フライヤの熱意と根気強さに、ガチガチで有名の、王宮護衛官たちも折れた。

 オルドの協力があったことも大きかった。

 王宮護衛官たちは――そのなかでもヒュピテムといったか――が、オルドにはじつに協力的で、オルドの話は渋面なしで聞いた。サルーディーバ救出の件以外で、ヒュピテムとオルドのあいだは信頼があるらしかった。

 そのオルドが、フライヤを、

 「このひとは、L03オタクで、L03が好きで好きで仕方がない、軍事惑星でも貴重な人物だ。おまえらの話も理解してくれるだろう。味方にしておいた方がいいぞ」

 と、内容はともかく、紹介してくれたので、王宮護衛官たちのフライヤを見る目が変わったのだ。

 オルドがいなかったら――フライヤだけがふんばっても、無理だっただろう。

 

 「それにしても、あの大軍勢が、今の今まで見つからなかったことが不思議だと、捜査局のほうでも不審がっています」

 アイリーンは冷静に状況を告げた。

 「現地の捜査局も、わが軍も、怯えています――メルヴァに」

 「……」

 ミラもフライヤも、黙した。

 世界のすべてがメルヴァに怯えている。それはL20の軍勢だけではない。

 ただでさえ摩訶不思議がふつうにまかり通るL03において、メルヴァの存在は、そのなかでも稀有なのである。

 

 ――千年に一度現れる、予言できぬこともなく、いかようにも姿を消したり現したりすることができる、魔術師のような男の軍勢と、戦わなければならないのだ。

 

 メルヴァや、側近の者たちがもつ特殊な能力は、王宮護衛官たちもすべて把握しているとはいいがたいのが現実だった。

 予言にテレポテーション、物体浮遊術に、ひとの考えを読む能力――メルヴァとは、そのすべてが可能で、おそらくふつうの軍隊では、倒すことができない、という話だ。

 だが、たったひとつの可能性がのこされている。

 

 ――それは、地球行き宇宙船にある、特殊部隊の存在。

 

 ミラは、ララ経由で、その話を聞いていた。カレンも知っていた。くわしくミラに説明することはなかったが、苦笑気味に言った。

 「特殊部隊というには――部隊っていうか――そうか、それしか言いようがないもんな。たしかに、特殊部隊かも」

 ミラは、どこかの傭兵グループのことだと思っていた。

 ともかくも、その特殊部隊と協力して、メルヴァを迎撃することになるだろう。

 

 「フライヤ、王宮護衛官のほうは、どうです」

 アイリーンはフライヤに尋ねた。ミラのまえなので、ふたりは敬語をつかっている。

 「はい。先日、L20のほうへお招きしました。相談役として、しばらく滞在してくださるそうです」

 「そうですか、よかった――ミラ様、一刻もはやく、急がねばなりません」

アイリーンの言葉にうなずき、ミラは、すぐさま告げた。

 「二時間後に、首相官邸で緊急会議をひらく」

 

 

 

 首相官邸の第一会議室には、陸、海、空軍、サイバー部隊、そしてL03の王宮護衛官をふくめた、今回の作戦のために結成された特殊部隊のトップが顔をそろえた。もちろん、心理作戦部も――そして、フライヤにも席が与えられていた。

 いつもであれば、上座に座って軍議を動かすのは大将ほか、将官の位を持つ将校たちだ。ミラは軍議にはほとんど顔を出さない。

 だが、今回はちがった。

 この戦争は、軍事惑星の――ひいてはL系惑星群の、そして、L20の危機でもあった。

 メルヴァに関するすべてが、L20に一任されている。

 ドーソンが弱体化している今、L20の抑止力を、全世界にしめさねばならない、重要な瀬戸際だった。

 それを、ここにいる皆は分かっている。

 会議室の緊張は、いやがおうにも増していた。

 

 「アストロスでメルヴァが発見されました」

 ミラの秘書ソヨンの言葉に、会議室の空気が一気に重苦しさを増した。

 「いよいよ、いままでの訓練の真価を発揮するときが来た」

 ミラは、それだけ言った。

 

 「メルヴァ討伐、アストロス戦総司令官を、フライヤ・G・ウィルキンソンに任ずる」

 

 「――っ!!」

 フライヤは、事前に聞かされていたこととはいえ、息をのんでガタリ! と立った。会議室が、静寂につつまれたままだったのは、そのことが、すべての将校に周知されていたからだ。

 そしてだれもが思っていた。

 この大事な局面には、フライヤしかいない、と。

フライヤのL03での活躍を、知らない者はいない。

 

 「着席したまえ。フライヤ少佐。立たなくてよろしい」

 苦笑が会議室を覆い、フライヤは耳まで真っ赤になって、着席した。

 「皆も知っての通り、フライヤは有能ではあるが、まだ軍属して日が浅く、経験も足りない」

 ミラは言った。

 「サスペンサー大佐を相談役に――そしてバスコーレン大佐とサンディ中佐の隊を、補佐に回す」

 「はっ!」

 任じられた三隊の大佐と中佐は敬礼をかえした。

 「この四隊にくわえ、マクハラン少将の大隊を、アストロスてまえのエリアE002に派遣する。それから、アズサ中将の大隊を持って、地球行き宇宙船の警備を補強――」

 ソヨンが、各大隊の配置換えを発表する。将校たちは謹んで受けた。

 

 

 軍議が散会してから、ミラはアイリーンと補佐の部下二名、それからフライヤとスターク、サスペンサー大佐とバスコーレン大佐、サンディ中佐を残した。

 「カレンの到着を待てずに、作戦を決行することになってしまった」

 ミラは惜しむように言った。

 「カレンが、アストロスで、メルヴァ討伐の司令官になりたかったそうだが、それは叶わん――アミザも完治にはほど遠い――皆に託したいと、わたしは思う」

 ミラはひとりひとりの目を見つめて、熱を込めた言葉ではげました。残った将校たちの肩は、とてつもない重圧に強張り切っていた。アイリーンでさえ、例外ではない。

 

 「皆を残したのはほかでもない」

 ミラは、フライヤの目を見て言った。

 「フライヤ、」

 「は、はいっ!」

 フライヤの声は、上擦りを越えていた。

 「これは、カレンの提案だ。――強制ではない」

 前置きして、ミラは告げた。

 

 「“メルフェスカ”の名で、行く気はないか」

 



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