「いらっしゃい――どうしたの、急に!?」

金髪のボブヘアの、グラマーな女性と、かつてバーベキューパーティでいっしょになったレオナを彷彿とさせる、軍服姿の、筋肉ムキムキ女性が出迎えてくれた。

「こ、こんにちは。はじめまして」

ケヴィンは、ふたりの迫力に押されつつ、挨拶をした。

「もしかして――お電話に出てくださった方ですか」

アルフレッドがモニクに聞くと、彼女は苦笑した。

「そうだったかもしれない。ゴメン、覚えてなくて――でも、あなたたちの存在は知ってるのよ」

「そう。バンクスを捜しに、L03のカーダマーヴァ村まで行ったんだって? L5系のお坊ちゃまのくせに、やるじゃない」

正確には、ふたりはL6系の生まれなのだが。

巨乳をスーツに押し込み切れない金髪グラマーが、自己紹介をした。

「わたしモニク。こっちがサリナよ」

いろいろはちきれそうな美女がモニクで、白い軍服の、男に見間違うような女性がサリナだ。

 

「お、俺がケヴィンで、」

「アルフレッドです」

ケヴィンは今日、ブルーのTシャツ姿で、アルフレッドは、赤いTシャツを着て、バックパックを背負っていた。ふたりは菓子と、保冷材の入りの包みがはいった紙袋を、いそいそと差し出した。

「これ、お土産です」

「まあ、ありがとう!」

モニクはおおげさに顔を輝かせた。真っ赤な唇が、双子を飲み込みそうなくらい大きく開けられた。

「ナターシャが働いてる店のマフィンとか、バームクーヘンとか、クッキーの詰め合わせ。すごく旨いです。お口にあえばいいけど――こっちは、オルドさんの好きなミートパイ」

「オルドも喜ぶわ」

「冷凍してます。焼きたてを召し上がってください」

モニクは嬉しげに受け取り、お茶の用意をしようとして、思いついたようにやめた。

「お茶飲んで、ゆっくりするのはあとね」

 

「それで、どうしたの、突然」

簡単な自己紹介と、土産の手渡しが終わったあと、サリナが、重ねて聞いてきた。ケヴィンが説明した。

「バンクスさんについて、また軍事惑星まで来ることになったんです」

「それで、急だったけど、せっかく軍事惑星に行くんだからと思って。直接オルドさんとピーターさんに、お礼を言いたくて……いきなり来て、すいません」

サリナとモニクは、顔を見合わせた。

「オルドもピーター様も、重要任務に入っていて、しばらく留守なのよ」

「あ、はい。受付で、オルドさんがお留守っていうのは聞いて――」

 

ケヴィンの言葉を最後まで聞かずに、秘書二人は、目配せしあった。

「ね、どうする」

「だいじょうぶじゃない?」

「イケる、イケるって。今の時間なら」

「そうよね。これを逃せば、二ヶ月先まで会えないし……」

「そうよ。だって、せっかく、L52から来てくれたのよ? はるばる――」

軍事惑星の女性は、ケヴィンたちの予想以上に、お節介なところがあるということを、ふたりは今日まで知らなかった。

サリナとモニクは、双子に背を向けて、なにやら話し込んでいる。今度は、ケヴィンとアルフレッドが顔を見合わせる番だった。

やがてサリナとモニクは、ふたりに向きなおって、言った。

 

「ね、出航まで、あと一時間あるから、会わせてあげる」

「――え!?」

秘書二人の口から出てきたのは、双子の予想だにしない言葉だった。彼女たちは、急にせわしなく動き出した。

「急いで。陸軍基地のほうは、軍服着てないと入れないから。貸してあげる」

「君たち、ちょっとチビだから、ブカブカかもしれないけど」

サリナの言葉は嫌味ではない。双子も、反論すらできなかった。だって、サリナもモニクも、双子より十センチは大きいのだから。

 

追い立てられるようにして、双子はL22の軍服に着替えさせられた。だれのものかは知らないが、階級章まで着いている。ケヴィンもアルフレッドも、そう詳しくはないが、バンクスについていれば、階級の区別くらいはつくようになっていた。上等兵のボタンだった。

だれに見とがめられるわけでもないのに、双子は帽子を目深くかぶった。

 

「あ、あの、俺たちは、会えなくても、お土産だけ置いていければ――」

ケヴィンがやっとのことで言ったが、美女二人の迫力に負けた。

「ええっ!? だって、L52からはるばるやってきたんでしょ?」

「オルドはともかく、ピーター様なんてホント忙しい方だから、これを逃したら、二度と会えないかもしれないわよ!?」

「え、ええっ――」

「じゃ、サリナ、お願いね」

「まかせといて」

「あたしは秘書室を動けないから。ここを無人にするわけにはいかないからね――もどってきたら、お茶をしましょ? コーヒーを淹れておくわ。さ、急いで!」

 

押し切られ、モニクに追い立てられるようにして、秘書室を後にした。サリナについて、シャイン・システムで一気にビルを出、陸軍基地のほうへ。サリナの長い足が双子との距離をひらかせる。ついていくのがやっとだ。

「宇宙船がある場所まで、シャインはないのよ」

サリナに促され、双子は困り顔で、ジープに乗った。陸軍本部内のスペース・ステーションまで、三十分はかかる。

そのあいだ、いったい、いくつのゲートを通り抜けただろう。厳重な警備の入り口は、サリナの顔パスで、どんどん先に進んでいった。「これは、軍曹どの!」という兵たちの言葉から、サリナが軍曹だということは分かった。

サリナの運転で、ジープはどんどん先を進む。もういまさら、引き返せない。

ケヴィンとアルフレッドは、「おおごとになってしまった……」という気持ちをかくせなかった。

手土産を置いて、すぐ失礼するつもりだったのに。

 

やがて、スペース・ステーションに着き、巨大な軍事用宇宙船をめのまえに、双子はぽっかりと口を開けた。

「ここで待ってて。ピーター様、捜してくるから」

そういって、サリナは駆け出して行った。メチャクチャ急いでくれたのはたしかだったが、もう出航まで10分を切っていた。ほとんどの兵士は乗船している。ピーターもオルドもそうだろう。あとは、出航を待つだけであった。

「お、俺たちのせいで遅れさせたらとんでもないことになるよな……!?」

「いいっていったのに、サリナさんったら、」

戦々恐々としていたケヴィンとアルフレッドだったが、「貴様ら、なにをしている!!」という鋭い怒声に飛び上がり、思わず敬礼なんかしていた。

「どこの隊の者だ!!」

「えっ、あのっ……」

――あとから双子は思ったが、それが悪かったのかもしれない。

「ぐずぐずするな!! 早く乗れ! もう出航するぞ!」

「え、お、俺たちは――!」

ケヴィンとアルフレッドは、数人の軍人に引きずられるようにして、軍事用宇宙船に連れ込まれてしまった。

 

サリナが息を切らせて、双子を待たせた場所までもどってきた。10分早いが、飛び立つ予定だったので、サリナの願いは、パイロットのところで却下されてしまった。

「ごめん~! やっぱ無理だったわ!!」

もう三十分、早く来てくれれば……と言いかけたサリナは、双子の姿が見えないので、周囲を見回した。

「あ、あれ? ケヴィン君? アル君?」

ピーターもオルドも、もう船内である。

「どこ行ったの――トイレかな」

サリナがキョロキョロ、あたりを見回すうしろで、双子を乗せた宇宙船は、空を切るいきおいで、宇宙めがけて出港していった――。

L43を、めざして。

 

 



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