「ニックさんに、ミシェルちゃんたちもそろそろ宇宙船にもどってくるころだからって教えてもらって、リズンによく来るんだよね? 三日通い詰めたんだけど、会えなくて。今日なんか、これで十回目だよ十回目! リズンに来たの」 「十回目!?」 さすがにふたりは驚いた。 「コーヒーも十杯目! うん――嬉しいよ。あたし、船客で、残ってるのはもうあたしだけだと思ってたの。だから嬉しい」 アニタは本気で感極まったように泣き出した。 「……」 「……」 そういえば、宇宙船にのこっている船客は、何人いるんだろう。ルナたちは、あまり考えたこともなかった。 「アニタさんの周りでは、もう、宇宙船に残ってる船客のひとはゼロ?」 「うん。だれもいないよ」 「いったい、ぜんぶでどれだけ残ってるんだろうね」 ルナが首をかしげたときだった。 「たぶん、27人だよ」 「え?」 声がしたので振り返ると、アントニオが、コーヒーサーバーを持って立っていた。 「俺もお邪魔していい?」 「うん」 アントニオはテーブルにコーヒーを置き、椅子を引っ張ってきた。カフェテラスにも、なかにも、もう客はいなかった。 「おもしろいジンクスがあってさ、」 アントニオはおもむろに話し出した。 「10人以上の船客が地球に着くときは、住んでいる区画とおなじナンバーの人数になるって」 「ホント!?」 ミシェルが叫んだ。 「ホント。だいたいいつも1~3人、ゼロの時もあるから、そういうのは例外ね。いちばん最近のツアーで最高人数は25人――劇団仲間で乗ったんだけど、ひとりだけ降りて25人で到達した。そのとき住んでいた区画はK25区」 「……!」 アントニオは、ルナたちのカップに、コーヒーを注ぎたした。 「数十年に一度、10人を超えることがあるんだ。K13区の芸術家たちが、13人そろって地球についたときもあったし――でもなかなか、20人以上はいないよ」 「あたしたちがK27区にいるから、27人ってこと?」 「そう」 アントニオはうなずき、ミシェルはあわてて言った。 「ちょ、数えてみよ! あたしとルナ、クラウドとアズラエルでしょ――」 ルナとミシェル、クラウドとアズラエル、リサとミシェル、キラとロイド。ふたりの娘、キラリ。 グレンとセルゲイに、ピエト、セシルとネイシャ。 アンジェリカとサルビアに、ツキヨ、リンファン、エルウィン、エマル。 アンドレアに、ベッタラ、アルベリッヒにサルーン。 「ここは、サルーンもひとりに数えとこう」 「うん」 ルナはうなずいた。 「で、――アニタさんで、25人?」 ミシェルは首をかしげた。 「俺とアンジェの子もカウントして」 アントニオがウィンクした。 「アンジェは船客だから、子どもも一応、船客にカウントされるよ」 「――! そっか! じゃあ、アントニオとアンジェの子で、26人?」 「26人じゃ、ひとり、足りないよ?」 アニタが言った。 「ララさんとシグルスさんは?」 ミシェルが思いついたように言ったが、アントニオは首を振った。 「もし彼らが地球まで行ったら、それもはじめての到達だろうけど、ふたりは株主だから、船客にはカウントされないんだ」 「――じゃあ、もうひとり、あたしたちのまだ会ってない船客がいるってこと?」 ルナも尋ねた。 「そうなるけど、じつは、君たちのほかに、もう船客は乗ってないんだよ」 アントニオは笑顔になった。 「じゃあ――どういうこと? 27人じゃなくて、26人? あたしたち、K26区に移住するってことなの?」 ミシェルは首をかしげた。 だいたい、今日お屋敷を買ったばかりである。おまけにK26区はS系惑星群住民が住む土地で、ルナたちとはまるで縁がない。 「いや。ちがうよ。きっと、あとひとり、とんでもないところから出てくるのかも」 アントニオはおもしろそうに言った。 「あと、ひとり――」 ルナがつぶやいていると、「てんちょー! あたしたち失礼しますねーっ!」という、ウェイトレスたちの声が聞こえた。 「うん! ごくろうさん! また明日ね!」 「え? もう閉店?」 アニタが慌てたが、アントニオは首を振った。 「いや、今日は客もいないし、はやめに閉めたんだ。店じまいは俺がするから、のんびりして」 「でも、あたしたちもそろそろ帰らなきゃ」 ミシェルが腕時計を見た。 「アントニオ、お店閉めたらいっしょに行こう? そうだ。アニタさんも来ない? ルーム・シェアのパーティーやるの」 ミシェルがアニタを誘った。 「え? パーティー?」 「そう――ニックも来るよ――」 ルナは言いかけ、やっと、最後のエプロンの行く先を悟った。ルナのアホ面から、ミシェルも何かをキャッチした。ふたりは顔を見合わせ、うなずいた。 「あたしたち、みんなでルーム・シェアしてるの」 「アニタさんももしよかったら、いっしょに住まない?」 「えええっ!?」 |