「あたしさあ、地球に着いたら、役員になろうかと思って」 いつのまにか起き上がっていたキラが、石を海に放り投げながら言い――三人は、「ホント!?」と叫んだ。 「うん。ママも、ロイドもなるつもり。ママは船内役員で、――まあ、デレクとの再婚は、全然考えてないみたいだけど。ロイドは、介護士の資格取って、派遣役員をやるって」 「キ、キラは? キラも派遣役員?」 三人の興味に、キラは待ってましたとばかりに叫んだ。 「ううん? あたしはね、じつは、船内役員になって、カレー専門の移動販売車をやろうかと思っているのです!」 「「「カレー!?」」」 キラが両腕を広げて言うのに、三人は声をそろえて叫んだ。 「い、意外――」 リサが驚きを隠せない顔で言った。 「あたし、店を出すなら、あんたはてっきり雑貨屋さんかと、」 ルナとミシェルもすごい勢いでうなずいた。 「いやいや、雑貨屋も考えたんだけどさ、」 雑貨店は、この宇宙船に星の数ほどある。 「できるなら、宇宙船にない店を出したいじゃない?」 たしかに、カレー専門の店はあるが、移動販売車というのは、なかった。 「あのK06区の販売車はね、K06区の役員がやってる販売車と、船内役員の個人経営者がやってるのと二通りあるの。知ってた?」 「し、知らなかった」 フレンズ・ドーナツやハンバーガーなどのチェーン店はおもにK06区の役員が交代で、それ以外の手作り弁当や、コーヒーの車などは、個人でやっている移動販売車が多いのだという。 「個人経営で移動販売車ができる許可を取れば、K06区だけじゃなくて、他の区画にも行けるんだって。リリザやマルカにも降りて販売できるそうなのよ」 「それ、楽しそうじゃない!」 ミシェルが手を打って叫んだ。 「そういうミシェルはどうなの。まさか、地球まで行って、L77に帰るってンじゃないでしょ」 リサの台詞に、ミシェルは困り顔をした。 「あたしはね、キラみたいに具体的な形は、まだ見つかってないんだ」 悩むように腕を組んだ。 「でも、このあいだも思ったけど、L77にもどって、ロビン先生のガラス工芸教室にまた通い始めるかって言ったら、いまいちピンと来なくて」 しばらくは真砂名神社に通って、絵を描く生活がしたいなあ、とミシェルが言うと、 「真砂名神社の巫女さんになったら?」 「紅葉庵でバイトするとか?」 「ミシェルの作るアクセサリーを、K08区で路上販売してみるとか――」 リサ、ルナ、キラが立てつづけに言ったので、ミシェルは呆気にとられたように、 「……よく考えたら、それなりにあるもんだね」 と言った。 「あたしはもちろん、この宇宙船に、美容室を開くわ!」 リサは、当然でしょという顔で胸を張った。 「船内でひらくのは、けっこう大変らしいけど、あたしやるわ!」 リサがやるといったらやるだろう。それは、三人ともそう思った。 「ルナは?」 キラが聞いた。 「あたし? あたしはね……」 「なつかしの! おお! なつかしのバリバリ鳥よ! マジうっめーバリバリ鳥サイコーっす! ステーキがあるううう!! もちろんこのマカロニサラダも塩だれのキャベツいためもソーセージたっぷりジャーマンポテトも、レンコンのはさみ揚げもこれまた……! トマトサラダとムサカもこれからいただきます! 品数多!! サラダだけで三種類って何!? ああ、仕事上がりの手作りあったかごはん……! 今日の疲れが取れます! 夢みたい……!」 「君が想像を絶するほどうるさくて、よく食べるということは分かったよ」 ワイン片手に、ライ麦パンとステーキの切れ端、ジャーマンポテトを皿に取り分け、優雅にナイフとフォークで切り分けるテオの皮肉を、シシーはまったく気にせずに、取り皿に山盛り、料理を盛り上げていた。 「しいたけ! しいたけが旨い!!」 「しいたけじゃなくて、この塩だれが絶品なんだよ」 テオは、キャベツと豚肉の塩だれ炒めを別皿に取り分けた。だまっていたら、シシーにぜんぶ食われてしまう。 「分かるわ~。あたし、ルーム・シェアしてまだ三日だけど、三食こんなにうまいもの食えるなんて、それだけでここにいてよかったと思ってる……!」 アニタが涙目でワイングラスを掲げた。 「アニタさん、もしかしてコンビニ&外食セットでした?」 シシーが口いっぱいに頬張りながらも、奇跡的に明瞭な言葉を発して聞くと、アニタはうなずいた。 「あたし、料理ニガテなのよ~!!」 「友よ! あたしも食う方専門です!! あ、ごはんもらっていいですか!?」 「食え。ジャーは解放されてる」 アズラエルがしめすと、シシーはまっしぐらに炊飯ジャーに走り、アニタが「あたしも!」とシチューが盛られた皿を持って走った。 ルナはピエロに哺乳瓶をくわえさせながら、横からセシルとキラに、じゃがいもだったりお肉だったりを、食べさせられていた。ウサギのお口が、もふもふ動く。 「ちょ、ウソでしょ」 キラが仰天した。ピエロ、哺乳瓶二本目に突入である。 「ピエロ、飲むんだよ、そのくらい」 ピエトが、「お医者さんがふつうじゃないって言ってた」と呆れ声をだした。 「この子はさ、でかくなると思うよ」 セシルも目を丸くして、ゴキュゴキュとミルクを飲み干す赤ん坊を見た。ロイドも、キラリにミルクを飲ませながら、「!?」という顔で巨大ベビーを見た。 今日のメニューは、アズラエルがつくったバリバリ鳥のシチューとサラダ一品――そして、ルナがつくったマカロニサラダと、ジャーマンポテトだったのだが、驚くなかれ――テーブルをぎっしり埋める、ほかの料理を作ったのは、アルベリッヒだった。 「このお肉、おいしい!」 「トマトサラダも美味しい。タコときゅうりと、これなんのハーブ?」 キラとリサも、手放しでほめ、アルベリッヒを照れさせた。 「ハーブは青ジソだよ。牛肉がけっこう安かったんだ。振ってあるのは岩塩とコショウだけ」 「料理ができるメンバーが増えたって、頼もしいことだね」 クラウドが、マカロニサラダをたっぷり、取り皿へよそいながら言った。 朝食はセシルやグレン、アンジェリカ、キラやメンズ・ミシェルもつくることになったし、バーガスほどとはいかないが、アルベリッヒの料理の腕もなかなかのものである。 「アズラエルさんがおつくりになったこれは――」 サルビアが、奇抜な色の卵料理――黒とピンクと蛍光ブルーが混在した料理を見て、仰天していた。 「これ、L03の料理じゃない? どうしてアズラエルがつくれるの」 アンジェリカもおどろき――ひとくち頬張って、「うまい!」と叫んだ。 「カザマにレシピをもらったんだ」 「まあ、ミヒャエルが!」 「姉さん、バリバリ鳥のシチューもマジ旨い。食ってみ?」 「それも美味しそうですけど、わたくし、この、この、ジャルジャルポテトをいただきたいのです……!」 グレンが横でビールを噴いた。サルビアは、ソーセージをフォークで突き刺そうとして、刺さらず、だいぶ苦労していた。 |