ララとシグルスを見送ったあと、大団円かと思いきや――大広間にもどったルナを、険しい顔つきのリサが待ち構えていた。 「ルナとミシェルに、話があるの」 リサが連絡をしておいたのか、ララたちと入れ替わりに屋敷に現れたのはキラとロイドだった。ロイドはともかくも、キラもかたい顔をしていたし、そういえば、キラは先日のルーム・シェアのパーティーのときも、ほとんどルナたちに話しかけなかった。ずっとツキヨたちといっしょに、赤ちゃんのそばにいた。 「お茶とかいいから、だれも入ってこないで」 リサは、ルナとミシェル、キラだけを連れて、応接間に入った。 いつもなら、壁面を流れる水流のディスプレイに感激の言葉のひとつでもこぼしているはずのリサだったが、なにもいわずにソファに腰を下ろした。 「なに怒ってるのよ」 ついに、ミシェルが言った。ここへ来たときから、リサの様子がおかしかったのは、ミシェルも分かっている。さっきの言い争いは、ララが空気を換えても、終わってはいなかったのだ。 売り言葉に買い言葉とはまさにこのこと――リサが沸騰した。 「怒ってる!? 怒ってるわよ、これが怒らずにいられる!?」 「ララさんと知り合いだったってことを、秘密にしてたとかそういうこと?」 ミシェルも苛立たしげに叫んだ。 「いちいち、ぜんぶの交友関係をオープンにしろってこと? それはおかしいでしょ!? こっちだってあんたの友達ぜんぶなんか知らないわよ!!」 「そういうことを言ってるんじゃないわ!」 「株主と知り合いだってことが羨ましいわけ?」 「ひとの話を聞きなさいよ!!」 エキサイトする一方のリサとミシェルに、キラが割って入った。 「落ち着きなよ! あたしたち、話し合いするんでしょ? そのためにここにいるんだよね?」 「ミシェル、」 ミシェルはルナに引っ張られ、リサはキラになだめられ、ようやくソファに座った。 リサは、そっぽを向いたまま、一言も発しない。キラはそんなリサを横目で見て、ためいきをついたあと、おもむろに切り出した。 「――ルナとミシェルはさ、あたしたちのこと、ホントに友達だと思ってる?」 「え?」 キラがあまりにも思いつめた顔と声で言うので、ルナとミシェルも、思わず聞き返してしまった。 「それとも、友達だとはいっても、そんなに仲良くない部類なのかな? あたし、そりゃミシェルとはあんまり小学校の頃も親しいとは言えなかったけど、ルナとは、ずっと、親友だと思ってた……」 キラの声がだんだん涙声になってしずんでいくのを見て、ルナは焦った。 「ちょ、ちょっと待って――なんで、そんなこと」 「あんたたち、秘密が多すぎるのよ!!」 リサが、テーブルを叩いた。キラも、涙をぬぐいながら、きっとルナとミシェルを見上げた。 「ふたりとも、このあいだの避難中、バーダンにいたっていうけど、絶対ウソだよね?」 「……!」 「どうしてウソなんかつくの。あたし、メンケントにいたとき、ずっとずっと、ふたりのこと心配してたんだよ? ユミコさんは、ちゃんと会えるからって言ってくれたけど、けっきょく、ふたりは来なかった。メルヴァが逮捕されて、アストロスが落ち着いたあともよ! この一ヶ月、どこにいたの? ツキヨさんにもリンファンさんにも会えた。デレクたちにも。でも、ルナたちは一ヶ月ずっと会えなかった。どうして?」 「……バーダンとメンケントの国境は取り締まられてて、」 ミシェルが言い訳をしようとすると、ふたりの目はますますつり上がった。 「メルヴァが捕まったあとは、行き来できるようになったわ」 ミシェルは口をつぐんだ。これ以上言っても、ボロが出るだけなのはわかっていた。 「あたしたちって、そんなに信用ならないわけ?」 リサの言葉に、ルナのうさ耳がぴんっと立った。 「し、信用?」 「ねえルナ、ミシェル。あたしたち――たぶん、リサも一緒だと思う。ずっと、なんだか、仲間外れになったような、置いて行かれてるような、そんな気がしてた」 キラは必死で、冷静さを保とうとしていた。 バーベキュー・パーティーに参加するたび、知らないひとが増えている。それも、「ふつう」のひとではない。サルーディーバにサルディオネ――原住民。ふつうだったら、知り合いにはなれそうにもない人物ばかり。アントニオだって、リサやキラの知らない話を、ルナたちとしていることがある。 ふたりの恋人であるアズラエルやクラウドも、傭兵だったり、軍部でも特別な部署の軍人だったりして、その交友関係も、とても「一般人」とはいいがたい部類が多いのも分かっている。そのふたりと付き合っていれば、だんだん秘密も多くなってしまうだろうことも、納得していた。 「でもあたし――なんか、さみしいよ」 キラの言葉に、ルナとミシェルは絶句した。 「最近、すごく距離を感じるの。ルナとミシェルにとって、あたしはもう、いらない友だち?」 ルナはぶんぶんぶんとものすごい勢いで首を振った。ミシェルはなにか言おうとして、やめた。 ふたりは代わりばんこに――ずっと腹にため込んでいたであろう言葉を放った。 「あたしのことバカにしてるの? サルーディーバや、アンジェ――サルディオネが一体どういうひとか、新聞にも出てくるし、ネットで調べたらすぐわかる。あたしだってわかるわよ! ふつうなら、「友達」になれるような人たちじゃない。でも、友達になったってことは、なにか共通する目的や、話題があったってことでしょ? サルーディーバとかとどういう話をしてるかなんて、あたし、想像もできなかったわ――それは、あたしの知ってるルナじゃない」 リサは、泣きそうな顔で言った。 「でも、あたしにも、教えてくれたっていいじゃない。羨ましいって思うことはあるかもしれないけど、引いたりとかは、しないわ」 キラも畳みかけるように叫んだ。 「ピエトといっしょに住むことになったって言ったときも、ふつうに流したけど、驚かなかったわけじゃないんだよ?」 「カレンさんが襲われたときだって、レイチェルたちだけじゃなく、あたしもすごく心配した! でも、結局、ルナはあたしたちになにも教えてくれなかったよね?」 「あれは、あたしたちもほとんど背景は聞いてないよ」 レディ・ミシェルは焦り顔で、やっとそれだけ、口をはさむことができた。 「――ルナが、一ヶ月、真砂名神社から降りてこられなくなったことがあったって、あたし、ついこないだ聞いたんだよ」 「……!」 キラの肩が震えていた。地獄の審判のことだ。いまは、だれがそれをキラに言ったのか聞くより、キラの感情をなだめる方が先だった。 「あのとき、あたし、遊びに行ったの。ひさしぶりに二人に会いたくて。あたしがK38区のお屋敷に行っても、みんな言葉をにごすだけで、ルナやミシェルがどこに行ったのか、だれも教えてくれなかった」 「おもえば、あたしとキラがユミコさん、ルナたちがカザマさんって、担当役員が変わったときから、なんかおかしいなって気持ちは、あったかもしれない」 「うん。どうしてって思った。――でも、今なら分かる。ルナたちとあたしたちが、別行動を取らなきゃいけないときが、多いからだわ」 ルナとミシェルは、なにも言えずに、テーブルを見つめるしかなくなった。 「今回の、アストロスのことが決定打――ね、ルナ、ミシェル。あんたたち、絶対、ナミ大陸のほうにいたでしょ」 うさぎとねこの耳が、ビンっと立った。ルナはもう観念していたし、ミシェルは頭からイヤな汗をかいていた。 リサはついに、慎重さもかなぐり捨てて、言った。ごくりと喉を鳴らし、 「あたし、ものすごくバカなこと言ってる自信はあるけど、あんたたち、じつは、メルヴァと戦ってたんじゃないかと思って」 「……!!!!!」 「図星? やっぱ、そうなんだ」 キラの顔色は、驚愕のあまり白かった。予想が当たったことが信じられないという顔だった。ミシェルは、絶体絶命を感じた。いったい彼女たちは、なにをどれだけ、知っているのだろう。 |