「その封筒、ぜったい届けなきゃならねえものか?」

 スタークの問いに、オリーヴは悩んだが、百年まえとはいえ、クラウドが送れと言ったものだ。たいせつなものにちがいないことは、オリーヴも分かっていた。

 「金色とおんなじくらいわけ分かんねえけど、絶対届けなきゃだめ」

 「そうか――」

 スタークは決意した。

 「モハたちの救出は、現地警察に――」

 スタークが言いかけると、オリーヴは、

 「エタカ・リーナ山岳に助けに行くの!? だから言ってんじゃん! 金色のなんかへんなのが降りてきて、あそこには行けなくなってるって!」

 「金色のヘンなのってなんだよ!?」

 「だって、それしか言いようがないもん! 変なのは変なのだよ!!」

 

 「問題ナイ。だいじょうぶ」

 マルコが、スタークの肩に、巨大な手を置いた。オリーヴは、三メートル弱の天使たちを見上げて、あんぐり、口を開けた。

 「なんだこのイケメン!!」

 「わたし、マルコと言います。フィロストラトが、ルナちゃんにお手紙届けます。テッサが、ものすごく羽根が速いので、あなたをフライヤ総司令官まで届けます。よくわかる?」

 「分かる!!」

 イケメンにヨワいオリーヴは叫び、スタークは「ほんとかよ」と唸った。

 

 「ルナちゃんという子は、サンディ中佐の隊が守って、今、ジュエルス海岸にいるんだね?」

 フィロストラトは、手紙を受け取って、位置を確認した。

 「うん、栗色の長い髪の子で、軍服きてないと思う。一般人だよ」

 天使たちは顔を見合わせた。

 「栗色の髪?」

 「サンディ中佐が護衛している、一般人――」

 「――! もしや、メルーヴァ姫様のことか!?」

 急に天使たちは――約二名だが、騒然とした。テッサとフィロストラトのあいだで、「わたしが行く」だの「俺が行く」だのとケンカがはじまったので、マルコが一喝した。

 「フィローがメルーヴァ姫さま、テッサがフライヤさまだ。決めたとおりに従え!」

 天使にも上下関係はあるらしい。マルコの指示に、ふたりはしぶしぶ従った。

 

 「ウッヒョオ!」

 テッサにお姫様抱っこ――横抱きではなく片手で抱きかかえられたオリーヴは、歓喜の声を上げたが、すぐに絶叫にとってかわられた。

 「ウッ――ギャー!!!!!」

 天使という名のジェットコースターは、障害物のまったくない空中を、閃光のようにまっすぐ、飛んで行った。オリーヴの体感速度は、時速百二十キロはあったかもしれない。

 「早いデショ?」

 マルコがニコニコ笑って言うと、スタークも絶叫した。

 「俺を抱えて、あのスピードで飛ぶなよ!?」

 

 

 

 L20のジープに揺られながら、ルナはすこしうとうとしていたようだった。

 「あと三十分で、ジュエルス海沿岸――そこからは船になります」

 カザマが、助手席の軍人となにか話していた。隣のセルゲイも、眠っていた。

 「今夜は沿岸で野営となります」

 

 潮のかおりがしてきたころ、まだ海が見えない位置で、ルナたちはジープから降ろされた。

 大きな仮設テントが、たくさん設置されている。ルナたちは、ひとつの大きなテントに案内された。

 なかは、暖房が焚かれていて、簡易ベッドが三つ、備え付けられていた。椅子と小さなテーブルもあった。

 

 「手狭ですが、ご了承ください」

 「いいえ。なにからなにまで、ありがとうございます」

 カザマとともに、ルナもセルゲイも礼をして、テントに入った。すでに深夜ちかい。

 クリームシチューとパンのレーションを食べ、その夜は、ベッドで就寝できることになった。

 

 「ルナさん、気分はわるくありませんか」

 二日ほど、ジープに揺られ続けてきたのだ。久しぶりのベッドである。

 「だいじょうぶれす……」

 ルナはずっと、ZOOカードを気にかけていたのだが、ZOOカードは銀色の光をともしたまま、なんの反応もしめさない。

(うさこ)

そのとき、外の明かりが反射したのか、カードボックスがキラリと光った気がした。

 

「もう、お休みですか?」

天幕の外に、だれかいた。

「いいえ。まだ起きています」

カザマとルナを制し、セルゲイが立った。テント前に、軍人が、敬礼姿勢で立っていた。深夜とはいえ、外はまだまだたくさんの軍人が、動いていた。

 

「ルナさんに、お届け物があるそうです」

「あたしに?」

ルナは驚いて、外に出た。

カザマとセルゲイも出てきた。外は、息が白くなるほど寒い。

ルナたちは、目を見張った。

満天の星空を背景に、うつくしい白い翼を持った天使が、立っていた。まるで、一服の絵画だ。

 

「L02から、応援に駆け付けてくださった天使隊の、フィロストラトさまです」

軍人も、そのうつくしさに半ば見とれながら、紹介した。

白金色の巻き毛の天使は、絵画から出てきたような容姿で、うやうやしく、ルナに封筒を手渡した。

「オリーヴさんから、預かりました」

「オ、オリーヴさんから?」

なんだろう。

ルナは封筒を受け取った。天使は、ニックの倍くらい、背が高かった。ルナが、首がいたくなるほど見上げても、彼の頭はずいぶん遠い。

 

「メルーヴァ姫さま、あなたに出会えて光栄です」

フィロストラトは、ルナの頭頂に口づけをし、胸に手を当てて、そういった。

「では。いくさが終わりましたら、またお会いしましょう」

ちいさな天幕なら覆い隠してしまうような巨大な翼を羽ばたかせ、天使は空へと飛び立った。

 

「はわあ……!!」

ニックの翼を見たときも大迫力だったが、フィロストラトは、ニックよりずっと大きい――体躯も、翼も。

星空に舞う白い翼も、それはそれはうつくしかった。まるで、星座のようだ。

ルナは、ちいさくなっていく白鳥を見つめ、テントにもどった。

 

「いったい、なんだろ……」

カザマもセルゲイも、ルナの手元を見つめている。

ルナが、くしゃくしゃによじれた封筒を開けると、なかにはさらに、古びた二枚折りの便せんが入っていた。

封筒は、このあまりにも古く、黄ばんだ便せんと、その便せんに挟まれた古い写真をまもるために用意されたものらしかった。

ルナは写真より先に、便せんをひらいた。

 



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