アルベリッヒのゲルであたたかな紅茶を飲み、ルナたちは一時間ほどでお暇した。アルベリッヒは手を振りながら、サルーンとともに見送ってくれた。 「また遊びにおいで!」 彼は、ゲルを住処とするほかの少数民族と一緒に、あの広場に住んでいるらしい。 「この宇宙船に、リュナ族がアルベリッヒひとりって――ふつう、ふたりで乗るだろ。もう片方は降りたのか」 アズラエルが聞くと、ララは嘆息した。 「動物が相方として認められる、特殊な状況のひとつだといっていいね。アルベリッヒの相棒は、サルーンだ」 「ペットを相方にっていうのは、基本的にダメなんだろ」 クラウドがいうと、ララはうなずいた。 「そうだよ。ペットを連れ込むのは可能だが、相方はダメ。だけど、アルベリッヒの場合は、サルーンが相棒としてみとめられた。――微妙なとこではあるけどね。ほかに乗りたがるヤツがいなかったっていうんだから」 馬車にゴトゴト、揺られながらの会話だったが、踏み固められた雪道は、もとの砂利道ほど、馬車を揺らしはしなかった。 (のわは、リュナ族……) ルナは、またひとつ、自分の前世の正体を知った。 クラウドが、リュナ族について調べはじめるかもしれないが、ルナはルナで、リュナ族のことを調べてみようと、決めた。 三十分ほど馬車に乗って、一行はふたたび区役所までもどった。シャイン・システムまえで、ララはいそいそと、本来の目的だった言葉を発した。 「ルーシー♪ ミシェル♪ 今日こそはいっしょに夕食を――」 「お時間です、ララ様」 絶妙なタイミングでシャイン・システムの扉から出て来たシグルスに、ララは激高した。 「おまえのタイミングはよすぎるんだよ!」 狙ってるのかい!? と憤慨して葉巻をとりだしたララは、女の子二人のまえだということに気付いてしまいなおした。 「もう! 仕方がない――今日もダメか。でも、これだけは渡していくよ」 ララは、自分のコートの内ポケットから、二枚の封筒を取り出した。赤と金の、龍の紋章が入ったゴージャスな封筒だ。 ララは、ルナとミシェルに、一枚ずつ、丁重にわたした。ルナたちに手渡されたが、宛人は、アズラエルとクラウドの名だった。ルナたちが封筒を開けると、なかからゴールドの招待状が出てきた。 「ああ――ムスタファのパーティーか」 クラウドが拍子抜けした顔で言った。 「げっ!」 クラウドと、最初の痴話ゲンカの原因になった場所――ロビンと出会った場所でもある。半分トラウマになっているミシェルは、イヤな顔をしかけたが、かろうじてララに気づかれずに済んだ。 あのとき、さんざん嫉妬したララから――クラウドとの大ゲンカの発端になったララから、招待状をもらう関係になっているなんて、当時は思いもしなかった。 「最近、俺はムスタファのとこに行ってねえぞ? いいのか、俺が行って」 アズラエルが困り顔で言ったが、ララは、「かなり前から計画しちまってたんだよ」と肩をすくめた。 なんでも、サルディオネ――アンジェリカの予定によると、ララは、そのパーティー会場で、ルナとミシェルと出会う予定だったそうなのだ。 「そうだったの?」 ミシェルが思わず言い――ララは大仰にうなずいた。 「だけども、ムスタファも忙しい身だからねえ……予定をすり合わせちまってるうちに、今ごろになっちまった。でも、せっかく開催するパーティーだ、来ておくれ。そうだね――あんたの息子も連れてきてかまわないよ」 「ピエトをか?」 アズラエルは眉を上げた。どう考えても、子連れで行けるパーティーではない。だがララは、「どうせなら、連れておいで」と言った。 「ダニエルが、あんたに会いたがってる」 「……」 久しぶりに聞くその名前に、アズラエルは目を丸くした。 「ダニーは、あんたとロビンがお気に入りでねえ……あんたが来なくなっちまったときは、ただでさえ細い食欲がさらに激減して、点滴までうつ羽目になったよ」 アズラエルは頭を掻いた。 「ロビンまで降りちまって、最近は、ますますさみしいんじゃないかと思うよ。ダニーとピエトはおなじくらいだろ。ダニーは学校に行ってないから、同い年の友人がいない。どうだい、会わせてやったら」 「アンタにしちゃ、まともな提案だな」 「そろいもそろって、あたしを何だと思ってるんだ!」 ララは憤慨したが、 「とにかく、招待状は渡したよ! じゃあ、ムスタファの屋敷で」 ララは、ルナとミシェルの髪に一回ずつちゅっとやって、シャイン・システムに乗り込んでいった。ララはすぐ携帯電話を手にしたので、ルナとミシェルが叫んだ、「リュナ族のひとに会わせてくれてありがとう!」という声に、投げキッスでしか返事を返せなかった。 |