ルナとセルゲイ、ドローレスとリンファンは、ならんで写真を撮った。リンファンは、撮った写真を、いつまでも見つめていた。それはそれは――幸せそうに。

 ついでに、ホテルの従業員に頼んで、みんなで写真を撮った。

 セルゲイとグレンは遠慮したが、セルゲイは、リンファンの涙目に負け、グレンはバーガスが無理やり引き入れた。

 「こいつは、もうドーソンじゃねえ!」

 「!」

 グレンも、だれもが、バーガスを見た。バーガスが鼻息を荒くして言った。

 「グレン・J・ブダシェンコってことで、」

 「……語呂が悪かねえか」

 メフラー親父が言い、それでみんなはふたたび爆笑した。困り顔ではあったが、グレンも集合写真に加わった。

 

 最後に、なぜかピエトが、カメラを持ち出してきた。クリスマスプレゼントにもらった、あたらしいカメラだ。

 「4人で、そこに並んで」

 ピエトは、海を背景に、ルナとアズラエル、セルゲイとグレンを撮ろうとした。

 「なんで、この4人なんだ」

 アズラエルだけではなく、グレンとセルゲイも不服そうな顔をしたが、

 「いいから撮るの!」

 ピエトに押し負けて、4人は並んだ。ルナ以外の笑顔が引きつっていたのは、言うまでもない。

 

 

 

 新年を迎えたのは、水上コテージだった。

 ルナは、宇宙船に乗った最初の新年を、マタドール・カフェで迎えた日のことを思い出していた。レイチェルたちの結婚式。みんなでカウントダウンをした。

 今日――二年目の終わりは、去年とは違って、ずいぶんしずかで、おだやかだった。

 ピエトは目をこすりながら起きていたし、ツキヨも、ここに来てから、見違えるように頬はバラ色になり、元気になった。深夜まで起きていても平気だ。

 ルナはオリーヴとベック、ピエトとカウントダウンをした。ほかの大人たちは、はしゃいでカウントダウン! という感じではなかったので、若い四人で「ヒャッホー! 新年―!!」とシャンパンを開けた。ピエトはジンジャーエールで。

 

 「こんなところで、新年を迎えられるなんてねえ」

 アマンダはめずらしく、ツンデレもなりをひそめて、デビッドの肩に頭を預けて、海の音を聞いていた。

 「こんなおだやかな新年はひさしぶりだ」

 去年は任務の最中で、知らないうちに二日たっていたボリスが、メフラー親父とドローレスのためにウィスキーのロックをつくりながらつぶやいた。

 「ウチじゃ、大みそかはピザだったねえ」

 エマルは嘆息し、

 「ちょっと豪華に、アカラの商店街まで出てなァ。惣菜と、ピザとワインを買って」

 アダムが笑った。

 

 「ドーソンじゃどうなんだ? 豪勢なフルコースか」

 ボリスがからかうように眉をあげたが、グレンは鼻を鳴らした。

 「ンな、呑気な新年を過ごしたことはねえな。大みそかから新年にかけては、一年の反省会という名の、一族会議だ。あとは、見たこともねえ連中に挨拶するだけのパーティー。たしかに豪勢な料理は並ぶが、ゆっくり食ってる暇なんかねえよ。帰ったら酒をあけてバタンキューだ。……クリスマスと新年は、地獄だったなァ」

 思い出したくもないといったグレンの口調に、いきなり、座が静寂に包まれた。またからかわれると踏んでいたグレンは、突然の沈黙に、「……なんだよ」というほかなかった。

 

 「え? それって、家族で過ごしたりとかしないの?」

 オリーヴが信じられないといった顔で聞いた。

 「カノジョとかは? いっしょに初日の出見たりとか?」

 「家族? カノジョ?」

 グレンには、新年を家族で過ごした思い出はなかった。あるとすれば、ルーイの家にいた、十歳までのほんの数年間。それに、恋人と過ごすことなどはぜったいにできない――恋人などつくろうものなら、宿老全員にチェックされる。

それを言うと、ツキヨが、目頭をハンカチで押さえていたので、グレンはギョッとした。

 

 「……そんなことをしているから、血も涙もないことをする一族になっちまうんだよ!」

 

 それはそのとおりだとグレンは思ったが、ずいぶんはっきりいうな、このばあさん――としかめっ面になりかけ、座が妙にしんみりしていたので、ふたたびギョッとした。

 「ドーソン野郎に同情したのは、はじめてだ」

 デビッドまで、目を覆っていた。

 「ドーソンに同情の余地はないけど、あんたはかわいそうだと思うよ! じゃあなにかい、青春時代も、ずっとそんなもんかい! 恋人と、新年を迎えるデートもしたことないって、そういうことかい!」

 エマルがなぜか泣いていた。だいたいみんな、酔っているのだ。それが分かったグレンは肩をすくめたが、セルゲイは、横で必死に笑いをこらえている。

 「グレン! おめえ、勘当されたんだろ? もうドーソンじゃねえんだろ? やっぱ俺の弟になれ! ブダシェンコ名乗ってもいいからよう!」

 「そうだよ、あんたがいい奴だってことは、いっしょに暮らしたあたしたちがよくわかってる!」

 バーガスとレオナも半泣きでグレンの肩を抱くのに、「そ、そりゃどうも……」と引き気味になっているグレンがいた。

 

 「ピザといえば、メフラー商社じゃ、いつも年越しはピザだったわね」

 リンファンが言った。アマンダが、

 「あいかわらず、“マリナーラ”のピザだよ。去年は、ロビンもアズ坊もいないってのに、いつもどおりピザ頼んじまって、正月中ずっとピザだったよ!」

 げんなり顔をした。

 「マリナーラ! まだあるのね、あのお店」

 「なつかしいな」

 ドローレスも目を細めた。

 

 「ピザの話してたら、ピザ食いたくなってきたな」

 オリーヴがぼやきだし、ベックが、

 「やっぱ正月はピザでしょ。ルーム・サービスでねえかな」

 とルーム・サービスメニューを探し始めたので、アマンダが絶叫した。

 「今年ぐらい、ピザから解放してよ!」

 「ええ〜っ」

 若者は不服そうだ。

 「E353に美味いピザ屋ねーかなあ」

「ルナちゃん、ピエト、あした食いにいこーぜ」

 さっそく携帯をいじって、ピザの美味しい店を検索しているベックに、反応の鈍いルナより先に、ピエトが「うん!」と返事をした。

 「うお!? あたしを誘わねえとは何事だ!?」

 「こいつ連れてくと、金ばかりかかってしょうがねえ」

 「兄貴ィ! なんとか言ってよ! あたしにピザを寄越さない気だぜ!!」

 オリーヴは、全身で、ピザが食えない悲しみを表現した。

 「このあたしに! ピザを!!」

 「……さわがしい連中だ」

 アズラエルがうんざり顔で、苦笑気味のボリスと、顔を見合わせた。

 

 「……明日は、ピザ食うかな」

 メフラー親父がぼそりと言ったので、アマンダだけがまた「ウソだろ!」と絶叫した。

 「ツキヨさん! なんとか言って! ピザはイヤだよね!?」

 このなかで、ゆいいつ味方になりそうなツキヨにアマンダは縋ったが、

 「あれま。あたしも、ピザは大好きなんだがねえ」

 すっとぼけた顔で言ったので、皆は笑い、アマンダはがっくり肩を落とした。

 やはりメフラー商社とアダム・ファミリーの新年は、ピザではじまりそうだった。

 

 



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