「待てよ」

 ジンが言った。

 「もし星外に脱出してるんじゃないとすりゃ、ライフ・ラインの時期を狙って、生き残りのDLがこちらに攻め込んでくることはありえないか」

 ラグバダ族ははっとした顔をした。彼らはトリアングロ・デ・ムエルタによって犠牲者を出し、すみかを追われている。星外に逃げるか、北へ逃げるしか、手はないのだ。

 すでにトリアングロ・デ・ムエルタがはじまって、三日以上たっている。いままで三日間で終わっていたはずのそれが、まったく終わる気配をみせないのを、DLのほうも不安に感じているはずだ。

 原因をさぐる目的にしろ、すみかを奪うにせよ、こちらへ来る可能性はじゅうぶんある。

 オルドの顔色もさすがに暗くなった。

 「こっちへ来るってのか」

 「星外に出りゃ、軍事惑星の宇宙船につかまる。いちかばちか、こっちへ来て、青銅の天秤を奪って助かろうって考えてる連中がいないとも、かぎらねえだろ」

 ジンの意見はもっともだった。

 苦い顔でレーダーをにらんでいたピーターは、告げた。

 「オルド、マヌエラ」

 「はい」

 「は、はいっ!!」

 「次回のトリアングロ・デ・ムエルタになったら、マヌエラは、レドゥ大佐に連絡を取れ。アンディ・F・ソルテをこっちの洞窟に向かわせ、レドゥ大佐の戦艦はただちに星外へ撤退。それからオルドは、アダムたちと連絡を。レドゥ大佐の戦艦が撤退と同時に、すぐこちらの洞窟に来るように」

 「わっ……分かりました!!」

 「アルフレッド首長、あと三人、この洞窟へ入れていただきたいのだが、かまいませんか」

 ピーターに問われ、彼は多少顔をしかめたが、やがて嘆息してうなずいた。

 「この危機的状況だ――しかたがない。三人は、軍人か」

 「二名は軍人、ひとりは傭兵だが、むかしL46のDLにいた男だ」

 「DLだと!?」

 アルフレッドたちの顔色が変わった。ピーターは安心させるために言った。

 「いまはれっきとした傭兵です。白龍グループ系列のね。じつは彼も、地球行き宇宙船の“恩寵”を受けた男でね。――もしかしたら、トリアングロ・デ・ムエルタのなかでも、多少は動けるかもしれん」

 「え!?」

 マヌエラが叫び、ラグバダ族は顔をしかめた。

 「トリアングロ・デ・ムエルタのなかで動けるだと? どういうことだ」

 「あくまで可能性です」

 ピーターは言った。

 「ここL43はDLの本拠地だが、L46には二番目に大きい組織がある。そこのDLはどちらかというと、ここより厄介でね。ずいぶんな科学力があるんだ」

 「科学では、トリアングロ・デ・ムエルタには勝てん」

 「勝とうと思ってはいません。“しばらく動けるかも”と言ったんです」

 ピーターは苦笑した。

 「そのために連れて来た男なんだが、娘のところに帰りてえってうるせえから宇宙船に行かせた。――けっきょく、呼びもどすことになったな」

 ジンが嘆息した。

 

 「アルフレッド首長は、この現象をどう思います」

 「どう思う、とは」

 「やはり、DLはトリアングロ・デ・ムエルタに飲み込まれた可能性が高い?」

 ピーターに尋ねられたアルフレッドは、疲れ気味の顔で言った。

 「そう考えてまちがいなかろう――宇宙船で星外に逃げたのでなければな。青銅の天秤にヒビが入ったがゆえに、“守り”が弱くなったのだ」

 戦士たちも深刻な顔で、「長、」と呼びかけた。

 「こちらでも、DLが攻めて来たときのために用意をしておきましょう」

 「ああ」

 「……さすがに、L22の軍をまるごと、洞窟に入れてもらうわけにはいかないでしょうね」

 ピーターが苦笑気味に尋ねると、アルフレッドも戦士たちも目を丸くし、それからアルフレッドだけが首を振った。

 「何人だ」

 「二百人はいる」

 「それは無理だ」

 「――特殊部隊だけでも。二十名ほど」

 「いれば頼りにはなる。気持ちはわかるが」

 アルフレッドは言い置いた。

 「あくまでもDL対策だろう? どのみち、ライフ・ラインは一時間しかないのだ。こちらも長年、ただDLとにらみ合ってきたわけではない。それなりの対策はある。たったの一時間ではわれわれを攻め滅ぼすことなどできんし、奴らも、一度この洞窟に入ったら、もうもどることはできんのだ」

 「そうですね……」

 「それに、DL相手でなくても、トリアングロ・デ・ムエルタによって滅ぼされるかもしれん状況は変わっていない。待機している宇宙船の連中も、おまえたちも、できるなら、一刻も早く、星の外に出ることだ。そのほうが、生き延びる時間は長くなる」

 「……」

 

 「で、でもさ、これって、これさ、」

 マヌエラが、ほぼ半泣きの顔で、アルフレッドにすがった。

 「これって、つまり、そのうち、ここの洞窟もダメになるっていうこと?」

 南地区から、洞窟は役に立たなくなっている。それがだんだん北の地区までおよび、いずれは、この洞窟にいても、トリアングロ・デ・ムエルタに襲われてしまうのではないか。

 「助かると断言はできんが、早まるな。黄金の天秤が現れた以上、救いはある。イルゼと話せるようになるまで待て」

 アルフレッドは、みなを落ち着かせるために告げた。

 「イルゼとは、だれです」

 ピーターが聞いた。アルフレッドは、隠す気はないようだった。

 「黄金の天秤は、イルゼ婆にさずけられる――とわれわれは思っていた」

 ピーターたちは、顔を見合わせた。

 「黄金の天秤のことを知っているなら、ZOOカードのことも知っているだろう。イルゼは、そのZOOカードをあやつる、“ZOOの支配者”というものだ」

 

 



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