「君は、原住民なの……!」

 アルベリッヒが頬を紅潮させて叫んだ。

 「そうだよ、ハニー」

 「とっても綺麗な髪の色だ」

 「おまえこそ。キレイな目をしてる。ミケリアドハラドの鉱石みてえだ。おまえの瞳によく似合うアクセサリーをプレゼントするよ」

 サルーンが祝福するように、ふたりの周りを飛び回る。

 

 「アルは特に抵抗は――ないみたいだね――」

 ロイドが遠い目をしていた。ハートマークがふたりの周囲を飛び交っていると思ったら、それはサルーンだった。

 

 「そこ! イチャつくなあああああ!!!!!」

 アニタが、ソファからもんどりうった。アルベリッヒがおどろいて、クシラから離れた。

 「どうして! どうしてあたしは、スキな人同士がくっついちゃうのおおおおお!! それも、それも、ここにうら若きオトメがいるのに、男同士で!!」

 「うら若きには、ちょっと遅いんじゃ、」

 突っ込もうとしたメンズ・ミシェルの後頭部を、リサが叩いた。

 「もういや! もうだめ! あたしには望みがない! オブッシャアアアあああ!!!」

 ふたたび顔からなにもかもを噴きだしたアニタに向かって、ルナが手を突き出していた。

 ルナの手の先には、ZOOカードがあった。

 

 「“ドルミール(眠る)”」

 

 とたんに、ベシャ! とアニタの顔がソファに落下した。眠ったのだ。

 「このままじゃ窒息します」

 ルナはせっせとアニタをひっくり返した。

 「ルナちゃん今――なにをしたの!?」

 ロイドが真っ青になって言った。ルナがかざしていたのはアニタのZOOカード、「元気な白ツル」のカードだった。

 「眠らせただけなのです」

 「なにいまの、ちょっと、カッコイイ!!」

 「ベッタラも、その方法で眠らせておけばよかったんじゃあ……」

 キラとリサが跳ね、レディ・ミシェルが突っ込んだが、あいにくと、ルナが持参していたのは、夢にでてきた四人のカード、アルベリッヒとアニタ、シシーとテオの分だけで、ベッタラのカードは持っていなかった。

 

 「くじらさんとうさぎさんは出会えたから――次になんとかできそうなのは、アニタさん」

 ルナは、みんなをソファに座らせた。帰るはずだったクシラも、なぜか便乗して大広間のソファに座った。全員がすわれそうになかったので、ベッタラとアニタは、大広間の絨毯に、仰向けに寝かされた。

「ちょっとね、アニタさんの場合は、めんどうくさい部分があります」

 ルナが部屋に走る前に、四点セットがルナの前に完備された。ルナの日記帳、ZOOカードの記録帳、動物図鑑とZOOカードボックスだ。アズラエルが、ピエロを寝かせついでに、取りに行ってくれたらしい。

 

 「ありがとうアズ――」

 「アニタが、めんどうだって?」

 性格もだが、ZOOカードでもめんどうなのか、とグレンが嘆息したとき、アニタが起き上がった――「え? あれ? あたし寝てた、」

 「ドルミール!!」

 ふたたびルナがアニタにカードをかざすと、アニタは真後ろに倒れていびきをかき始めた。ルナは困り顔でカードを見つめた。

 「アンジェと違って、効き目が薄いみたいだ」

 「それで、めんどうだっていうのは?」

 クラウドが急かした。

 「さっき、四人で相談したんだけどね」

 レディ・ミシェルは言った。今夜マタドール・カフェで、四人は今後の計画を話し合っていたのだ。

 「アニタさんに、真砂名神社の階段を上がってもらおうと思って」

 

 ルナはZOOカードを起動させた。

 「うさぎよ羽ばたけ!」

 この場合、ルナの宣言になんの意味もないのは、だれもがわかっていた――アルベリッヒやロイドら新参者以外は。

銀色の輝きをともしたZOOカードの箱が展開し、自動で開いていくのを見て、クシラがおもしろそうに口笛を吹いた。

 「元気な白ツルさんと、天槍を振るう白いタカさん出て来い!」

 ルナが叫ぶと、二枚のカードが表れた。

 ZOOカードを見たのがはじめてのアルベリッヒも、目を輝かせた。

 「とてもきれいだ! これはなんの占い?」

 「ZOOカードの占いよ」

 リサがウィンクした。ルナは二枚のカードをまえに、解説をはじめた。

 

 「ニックとアニタさんは、たしかに運命の相手なの」

 ふたりの間は、赤と紫、朱色が混ざった糸に、ときおり、緑色が見える。

 ルナは動物図鑑をひらいて言った。

 「ツルは、長寿の象徴でもある――だから、アニタさんは、けっこうな長生きさんなの。たぶん、長寿の天使であるニックと最後までいっしょにいられるよ」

 「――!」

 ただでさえ長寿を象徴する「ツル」に「元気な」がついているということは、相当の長生きだと、ルナはアンジェリカに教えてもらった。

 

 「でもね、三千年前の“キズ”がひっかかりになって、ふたりの恋の成就を妨げてるの」

 「三千年前……」

 セシルがつぶやいた。

 「まさか」

 「そう。アニタさんも、三千年前、アストロスにいたのよ」

 ルナは、アニタが熱心に説明したアストロスの花嫁衣裳のことを言い、その花嫁衣装は、じつは、アニタ自身がかつて「着たかったもの」ではないか――そして、ニックの運命の相手だったなら、きっとアニタも三千年前はアストロスにいたのではないか。もしかすると、ニックの妻だったのではないかと当たりをつけた。

それは、半分正解で、半分はずれだった。

 「あのあと、メガクラウドを呼んだの」

 真実をもたらすライオンのことである。

 「それで、調べてもらったら、やっぱりアニタさんは、三千年前、ニックのそばにいた」

 ルナは、ぺったりとうさ耳を垂らした。

 「でもね、結婚はしてなかったの」

 「――どういうこと?」

 セシルが、聞いた。

 「げんいんは、グレンにあるのでしゅ」

 ルナが言いにくそうに言った。「俺!?」グレンは目を剥いた。

 「俺がなにかしたのか?」

 

 ――三千年前、グレンは、兄神アスラーエルとメルーヴァ姫のために、身を引いた。だが、メルーヴァ姫を慕うあまり、自分は妻をめとらぬと言った。グレンのそば近くつかえていたニックは、主が結婚しないならばと、一度は自分も、結婚をあきらめた。

 「でも、ニックには、好きな子がいたの」

 幼馴染みの可愛い、元気なアニタ。ニックと彼女は思いあっていた。いつか、結婚しようと思っていた。グレンは、自分が結婚しないからと言って、部下にそれを強要するつもりは毛頭なく、アニタのことも知っていたので、ニックとアニタの結婚話を、自分から進めた。

 だが、そこへ、ラグ・ヴァーダの武神がやってきた。

 ニックとアニタの結婚は、どんどん先延ばしになる。グレンも、ベッタラたちが結婚したあたりにふたりを結婚させてやればよかったと悔いたらしい。

 その先は言わずもがなだが、ニックとベッタラは、兄弟神がいなくなったあと、地球軍と戦った――ベッタラも戦死し、ニックもアニタと結婚を夢見ながら戦死したのだが、今回の要点は、ここにある。

 

 「偶然というか、ほんとに偶然だったのだけど、ニックは、部下を庇うようにして、死んでいたらしいの」

 



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