ピエトの顔が輝き、皆の顔色は多種多様だった。心配そうな顔に、やっぱりね、という顔、純粋に驚いている顔――。

「心配いらないよ。地球に着くまでになるかもしれないけど、あたしがいっしょに育てるから」

セシルから頼もしい言葉が出たし、クラウドも言った。

「アンジェもいちはやく子育て体験できていいんじゃない?」

「ツキヨさんとリンファンさんが、また卒倒するほど驚くわね」

セシルはおかしげに言った。

「チロルがいなくなってさみしかったけど、また張り合いがでてきたわ」

 

ララは、驚きこそしなかったが、ルナの言葉を当然と思ってもいないようだった――ただ、ものすごく大きな積み荷を降ろしたときのような顔をした。

「あたしの子を、育ててくれるの。ルナ?」

「だって、そのつもりで、ピエトに預けたんでしょ?」

ルナが言うと、ララの口が三日月形につり上がった。

「さすがルナだ! 愛してるよ永遠のあたしの恋人――」

 

「待てコラ。ルナの伴侶は俺だ――俺がまだ、許可してねえぞ」

ルナとピエトの真顔が、アズラエルに向けられた。

 

「いいか――ピエトは俺の養子で、ピエロもまず、俺の養子だ。ルナじゃおそらく認められねえ――そうだろうが、シグルス」

「そうですね。ルナさんのお気持ちはありがたいですが、ご結婚されているならまだしも、今の時点では、アズラエルさんのほうが、すんなり養子縁組は通るでしょうね」

「あっ!」

「なら、話をつけるのは俺が先だろ――でかいガキだな」

アズラエルが、ルナの膝からピエロを浚った。ルナはおどろいた。赤ちゃんは壊しそうで怖いといって、近寄りもしないアズラエルが、自分から抱き上げたのだ。

ピエロは、アズラエルに抱かれても、キャッキャと笑顔を見せた。

「丈夫そうなガキだな。ちょっとやそっとじゃ死にそうにねえ顔してるぞ」

「ララ様のお子ですからね」

「好き勝手いいやがっててめえらは」

ララは肩をすくめた。

 

「あたしも抱きたい。貸して」

ミシェルが手を出し、グレンやセルゲイにも赤ん坊は回されていった。

「あたらしいルーム・メイトか。よろしくね。わたしはアルベリッヒ。こっちはサルーンだよ」

アルベリッヒが抱き上げて挨拶をし、サルーンが不思議そうに、赤ちゃんを覗き込んでいる。

「27人目! よろしくね~! キミもいっしょに、地球に行くんだよ!」

アニタも、アルベリッヒの隣から、赤ちゃんをあやした。

 

「でも、今年の四月はじめで、船客の受け入れは終わっただろ――この子の立ち位置はどうなるの。船客? それとも株主の子だから――」

クラウドの疑問に、シグルスが答えた。

「この子が入船できたのは、ララ様のお子だからです。つまり、株主の子だからということになりますね。株主は、だれを連れて乗ろうがとくに審査も期限もありませんから。しかし、アズラエルさんとの養子縁組が成った場合は、船客となります。つまり、船客の条件が適用されます」

「月額三十万デルの報酬、降船時は三ヶ月宇宙船を離れると乗船資格を失う、そのあたりもか?」

メンズ・ミシェルの言葉に、シグルスはうなずいた。

「はい」

「なるほど……」

ミシェルは「やっぱ、27人目だわ」とつぶやいた。

 

「ずっとピエトと連絡が取れなかったのは、このことでてんてこまいしていたからなんだね」

ルナがピエトの頭を撫でると、なぜかピエトは困り顔をした。

「ちがうわよ」

剣のある声は――やはり、リサだった。

「あたしが連絡しなくてもいいって言ったのよ。どうせ、こっちの心配なんて、ルナはしてないんだから」

リサの様子が、どうもおかしい。それは、皆にもわかった。メンズ・ミシェルが苦笑しながら言った。

「ルナちゃんのほうが正解だ。ピエロのことでバタバタしてて――」

「ルナは一ヶ月、やることがあってどこにも出られなかったのよ」

リサの苛立ちの意味がわからず、自然とレディ・ミシェルの声も刺々しくなった。

「ピエトを迎えに行こうとしたけど、部屋から出してもらえなかったんだから!」

「それ、どういうこと?」

「それは、言えないけど、いろいろあって!」

「どうせあたしには言えないんでしょ!? 分かってるわよ!!」

さすがに、おとなたちは顔を見合わせたし、ピエトも緊張した顔でリサとミシェルがにらみ合うのを見た。

 

「まあ――とにかく、世話をかけた」

ララの声で、固まった空気がゆるんだ。話は済んだといわんばかりに彼は席を立った。混ぜっ返されたことに、どことなく、リサがいちばんほっとしているように見えた。

「もしよろしければ」

シグルスが玄関に向かいながら、アズラエルに向かって言った。彼の腕には、大きな赤ん坊が抱えられている。ピエロは、ふくふくの手で、アズラエルのほっぺたを叩いていた。

「いてえんだよ。食っちまうぞ」

アズラエルが大口を開けてピエロの手を噛むしぐさをすると、ピエロはますます喜んで、笑った。

「さっそく養子縁組を済ませたいと思います。明日、アズラエルさんとルナさんおふたりに、中央区役所へご足労いただきたいのですが、かまいませんか」

「ああ、わかった」

「ルナ、アズラエル」

屋敷を去り際、めずらしくララが真剣な顔で礼を言った。彼が頭を下げるところを見たのははじめてだった。

「ありがとう」

 

 



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