「“この封筒を取りに来たものへ”」 ルナは、この文字に、たしかに見覚えがあった。クラウドの字だ。 「“この写真も、一緒に持って行ってほしい。だが、この写真は、グレン・J・ドーソンには送らないように。来たるべき日にち――L歴1416年10月10日に、別の人物へ送って欲しい。送り主の名は、ルナ・D・バーントシェント”」 いっしょに読んでいたカザマとセルゲイも、顔を見合わせた。そして、腕時計で日付を確認した。 「今日が、L歴1416年10月10日だわ……」 「“かならず、その名を知るときがくる。きっと、百年後はそうであろう、私の愛しい幼馴染、オリーヴへ。クラウド・D・ドーソン”」 「クラウド・D・ドーソン……」 カザマが、目を見開いた。 「クラウドは、ドーソンのひとだったの?」 セルゲイのつぶやきに、ルナは首を振った。 「違うよ。これ――百年後って書いてあるもの。この写真は――百年まえのだ」 ルナは急いで写真をひっくり返した。 そして、のけぞるほど、驚いた。 「――ロメリアだ」 アカラ第一軍事教練学校を背景に、十人の、軍服を着た生徒と教諭がならんでいる写真だった。 「これは、」 カザマもセルゲイも、釘付けになった。 「アズラエルも、グレンも、クラウドもいる……!」 「リサさんも、キラさんもいらっしゃるわ!」 写真の裏には、百年前のクラウドの字で、ちょうど人物の裏に来るように、名前が書かれていた。 右から、アキラ・D・モレッツ(18)、ロミ・G・アシュフィールド(17)。 「……キラが男の子で、ロイドが女の子だ」 ふたりは、恋人同士だろうか。なかよく腕を組んで、笑顔でピースサインをしている。 マリコ・E・ダーゲル(27)、アリサ・J・ホックリー(24)。 「このおふたりは、年齢からみて、教師でしょうか」 カザマは言った。たしかに、ふたりの女性だけ、年齢が違う。ルナは、マリコという女性教諭が、イマリそっくりなのも驚いたが、それ以上に気にかかったのは、彼女のとなりにたたずむ、リサそっくりの教師のことだった。 「アリサ・J・ホックリー……」 ルナは、思い出した。 「ぽっくりさんだ」 ルナは、あわてて写真に目を落とした。 アリサの隣に、メンズ・ミシェルそっくりの生徒、ミシェル・V・レイモン(18)がいる。彼らは、よく見れば、手をつないでいるように、見えなくもない。グレンの姿にかくされていて、よく見えないが――。 「――!」 その隣に、グレン・E・ドーソン(17)、真ん中に、ロメリア・D・アーズガルド(17)、アシュエル・B・ターナー(17)。 クラウド・D・ドーソン(17)、そして。 マリアンヌ・D・ドーソン(16)の、合計10人。 「ぽっくりさんは、ミシェルが助けたかった、ぽっくりさんは……」 ルナは確信した。 ミシェルが牢屋から出してあげたかった、先生は。 「この、先生だ……」 イマリは、わたされた宿泊チケットをつかって、メンケント・シティのホテルに泊まっていた。 何部屋もあるスイートルームだったが、ひとりで泊まるのももの寂しい。イマリは、宇宙船を降ろされたことに最初こそは落ち込んでいたが、ベンの仕事さえ終われば、いっしょに降りる予定になっていたことを思い出して、すっかり立ち直っていた。 (どうせ降りるのよ。ちょっと早まっただけだわ) ベンの仕事が早く終わらないかなあと思いながら、イマリは、地球行き宇宙船のニュースばかりを放映しているチャンネルを変えて、バラエティ番組を見始めた。 好きな芸能人が出てきたところで目を輝かせたイマリは、急に頭痛を感じた。 「ヤダ、風邪かな」 ルーム・サービスで、薬も持ってきてもらえるだろうか。サービスは24時間体制だったが、電話するのも面倒になったイマリは、深夜を過ぎていたこともあって、テレビをつけたまま、ベッドに潜り込んだ。 「――う」 グレンとクラウド、エーリヒが、ずいぶん寝苦しそうにしている。 先に起きたチャンは、 「だいじょうぶですか?」 と一応声をかけ、揺り起こしたが、三時間を過ぎたのに、三人はいくら揺すっても起きなかった。 いまのところ、緊急事態が起こった様子はない。チャンは、三人の異様な汗を拭いてやりながら、ニュースをつけた。 「いたた……」 「どうしたの?」 キラが、深夜だというのにエルウィンを起こした。 ユミコも起きてきて、心配そうに、キラの顔を覗き込んだ。ロイドは先ほど、熱を出して、病院に搬送されたばかりだ。 「なんだろ……あたしも風邪ひいたのかな。キラリにうつるといけないから、ママがいっしょに寝てくれる?」 「わかったわ、早く休みなさいよ」 「うん」 キラは、頭痛薬を飲んでベッドに横たわった。 ミシェルもリサも、気分が悪いと言いはじめた。ついにリサが倒れ、看護師が呼ばれた――「ひどい熱!」 叫んだ看護師は、ただちにふたりを病室に搬送した。リサの高熱に気付かなかったミシェルも、自身がずいぶんな高熱を出していたのだった。 ひとりICUのまえに残ったアズラエルも、脂汗が出るような頭痛と戦っていた。 「――っツ!」 ついに、前のめりになった。 (あじゅ?) ルナは、アズラエルが、自分を呼んだ気がした。 「ルナちゃん、あしたっていうか――もう、今日だよ。早いんだから寝ないと」 「うん」 カザマはすっかり夢の世界だ。 ルナとセルゲイは、とくに熱を出したということはなかったが、明日の出発がはやいため、写真のことは明日話し合おうということにして、早々にベッドに入った。 ルナのZOOカードはずっと、白銀色の輝きをともして光り続けている。 その夜、明かりが消えた仮設テント内で、ZOOカードから、ピンクのうさぎがぴょこん、と飛び出て来た。 「最後のリハビリ、第二次バブロスカ革命」 そういって、うさこは、箱の中に消えた。 |