「――これだ! この遊園地だ」

アズラエルが、ルナとともに見ていたものは。

 

「ええっ!? こんなの、いつからあった!?」

前来たときはなかったもの! ミシェルが主張したが、遊園地はあった。ずいぶん古びた、錆びた遊園地ではあったが、たしかに存在している。

半円形のアーチ型の入り口に、ここからでも見える広場。くだものの形を模した建物、遠目からでも見える、観覧車。

なによりも、ルナが言っていた、「ルーシー・L・ウィルキンソン寄贈」と書かれた、ガードレールと似た形のモダンな扉が、そこにあった。扉は、彼らを招き入れるように、すでにあけ放たれていた。

 

「こりゃまるで――ZOOカードのなかの、遊園地だ」

アントニオも感嘆して、入り口を見上げた。ZOOカード世界の遊園地が、そっくりそのまま、姿を現したようだった。

 

「すまん、遅れた」

空間すべてがシャインででもあるかのように、突然姿を現したペリドットを、今日のところは、アントニオが怒ることはなかった。

「ひでえ吹雪だな」

ペリドットは言い、セルゲイという名の元凶を見つめ、

「早いことなんとかしねえと、宇宙船が凍り付いて止まっちまうってンで、イシュマールと艦長から怒鳴られてきた」

「宇宙船が凍り付く!?」

ミシェルは気絶しそうになった。たしかにそれは、大問題だ。

クラウドはまっすぐ門へ進み、雪まみれになったプレートを、ぬぐった。

「たしかに、ルーシー・L・ウィルキンソン寄贈、と書いてある」

鉄錆びた門のところに、そう刻まれている。

 

「兄さんがた」

呼ばれた方を振り返ると、コーヒースタンドから、おじいさんが手を振っていた。

「あ、あんた――!」

「あずかりものがある」

詰め寄ったアズラエルを制し、おじいさんは、チケットを四枚、差し出した。一枚ずつ切り離せる仕様になった回数券みたいなもので、四枚ともカラーはちかうが、なにも書かれていない。

「かわいいワンちゃんたちが、幸福と引き換えに置いていったチケットだ。たいせつにな」

そういって、アズラエルの手に押し込み、また椅子に座ってパイプをふかしはじめた。

「あんたは、いったい」

アズラエルの言葉に、おじいさんは微笑んだ。

「まあ、用をすませておいで。わしと話は、いつでもできる」

「……わかった」

 

 

「行くぞ」

ペリドットを先頭に、グレンとニック、ベッタラ、そしてクラウドとミシェルが、遊園地に入ろうとしていた。アズラエルは、チケットをペリドットに渡した。

「これは?」

「……レイチェルたちが、ルナにくれたチケットだ」

たぶんな、とアズラエルは言った。

「ありがたく、つかわせてもらおう」

ペリドットは懐にしまった。

 

「みんな、勝負は日が沈むまでだ」

入り口に残ったアントニオが、セルゲイを支えながら言った。

「日が沈んで夜になれば、夜の神の力が、太陽と昼の神の力を上回る。なんとか、それまでルナちゃんを捜し出してくれ」

「ああ!」

 

遊園地に入る皆も、のこるアントニオたちも。

入り口に、だれか立っているのをその目で見た。

「――ノワ」

クラウドがつぶやいた。

ノワが――「LUNA NOVA」が、ファルコという名の黒いタカを肩に乗せ、古時計を片手に、チケット売り場の真ん前にたたずんでいる。

皆が、その姿をはっきりと認識したあと――ノワは、ふっとかき消えた。

「ノワが招いてる」

「……!」

「いくぞ、みんな」

ペリドットの号令で、皆は中に向かって駆け出した。

 

ペリドットたちが小走りで遊園地内に入っていくのを見送ってから、アントニオはカザマに言った。

「ごめん、ミーちゃん。頼まれてくれないか」

「なんなりと」

「宇宙船の気象部に連絡して、日没の時間をすこしずらせないか確認してくれ」

「……!」

「さすがに、ひと晩昼間にしてくれっていうのは無理だろう。でも、数十分なら、なんとかできないかな」

「承知しました、お待ちくださいませ」

カザマは、シャイン・システムのほうへ走っていった。アントニオとセルゲイも遊園地の中に入り、嵐がしのげるところで落ち着いた。

(ペリドット、アズラエル……頼んだぞ)

 

 

 

ルナたちはそのころ、ようやく「シャトランジ!」のアトラクションにたどり着いていた。

シャトランジのアトラクションは、どうやら室内のようだ。入り口からは、大きさが把握できない、半球体の、ずいぶんなおおきさの建物だった。

ツタでおおわれた紺色の壁が、不気味にそびえたっていた。

 

「何者だね……!?」

エーリヒが思わず、ルナとピエトをうしろにかばった。アトラクションのまえに、ひとがいる。

おとなの男性ほどもある、灰色ネズミのきぐるみだった。

「エーリヒ、ここは、きっと、ZOOカードのなかの世界なの……!」

「なんだって?」

ルナはここに来るまで、この遊園地がもしかしたら、ZOOカードの夢でよくみる遊園地ではないかということに気づいた。なぜなら、途中に、見覚えのある美術館を見つけたからだ。

ルナが、老ヤギに、「船大工の絵」をもらう約束をした美術館だ。

 



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