「あれ? あんた――」

 「どうも。地球行き宇宙船では、ご来店ありがとうございます」

 アントニオが胸に手を当て、大仰に礼をしたが、アントニオの正体を当ててくれたのは、メフラー親父だけだった。

 「あんた、リズンって喫茶店の、店長さんじゃねえか?」

 一日だけ、宇宙船に乗ったときに行った、ルナたちの行きつけのカフェの店長だ。

 「大当たり!!」

 人差し指二本でさしてアントニオは言ったが、

 「なんでこんなとこにいんの」

 オリーヴの、やる気のなさそうな返事が返ってきただけだった。

 

 メフラー商社とアダム・ファミリーがアストロスに到着したのは、いまから三ヶ月前だった。

 フライヤの大隊が到着するまで、依頼主の地球行き宇宙船からの指示に従って、地元警察や、アストロスの軍とともに、調査をしていた。

 エタカ・リーナ山岳には入れないので、おもに各都市で、メルヴァの残党がいないか、どこからメルヴァが入り込んだのかを調査するのを手伝った――彼らの手足となって。

 しかし、じっさいは人手不足どころか人手が余っていて、なぜ彼らがここまで呼ばれたのか、わからない仕事内容であったのはたしかである。

 アストロスに着いてからは、アストロス警察お預けとなったため、本来の雇い主である地球行き宇宙船からの連絡もなく、ますます自分たちの存在理由を見失っていた彼らだった。

 ケンタウル・シティの中央警察署で、暇を持て余しながら休憩室でテレビを見ていた面々は、アントニオの突然の訪問に、やっと目を覚ました。

 

 「あのひとは、どうしたんだい。あの、ペリドットってひとは」

 アマンダたちが直接話したことがあるのは、ペリドットだけだった。

 「ペリドットは、すでに任務に入っています」

 「もう任務は、はじまってるんだな」

 ベックが、両頬を自分の手のひらで引っぱたいて、気合を入れた。

「ええ。ごあいさつが遅れて――俺は、ペリドットとおなじ、あなたたちの雇い人である、アントニオと言います」

 「たしかに、任務要綱には、あんたの名前もあった」

 アマンダは認めた。

 「全員そろってる?」

 アントニオの声に、皆が顔を上げた。

 メフラー親父に、アマンダ、デビッド、オリーヴにベック、ボリス――地球行き宇宙船から合流したエマルと、全員がそろっている。

 

 「やれやれ――いよいよかい」

 L系惑星群に帰りたがる若い衆と、無駄な時間を過ごしたくないアマンダを、「一度受けた任務は最後までまっとうしろ!」と留めていたのはメフラー親父だった。

 彼はパイプを吹かしながら、ハンチング帽をかぶりなおした。

 

 「いよいよです」

 アントニオもうなずいた。

ついに、本任務のときがきた。

 

 「あなたがたは、地球行き宇宙船で雇った傭兵部隊です。どうか、アストロスの軍とも、L20の軍とも離れて、独自の行動をお願いします」

 「かまわないよ。どうせ、もうあちらさんは、あたしたちの存在を忘れてるし」

 アマンダは言った。

 アストロスに来てから、一度も、フライヤにもスタークにも会えていないオリーヴも、憤懣やるかたない顔でうなずいた。

 「ありがとう。――では、エマルさん、デビッドさん」

 「あたしかい?」

 アントニオに手招かれたエマルとデビッドが、アントニオの前まで来た。アントニオは、エマルに、首から下げられるようにネックレス型にした星守り袋をわたした。

 オレンジ色の玉石――太陽の神の星守りである。

 ルナの星守りは、宇宙船のシャトランジ装置にはめ込んである。こちらは、ミシェルが持っていたものだ。

 

 「なんだいこれ、綺麗だね」

 エマルは、気分よく、受け取った袋の中身を覗き込んだ。

アントニオは、さらに、デビッドにも星守りを渡した。こちらは、空色の星守り――昼の神のものだ。

 そしてデビッドには、星守りと一緒に、弓矢を手渡した。

 

 「なんだこりゃ、なつかしいな」

 「デビッドさんは、学生時代、軍事惑星の大会で優勝したことがあるとか」

 アントニオの言葉に、デビッドは破顔した。

 「よく知ってるな、兄さん」

 「この弓矢持参で、サスペンサー大佐の部隊に入ってください」

 「はあ!?」

 「エマルさんは、コンバットナイフで結構です」

 

 デビッドもエマルも口を開けた。たしかにデビッドは、弓道の大会で優勝したことはあるが、学生時代のことである。彼は、凄腕のスナイパーとしてのほうが有名であった。

 「ちょ、弓道のこと知っててくれたのはうれしいけど、俺がスナイパーだってことは知らねえの……」

 「知ってます。あなたがたが理解できてないのも知ってます。でも、ここは、俺の言うことを聞いてください」

 アントニオは、両手で、ふたりのいきおいを封じた。

 

 「サスペンサー大佐の部隊には話をつけてあります。彼らが陣を敷くガクルックス北地区の平野は、いちばん危険な場所です」

 「――!!」

 二人の顔は引き締まった。

 「たぶん、いちばん想像を絶する激戦が繰り広げられる場所でもあります。いいですか、どうか、おふたりはその星守りをぜったいに離さないでください」

 エマルとデビッドは、思わず、首から下がった守りを握りしめた。

 「“戦える用意ができたら”かならずおふたりが、メルヴァの軍から、皆を守ってください。……おそらく、L20の本隊が無事でいられるかは、おふたりにかかっています」

 アントニオは、サスペンサー大佐の部隊、とは言わなかった。

 



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