「寒いので、これを」 案内役の役員が、馬車に用意されていた毛布をみなにくばった。ルナとミシェルは、ララと一緒に一枚毛布にくるまり、ご満悦なのはララだけだった。 このあたりはすっかり雪が積もっていて、道路の雪はよけられていたが、一面の雪景色だ。けっこう冷える。あっというまに手がかじかみ、ルナとミシェルが息を吹きかけていると、ララが満面の笑みでふたりの手をにぎった。クラウドとアズラエルの腰が何度も浮きかけるのを、エーリヒとセルゲイが、抑えていた。 馬車の上でとっくみあいなど、論外である。 馬車は中央広場を突っ切って、山沿いをさらに奥へ進んだ。雪が積もった針葉樹林をわき目に、川のせせらぎを聞きながら、どこまでも走った。 中央広場ほどではないが、真っ白な雪原となった、広い場所に躍り出る。 周囲に点々と、ゲルが並んでいた。 馬車は止まり、案内役の役員が、ルナたちの知らない言語でゲルのほうへ呼びかけた。 「うわ!」 ミシェルがルナのほうを見て目を丸くし――次の瞬間には笑い出した。気づいたアズラエルたちも苦笑している。 「?」 ルナは、頭がものすごく重くなったのに気付いた。それもそのはず――ルナの頭には、とても大きな焦げ茶のタカが、のっしという感じで、乗っていたのだ。 「めずらしいですね。リュナ族の鳥は、相棒以外になつくことはあまりないのに」 案内役の役員も、笑いをこらえた顔で言った。 「リュナ族?」 「頭にのらないでっ!」 ルナはぷんすかしたが、タカは、ルナの頭が気に入ったのか、なかなか降りようとしなかった。 「サルーン! お客さんの邪魔をしちゃいけない!」 ゲルのほうから声が聞こえ、ひとりの男性が出てきた。タカは、まっしぐらに、その男のもとへ飛んで行った。 「――ノワ!?」 ルナとミシェルは、男性を見て、同時に言った。それほどまでに彼は、教科書に載っていたノワの姿と、酷似していた。 服装ももちろんだが、タカを肩に乗せたその姿は、ノワが絵画から出てきたようだった。 「彼は、この宇宙船に乗っている、たったひとりのリュナ族です」 案内人は説明した。ララも付け加えた。 「あのね、ノワは、リュナ族の出身なんだよ」 「ええっ!?」 「なるほど、そうか――それで、あんなに鳥をじょうずに躾けているのか」 クラウドだけが、納得したようにうなずいた。 「このあいだ、ノワのことを聞いていったろ?」 ララはウィンクした。 「……!」 ルナたちが、ノワのことを調べていると思って、捜してくれたのだろうか。 「ララさん! ありがとう!!」 「いやいや、こんなことは屁でもないね」 子ネコと子ウサギの感謝に、ララは鼻のしたを盛大に伸ばした。 さっき、ルナの頭をヤドリギと勘違いしたタカを腕に乗せた男性が、ルナたちのところまでやってきた。 彼は、格好だけがノワとおなじだが、顔は不精髭もないし、若かった。ルナたちと同じくらいかもしれない。 「こんにちは。わたしはアルベリッヒ。リュナ族です。こいつは兄弟のサルーン」 タカは、今度、エーリヒのもとへ飛んだ。頭に乗られたらたまらない。あわてて右腕を突き出すと、タカはエーリヒの腕に止まった。 「ほんとにおどろいたな。サルーンが、人見知りしない」 サルーンと呼ばれたタカは、不思議そうにエーリヒを見、首をかしげている。人間の動作のようだった。 「サルーンが君を、仲間だと思ってる。おなじタカだって」 アルベリッヒも、不思議そうに言った。 「まァ、当たらずとも遠からずといったところか」 エーリヒは肩をすくめ、「わたしはファルコというんだよ」と、こっそり、二つ名での自己紹介をした。 ルナとミシェルは、満面の笑みで、アルベリッヒと握手をした。まさか、ノワと同族のひとに会えるとは思わなかったという顔だ。 「われわれリュナ族は、L05にのみ生息する少数民族なんだ」 自分のゲルに案内しながら、アルベリッヒは説明した。 「生まれたときから、たましいの双子となる鳥とともに暮らす。わたしの村では人間の赤子が生まれると、野生の鳥が生まれたばかりの赤子を連れて祝福に来る。その同い年の赤子の鳥と、たましいの双子となるんだ。ノワにも、生涯をともに過ごしたファルコの存在があるだろう?」 「うん!」 ルナは元気に返事をした。 「相棒となる鳥の寿命は普通では考えられないほど長寿で、人間と同じくらい生きる。ひとが死ねば、鳥のほうも死ぬ。鳥は、まるでひとのような賢さを持つともいい、ひとは、相方である鳥とは、意思疎通もできるんだ」 アルベリッヒは、相方であるタカのくちばしを撫でた。 「生まれたときから一緒だからね。わたしは、ノワと同じく、タカが兄弟だけれども、村に行けば、トビやワシ、ツバメやスズメ、カナリアとか、さまざまいるよ」 「カナリアとか、かわいくて、いいなあ」 ミシェルも、サルーンのクチバシあたりを撫でながら、言った。ミシェルが触っても逃げなかった。 ルナも手を伸ばしたので、アルベリッヒは背をかがめて、腕に乗っけたサルーンを近づけてやった。すると、またサルーンはルナの腕ではなく、頭頂に移動したので、ルナは、 「なんで頭なの!」 とぷんすかしたが、サルーンは降りてくれなかった。 「君はもしかしたら、前世はリュナ族だったかも」 「……」 アルベリッヒの冗談にだれも笑わなかったのは、それが冗談ではなかったからだろう。 「ファルコだって、あたまにはのらなかったよ! きっと!」 |