広場にもどったクシラのもとに、二羽のうさぎが駆けて来た。ルナと、アルベリッヒだ。 「どうやら、うまくいきそうだぜ」 クシラの言葉に、ルナとアルベリッヒが同じ顔をしてほっとするものだから、クシラは笑った。 「うさぎってのは、同じような顔をしてるもんだなァ」 「似てるかな? ルナちゃんと」 「そうかな?」 ふたりで同じ方向に首をかしげるものだから、クシラは笑った。 「俺も、久々にたのしい思いをさせてもらった。行かなくちゃ」 「帰っちゃうの?」 ルナのうさ耳が立った。 「ああ。店を開かなきゃ。こういう場所には来られないヤツらの楽しみの場をつくるのが、俺の仕事だ」 「……」 アルベリッヒは真面目な顔でクシラを見つめ、「わたしも行くよ」と言った。 「なにか手伝う」 「おひとよしの、可愛い子ウサギちゃんだな、おまえは」 クシラはそう言いながら、アルベリッヒの手を取って馬車のほうへ歩いて行った。ルナは手を振った。 「またね」 「ああ。また屋敷に行くよ。おまえも、俺の店に来な。あぶないから、昼間にな」 「うん!!」 ふたりを見送ったルナは、いつしか背後に、レディ・ミシェルとリサと、キラがいることに気づいた。 「ニックとアニタさん、ようやくくっついたのね」 リサがおおあくびをしながら言った。昨夜遅くまで、アストロス風の化粧を考えてくれていたリサは、だいぶ寝不足だった。 レディ・ミシェルもキラも――今回の殊勲賞は、この三人だ。 ルナは振りかえり、お辞儀をして言った。 「みんな、今日はありがとね。おつかれさま」 「すごく楽しかったよ!」 キラが伸びをして言った。 「みんながいなかったら、今日みたいなことはできなかったよ」 ルナは本当にそう思っていた。 「あたしたちも、嬉しいのよ」 リサは上機嫌だった。 「こんな形で、あんたの力になれるなんて思わなかったから」 キラもだ。いままで仲間はずれだった――ルナとミシェルにそんな気持ちはなかったが――手前、活躍できたことがほんとうにうれしそうだった。 「うん。アンジェやサルビアさんみたいなことはできないけど、こういうことだったら、いつでも協力するよ!」 キラも元気よく言った。 「衣装づくりも楽しかったしさ」 「どうせなら、もっと派手にしたかったんだけど、予算がね」 「キラに任せたら、パンクになるってば!」 リサの悲鳴に、ルナたちは笑った。 「さ、宴会はまだまだつづくよ! もどろ!」 「うん!!」 四人は、アズラエルたちの待つ宴席にもどった。まだまだ宴はつづきそうだ。 空は、大きな惑星を写しだしている。 まるで、月を眺める子ウサギのように――ニックとアニタの甘い夜を演出しているかのように、ほんのりとピンク色の惑星だった。 「ああ、今日は、アニタさんとニックさんの結婚式だとかで、お屋敷はみんな留守かもしれないわ」 「そうですか……」 午後八時も過ぎたころだったが、中央役所の派遣役員執務室には、まだおおぜいの役員が残っていた。残業がある連中で、これからカフェが混むだろう。テオは、シシーの席から、使い古した彼女の安物バッグと、ジャケットが消えていることを確認してから、カルパナの席に行った。 「カルパナさん、残業ですか」 「いいえ。そろそろ帰るわ」 カルパナは凝った肩を回しながら、席を立った。 「やっぱり、シシーちゃんは、あれから一度もお屋敷にお邪魔してないのね?」 「ええ、たぶん。十五日は過ぎたんですが」 「そうね。心配だわね。あの子、やせた気がするし――あたしのことも、避けているふうではないのよね」 シシーの様子は、なにも変わっていなかった。テオが先日、屋敷に行ったとき、シシーはクリスマス以来一度も来ていないという話だった。 なぜかルナが心配そうに、「シシーさんは大丈夫ですか?」と聞くので、自身もシシーの心中などまったく分からないテオは、「たぶん、だいじょうぶ」としか言えなかった。 なにが大丈夫なのか、テオにもわかっていない。 「明日あたり、お屋敷のほう、うかがってみましょうか。お祝いの品でも持って。テオさんは、あしたでいいかしら?」 「俺はいつでも」 テオは元気のない返事をかえし、シシーの席を、心配そうに見つめた。 |