんものなら、なんとか作れるようになりました! 褒めてあげてください!」

 アズラエルの噴き出しそうな顔は、ルナはまったく気づいていない。

 「あの! あたしたちとくらすまえは、部屋がゴミ屋敷だったグレンが! お掃除するようになったの! すごいでしょ? トイレ用のお掃除ウェットティッシュで顔拭こうとしてたんだよ? さいしょは!」

 ルナは、グレンの弁護のために、泣きそうな顔でそう叫んだのだが――。

 

 「ぐぶおふぉ!」

 アズラエルがついに我慢できずに尋常でない噴き方をし、グレンにどつかれた。

 メフラー商社とアダム・ファミリーの面々は、一瞬固まったあと――爆笑した。

 

 「ドーソンの!? ドーソンの嫡男にゴミ出しさせてんのか!!」

 「ルナちゃんサイコーだ!!」

 「掃除って――掃除って――掃除の仕方、分かってんのか!」

 

 ベックもオリーヴも、デビッドも笑ったが、ルナは、

 「最初は、掃除機のつかいかたも分からなかったけど、ちゃんとできるようになりました!」

 と自慢げに言った。グレンは、顔を覆った。いますぐ帰りたかった。

 「うぎゃはははははは!!!」

 皆は、のたうち回って、笑い転げた。

 

 「笑いすぎだ……」

 しかめっ面でそちらをにらんでいたグレンだったが、「グレンさん」と話しかけられて、振り返った。ドローレスが握手を求めていた。

 「ルナの父です。――あなたのお父さんには、救われた」

 たちどころに、笑い声が止んだ。

 「父のしたことです。俺じゃない」

 「あなたも、きっと同じことをしたでしょう。わたしはそう思う」

グレンは苦笑いし、言葉を見つけられずに、握手に応じた。

 

 「おめえ――“セルゲイ”か」

 メフラー親父が、ふらふらと立ち上がっていた。セルゲイは、用意していた言葉を告げた。

 「たしかにわたしは、セルゲイという名です。でも、ルナちゃんのお兄さんとは、別人なんです」

 困り顔で彼は言ったが、アマンダやデビッドたちも、信じられない顔でセルゲイを見つめていた。彼らの網膜に、なにが映っているか、セルゲイには分かっていた。ルナの兄セルゲイが成長した姿として映っているのはたしかだった。

 

 「あの――ごめんなさい」

 リンファンが、セルゲイを見上げていた。

 「失礼な申し出だとは、わかっているんです――失礼を承知で――あの、どうか、わたしたち家族と、どうか、写真を、」

 「リン」

 ドローレスが止めたが、セルゲイはうなずいた。

 「わたしでよければ」

 「い、いいんですか」

 「写真くらい」

 

 バーガスが、セルゲイをここに連れて来た意味も、セルゲイは分かっていた。しかし、セルゲイとしては複雑な気持ちだった。

 「兄」としてしか、ルナの隣に立てない。

 アズラエルの親と、ルナの親の奇縁も、アズラエルが恋人としてルナの隣に立つことを、最初から決めているような配置なのも気に食わない。

 セルゲイの気持ちを知っているルナは、おなじく複雑な視線を、セルゲイに向けている。

 

 (アズラエル)

 セルゲイは微笑した。

 (来世は、ルナちゃんを君に渡さないからね)

 

 「……!?」

 アズラエルは、ぞわりとした視線を感じて、あたりをキョロキョロ見回した。

 



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