百八十九話 最後のリハビリ ~第二次バブロスカ革命~



 

 これは、ちいさなピンクのうさぎさんと、その仲間のお話です。

 彼は、軍事惑星の名家の次男坊でした。

将来は立派な軍人になるはずのうさぎさんでしたが、なにぶんにも、生まれたときから身体が弱く、とてもちいさいうさぎさんでしたので、長男のパンダさんをはじめ、姉のネコたちには、とても可愛がられて育ちました。

 

 うさぎさんは、友人にも恵まれました。

 親友の褐色のライオンさんと銀色のトラさん。

彼らも、うさぎさん同様、名家の息子でした。彼らは、身体が小さくか弱いうさぎさんをいじめることなく、いつも助けてあげました。

彼らにとっても、うさぎさんは、とてもたいせつな友だちでした。

 

うさぎさんの仲間はたくさんいます。

 銀色のトラさんのいとこの、とても頭のいいライオンさん、そして、シェパード君に、七色の子ネコくん。七色の子ネコ君の恋人は、おなじ貴族軍人のチワワちゃんでした。

 そして、賢いライオンさんの妹の黒うさぎちゃんは、いかつい兄たちより、ちいさくてちょっと頼りないけれども、とても心やさしい、ピンクのうさぎさんのことが大好きでした。

 

 そのころ、軍事惑星は、差別が、とてもひどい時代でした。軍人はえらいけれども、傭兵は、人間とはおもえない扱いをされていました。

うさぎさんは、とても不思議でした。

学校で隣の席になった子が、傭兵だというだけで、うさぎさんとは、ともだちになれないということが。

 

 ピンクのうさぎさんは、学校で、二匹のプードルさんと友人になります。

彼らは、傭兵でした。

傭兵の彼らは、最初こそ、軍人の中でもとくに名家の次男坊であるうさぎさんに声をかけられたことに怯えていましたが、やがて、うさぎさんが、ほんとうに、プードルさんたちと仲良くしたがっているのを知って、ともだちになってくれました。

でも、表立って仲良くすることはできません。

うさぎさんの仲間たちは、貴族軍人ばかりでも、傭兵に対して差別意識はすくない人間の集まりでしたが、皆が皆、そうではなかったのです。

うさぎさんが、プードルさんたちと仲良くしていれば、彼らが貴族軍人からもいじめられるし、同じ傭兵仲間たちからも、貴族なんかとなかよくするやつは許せないといじめられます。

 

うさぎさんは、そんな世界が、とてもおかしく感じられて仕方がありませんでした。

軍人も傭兵もおなじ人間なのに、どうして仲良くできないのだろう。

うさぎさんの仲間のみんなも、そう思っていました。とくに、かしこいライオンさんなんかは、自分の一族が、差別主義の先頭に立っているので、とても悔しい思いをしていました。

仲間たちの話題は、そのころ、「どうやってこんなひどい世界を変えていくか」。

そればかりでした。

 

 そのころ、だれも住まないような凍土の北の果てに、恐ろしい監獄が作られました。銀色のトラさんと、賢いライオンさんの一族がつくった、恐怖の監獄です。

 そこは、軍人にたてついた傭兵や、一般市民を閉じ込めるための牢獄で、入ったら最後、出ては来られない刑務所でした。なんでも、一番寒い牢屋に入れられたら、ひと晩かそこらで凍死してしまうというウワサです。

 そのころ、たくさんのひとが、無実の罪で、その牢屋にいれられることが増えていました。

 賢いライオンさんの父方の叔父にあたる人が首相になってから、そういう恐ろしいことが増えました。

 

 ある日、うさぎさんの友人の、二匹のプードルさんの両親が、貴族軍人に悪いことをしたという、証拠もない嫌疑をかけられて、北の果ての監獄に入れられるという事態になりました。

 ピンクのうさぎさんのおうちは、銀色のトラさんのおうちに次ぐ立派な名家だったので、うさぎさんは、お兄さんのパンダさんにお願いしました。

 

 どうか、ともだちのパパとママを助けて。

 

 でも、その願いは受け入れられませんでした。パンダさんも、助けてあげたいのはやまやまでしたが、銀色のトラさんの一族に逆らったら、うさぎさんのおうちも危ういのです。

 次の日、学校に、友達はきませんでした。彼らも、両親と一緒に、北の果ての監獄に連れて行かれたのです。

 ひとり、ふたり――教室から、傭兵のともだちが消えていきます。

 毎日、だれかしら、消えていきます。

 

 うさぎさんは、決意しました。

このままではだめだ。ともだちが、みんないなくなってしまう。

 

 すでに、うさぎさんの親友である銀色のトラさんと、褐色のライオンさん、そして賢いライオンさんは、行動を起こしていました。

 革命軍です。

 おそろしい、北の果ての監獄の撤廃を、うさぎさんたちは、ひとまずの目標に掲げました。

 うさぎさんは、なんと、リーダーになりました。

 ちっちゃくて、身体の弱いうさぎさん。うさぎさんは、頭の良さでは、賢いライオンさんにかないませんし、力の強さも、たたかいも、ライオンさんやトラさんにかないません。

 でも、不思議と、うさぎさんのもとにはひとが集まるのでした。

 

 いつのまにか、うさぎさんたちの活動は、水面下で、それはそれは大きなものとなっていました。

 うさぎさんの活動に賛同を示したのは、生徒だけではありません。

 うさぎさんたちの教師である、真っ赤な子ネコさんと、真っ赤なうさぎさんも、活動に加わったのです。

 仲間が仲間を呼び、うさぎさんたちの軍勢は、もしかしたら、軍部を圧倒するところまでいきました。当時、経済共同体の形を取って組織化していた傭兵グループも、うさぎさんたちの活動を後押しするようになっていたからです。

 

 軍部は、うさぎさんたちの活動を、無視できなくなりました。

 監獄の撤廃まで、あとちょっとです。

 活動の中心である十人の仲間は、学校の門の前で、記念写真を撮りました。

 

 ピンクのうさぎさんに、褐色のライオンさん、銀色のトラさん、賢いライオンさん、シェパードさんと、真っ赤な子ネコさん、真っ赤なうさぎさん、七色の子ネコさんに、チワワに、黒うさぎさん。

 

 計画が成功したら、みんなで、地球行き宇宙船に乗りたいね、なんて話をしたりもしました。

 

 うさぎさんたちは、だれもが名家の子どもであり、とくに銀色のトラさんと賢いライオンさん、黒ウサギさんは、監獄をつくった首相の家の子どもです。ですから、彼らの親は、子どもたちに革命軍なんてバカなことをやめさせるために、策を練りました。

 うさぎさんたちの活動を応援している二人の教師を、北の果ての監獄へ送ったのです。

 

シェパードさんは、助けに行くと言いだして、聞きませんでした。シェパードさんと真っ赤な子ネコの先生は、愛し合っていたのです。

 きっと卒業後には、結婚するという誓いを立てていました。

 

 残された八人の仲間のうち、ふたりは、助けに行くことを反対しました。賢いライオンさんと、黒うさぎさんです。

 賢いライオンさんは、無謀だと言って止めました。もうすこし、しっかりと計画を立てて臨むべきだと。

 黒うさぎさんは、危ないからダメだといいました。ピンクのうさぎさんに、そんな危険な場所に行ってほしくなかったのです。

 シェパードさんは、ひとりでも行くと言いました。そうこうしている間にも、先生たちは、凍えて死んでしまうかもしれない。

 

 シェパードさんの心配は当たっていました。

 すでに、真っ赤なうさぎさんは亡くなっていました。息も絶え絶えになっていたのがかわいそうで、彼女の門番が、ひそかに彼女を殺したのです。これ以上の拷問はかわいそうだからと――殺したのは、青大将さんでした。

 真っ赤な子ネコさんは、まだ生きていました。

 

 黒うさぎさんは、ピンクのうさぎさんを行かせたくないあまりに、自分の父親に、計画のことをしゃべってしまいました。

 そのために、賢いライオンさんはもとより、銀色のトラさんも、家から出られなくなってしまいました。

 



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