「なァおい聞いてくれ親父! 軍事惑星は変わる! 世界は変わるんだ!!」

 ザイールが半泣きで、メフラー親父に電話していた。当然ではあったが、彼は酔っ払っていた。

 「信じられるか!? なァ、おい、俺ちゃちゃ、ロチャウド家と、アーチュガルドと、マッケケランと、うおおおお~っ!!」

 部屋中に、半泣きの咆哮が響き渡るので、マックとインシンも迷惑していたが、電話向こうのメフラー親父は、もっと迷惑していたことだろう。メフラー親父は、あいにくと耳は遠くなかったので、ザイールの雄叫びはうるさいだけだった。

 メフラー親父は、リリザまで来たあたりで体調を崩し、病院のお世話になっていた。アマンダがつきそい、デビッドやボリス、ベック、バーガス夫妻は、一足先にL18に向かっているが、まだ着いたという連絡はない。

 

 『あ~、よくわかった、わかった。そっちに行ってから詳しく聞くから……それよりよォ、アダムはどうなった。メフラー商社にゃだれもいねえから、おめえンとこか、カナコのとこへ行けって連絡したんだけどよ』

 「ン!? アダムが来てるって話は聞かねえなあ」

 ザイールはいきなり正気に返ったかのように、立ち止まった。

 「カナコはよう。一ヶ月前から遠征で、L43にいらァ」

 カナコ率いる青蜥蜴は、L20の軍部からの依頼で、L43に駐留していた。そろそろひと段落つくので、もどってくるという連絡は、数日前にあったが――。

 

 『なあ、驚かねえのは無理かもしれねえが、驚かないで聞けよ?』

 メフラー親父は、無駄な前置きをした。

 『カナコの姉が、生きてるって話があンだ』

 「うほうっ!?」

 ザイールのでかい声は、スイートルームぜんぶに行きわたる。マックに寄り添って、幸せに浸っていたインシンは、「もうすこししずかに喋れないの!?」と怒鳴った。

 

 「カナコの姉が!? ウソだろ!?」

 『地球行き宇宙船で、生きてたんだ』

 「……」

 メフラー親父の言葉に、ザイールは、しばしなにもかもを喪失したように呆け顔をしたが。

 「すぐ伝えるべきだ!!」

 吠えた。

 『そりゃ分かってる。カナコの姉に直接会ったアダムが、それを伝えてえって言ってんだ』

 「そ、そうだ! そうするべきだ!! お、おお~っ、カナコ、カナコ!!」

 ザイールは、部屋中をうろつき、またインシンに怒鳴られた。だが、彼の都合のいい耳は、聞こえていなかった。

 『ともかく、アダムに連絡して、それを伝えてやってくれ。今は青蜥蜴のアジトもL18にゃねえってんだろ? どこに移動してるっけ――L20だっけか? 場所も知らねえはずだから』

 「お、おうっ! 分かった!!」

 ザイールが電話を切るなり、マックがゲーム機を片手でいじりながら、自分の携帯を差し出してきた。

 「ガスから、電話」

 「お?」

 ガスは、ザイールの息子だ。今年から、ナンバー9のメンバーとなったばかりだった。

 「ガスが? いったいどうしたんだ?」

 メフラー親父との長い話のせいで、携帯電話のバッテリーがなくなりかけていたザイールは、マックの携帯電話を借りた。

 

 「おうガス、どうしたァ?」

 『親父、カナコ姉と連絡がつかなくなった』

 ガスの声は、焦っていた。

 「あ!?」

 たった今、カナコの話をしていたばかりだ。

 『毎日ある定期連絡が、昨日途絶えたんだ。青蜥蜴の雇い先だった、L20の軍はもどってきてて、青蜥蜴とは、帰路は別行動になったって――でも、今朝になっても、カナコ姉とも、副長のラリマーとも連絡がつかねえんだ。帰ってきててもいい時間なのに、来ないって――L20に残ってる青蜥蜴のメンバーが心配して、ウチに来たんだ』

 「……!」

 ザイールの酔いは、一気にさめた。

 「ガス、ラック&ピニオン兄弟がL45に派遣されてる。いますぐ連絡つけて、青蜥蜴がいた場所に、向かわせろ!」

 『あ、ああ!』

 いきなり真面目になったザイールの声に、マックはゲームをやめ、インシンも、「どうしたの?」と聞いた。

 「それから、ウチの連中と、青蜥蜴の残留組で組んで、すぐ向かえ。おめえは行くなよ、司令部にいろ。俺もすぐ帰る。なにかあったら、すぐ連絡寄こせ」

 『はい!』

 電話は切れた。

 

 「さっきから、カナコ姉に、なにかあったのか?」

 マックが心配そうに立った。ザイールの興奮気味の赤ら顔はすっかりしずまり、真顔にもどっていた。

 「カナコからの連絡が途絶えた」

 「――え?」

 「L43での任務が終わって、帰路についた時点で、連絡が途絶えた」

 「まさか――宇宙船事故?」

 インシンが言ったが、ザイールは、「まだ分からねえ」とさえぎった。

 「ウチも、幾人か出しましょうか」

 インシンは言ったが、ザイールは首を振った。

 「いや、近場にいる仲間に頼んだ――もし、人手が必要だったら、頼んでいいか?」

 「もちろんよ」

 インシンはうなずいた。

 「マック、俺ァ、ひと足先に帰る。おめえはどうせ、L18に帰れねえんだから、ここにいてもいいが、帰りはインシンと一緒に来い」

 そう言って、マックが返事をするまえに、ザイールはあわただしく駆けて行った。

 

 



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