「オフォー……いい風呂だったァ……」

ヤンが大の字で伸びている横で、ラウがおにぎりを手にしたまま、いびきをかいて寝ている。シシーなどは、首をかくり、かくりとしながら、食べることをあきらめていない。

テオが「寝るなら、寝ろよ」と突っ込んでいた。

「鮭チャーハンでつくったおにぎり食いたい」とレディ・ミシェルが鮭への執着を露わにしている横で、クラウドがめずらしく無言で食べ、みそ汁を啜っている。

「あ~、お味噌汁ひさしぶり! しみる~」

「ホントおいしい……」

リサもロイドもみそ汁を味わっているところを見て、ルナは作って正解だったと思った。

 

「ルナ、こっちこい」

アズラエルとグレン、ピエト、セルゲイが席を取っているところへ、招かれた。

「おまえ、なにかしたろ」

座ると同時に、アズラエルに言われ、うさ耳がピコンと立った。

「な、なにかって――」

「ぜったい、なにかしたよね」

セルゲイも意味深に言い、ピエトも、「ルナがなにかしたんだよ」と上目遣いでルナを見、グレンなどは、わざわざ、自分でゆでたソーセージと、ルナのからあげを見比べながら、ルナに告げた。

「おまえは、なにかした」

「なにもしてないよ!」

「ならどうして、ソーセージより、から揚げのほうが、旨いんだ?」

「グレンの言ってることは、物理的におかしい。気にするな。だが、ルナちゃんがなにかしたことはたしかだ」

クラウドまで、みそ汁を啜りながら、ルナをにらんでくるので、ルナはついに叫んだ。

「なにかをなにかって、なにかになにしたの!?」

「カオスになれば、言い逃れができると思ったら、大間違いだよ」

なぜか、セルゲイが手厳しかった。

「みんなは、ごはんになにか文句があった?」

ルナは、仕方なく聞いた。

「鮭がない!」

「ソーセージをボイルするべきだった」

「個人的な意見は却下――文句は付け所がないほど、旨い。だからこそ、おかしい――カオスの要素がないのは、おかしい」

「クラウドのゆうことのほうが、おかしいよ!!」

ルナは叫んだ。叫んで、必死でのこったおにぎりから、明太子入りを探した。明太子おにぎりを食いそびれるつもりはない。

 

「これ、覚えがあるのよ」

エマルが、力強くサンドイッチを咀嚼しながら、言った。

「このごはん、覚えがあるの。まえ、ルナちゃんがつくった朝ごはん食べたら、メッタラやたら元気が出たでしょ?」

「エマルはいつも元気じゃない」

リンファンは言ったが、アンも真剣にうなずいた。

「エマルさんのいうこと、分かるわ――まるで、あのときの朝食みたい」

「あのとき?」

リサが聞いたので、ルナは「はわわ……」と悪いこともしていないのに慌てたが。

「起きちゃったよ――」

ギャン泣きのピエロとキラリを、目をこすりながらアンジェリカが連れて来てくれたので、それ以上の追及は、免れた。

 

食事を終え、しばらく皆と談笑したあと、アンは帰っていった。

「今日は、みんないったん休憩して、明日からまたがんばろう」

アニタの意見に皆は賛成だった。役員たちは、自分の家で寝るために、ぞろぞろと帰っていった。のこった屋敷のメンバーは、なかなか自室に戻ることなく、呆けたように、大広間に座り込んでいた。ずいぶん、しずかだった。

やがて、だれが持ち出してきたのか知らないが、アンがコンサートで歌う、100曲のリストと歌詞の回し読みがはじまっていた。

「100曲って、よく考えれば、すごい数だよね」

ネイシャが言った。

「10曲ずつ入っていたって、CD10枚分だよ?」

「アンさんも、これだけの曲を、よく覚えていたよ」

クラウドも感心したように言った。

「そろそろ寝なさい。あんたたちだって、最近夜更かししすぎよ」

ピエトとネイシャはまだ起きていたがったが、リンファンに追い立てられるように、自室に向かった。なにせ、そろそろ日付が変わりそうなのだ。

 すっかり眠りこけたピエロとキラリを部屋に連れて行き、大広間にもどってきたルナも、歌詞がプリントされた紙を、うさぎ口で読んだ。

 

 「虹色ドーナツの改訂版がある!」

 セシルが、感激して叫んだ。「虹色ドーナツ」は、一枚きりしかないCDに入っている人気曲だが、今回コンサートで歌われるものは、CDの曲とは別だ。

 「アンさんが、E353にいたころ、歌詞を書き換えて、マルセルさんが編曲したそうなの」

 エマルが聞いた。

 「このあいだ、ゲリラ・ライブで歌ったやつかい?」

 「ううん。歓迎会をひらいたときに、歌ったものよ」

 セシルは言った。

 昔のアルバムに入っている「虹色ドーナツ」は、歌詞はほのぼのしているのに、曲調はさみしい感じのする歌だ。改訂版の「虹色ドーナツ」は、オルティスやマルセルの名が出てきて、曲調もポップで明るい。

 「ほら、お口の大きな、子ワニのオルティ、とか歌ってたやつ!」

 「ああ、覚えてる、覚えてる」

 エマルはうなずき、キラが乱入した。

 「童謡みたいなメロディだから、ラガーじゃなかなか歌えないって言ってたわ」

 リサも言った。

 「ラガーじゃ、ジャズやシャンソンしか歌ってなかったからねえ」

 店の雰囲気に合わない曲は、なかなか歌えないしね、とエマルは残念そうに言った。

 「アイアン・ハートも、一度も歌ってないじゃない?」

 「そうなのよ――アンさんの歌う歌はなんでも好きだわ。コンサートが、ホント楽しみ!」

 

 ルナは、聞き耳といううさ耳を立てながら、まわってきた紙をめくった。

 (アイアン・ハートは、楽しみです。一度ラガーで聞いたことのある、“海と銀河”って曲も好き)

ルナはやがて、ある曲の歌詞に、目を留めた。

 (――カナリア?)

 それは、カナリアという曲だった。歌詞はみじかい。

 

カナリア 作詞:アン 作曲:パドリック

 

羽根を取られたカナリア どこにいる

空の籠 わたしのカナリア どこにいる

カナリア 黄色い鳥 わたしのすみか

 

わたしの記憶 わたしの夢のなか

歌ってください その声を頼りに わたしはさがすから

どこにいるカナリア 声を聴かせて

 

カナリアが呼ぶの 迷子のカナリア

迷子はわたし? 迷子はカナリア?

羽根を取られて飛べないの?

わたしは待っているのに

 

青い羽根に黄色の羽つけた鳥 わたしは殺してしまった

あなたの羽を奪ったと思って

 

羽根を取られたカナリア どこにいる

カナリア死んじゃった

もう もどってこない

 

 



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