「みんな、マジで綺麗だよ!!」

 キラは、大興奮で叫んだ。

 「あたしたちも、地球で結婚式あげればよかったね」

 口をとがらせて言い、エルウィンに、「あんたはあんたで、盛大な結婚式を挙げたじゃない」と笑われた。

 「ママは? ママはデレクと結婚式あげないの」

 「あたしは、もういいのよ、そういうことは」

 エルウィンもデレクと、来年あたり籍を入れようと思っていた。だいぶ以前からデレクにそう望まれていたが、結婚式はもういいと思っていた。

 

 「いいねえ――いいね――むかしを思い出すねえ」

 「エマルの結婚式は見られなかったけども、まさか、孫とルナの結婚式を見られるなんて」

 エマルは昔を懐かしみ、ツキヨは感動のあまり、涙腺は崩壊しっぱなしだった。

 「うんうん――綺麗だ。みんな、とっても綺麗だ」

 「ルナさん、綺麗よ」

 車いすのアダム――アズラエルの祖父とメレーヌ、カナリアとテリーも出席していた。メレーヌに抱きしめられ、ルナは照れた。

 「ほんとに――美しいわ」

 「うひ」

カナリアにも褒められ、ルナが喜んだところだった。

 

 「ルナは、なんだか今日は、美人だな!」

 ピエトは叫び、ルナは「今日だけ!?」と絶叫した。

 リンファンは、娘のベールを直してやりながら、言った。

 「今日はアホ面しないのよ」

 「いつもしてないよ!!」

 ルナは、母親のあまりな台詞にまた叫んだ。

 「ルナは、アホ面がデフォルトだから。ゴメンねアズ君」

 「この顔に、慣れてます」

 アズラエルはにっこり笑い――ルナはあんぐりと口を開けた。しかし、笑ってばかりいるわけにもいかなかった。

 リンファンが所持しているタブレットの向こうで――絶対零度の冷蔵庫が――ジト目で(※アズラエル視点)こちらを見据えていた。

 アズラエルは戦慄しつつ、これ以上、妻の父の機嫌をそこねないよう、場所を離れた。

 

 「ドローレス、これでよかったのよ」

 リンファンは、画面の向こうの夫をなだめた。

 「だって、あなたとアズ君が対面したら、ぜったい血を見るわ」

 『……』

 ドローレスは、いっさい否定せずに、メガネを押し上げた。こめかみには、青筋が立っている。

 「アズ君はちゃんと、あたしと、ツキヨさんにも挨拶してから、結婚式を挙げることに決めたわ。あなたに連絡しなかったのは、あたしがいいって言ったからよ。だって、」

 「血を見るから」

 エマルは言い、笑った。

 「そうふて腐れるんじゃないよドローレス! あたしの息子じゃ、不満かい」

 『俺もさっき、そう聞いたんだ。そしたら、ずっと無言だ』

 タブレットからかえってきたのは、アズラエルの父、アダムの酔っぱらった声だった。画面の向こうでは、すでに酒盛りが佳境に入っていた。アダムとオリーヴ、ベックとボリスにスターク、メフラー商社のメンバー、ナンバー9のザイールも含め――そして、バクスターとローゼスの姿が。

 「病み上がりのバクスターさんに、無理はさせないでね」

 リンファンは言ったが、あちらはあちらで、すでに盛り上がっていて、声は聞こえていないようだった。しずかなのは、ドローレスとバクスターだけだ。

 

 『すまん』

 タブレットから声がして、リンファンが画面に目をもどすと、バクスターが映っていた。

 「あら――」

 『すまない。あなたの娘さんと、話をさせてもらえるか――その、ルナさんと』

 バクスターは、まだベッドに座っていたが、顔色は良さそうだった。

 「ええ、喜んで」

 リンファンはルナを呼んだ。ルナはタブレットを受け取り、目を見開いた。初対面だが、そこにいた人物の名は、すぐに分かった。なにせ、彼は、グレンそっくりだったからだ。

 

 『ルナさんですか』

 「あっ、はい!!」

 ルナは、しゃきーん! と背を伸ばした。

 『わたしは、バクスターと言います。グレンの、父です』

 「お、お、お名前、だけは」

 初めて出会ったときにグレンに感じた、すこし怖くも思える、硬質な声だ。だが、病みあがりのせいか、それはすこし力がなかった。

 『――ずっと、あなたに、礼を言わねばと思っていたのだ』

 「え?」

 ルナは、目でグレンの姿を捜していた。だが彼は、近くにはいなかった。

 『グレンのことは、いいのだ。わたしは、あなたに礼を言いたかった』

 バクスターは、ルナがキョロキョロ、目をさまよわせている理由を悟って、ちいさく苦笑した。

 『チケットを、ありがとう』

 ルナがかつて、ニックがのこしていたディスクで見た、バクスターの怖い影は、微塵もなかった。まるで剣が取れたように――おだやかに微笑む姿があるだけだった。

 『来年は、地球行き宇宙船で会えると思います。ニックにも――それだけです。結婚式の最中に、時間を取らせた』

 「いっ、いいえ――」

 『ありがとう』

 ルナがあわてて返事をしたときには、もうタブレットはアダムの手に渡っていた。アダムは、にぎやかな室内の光景を、うつしている。

 

 「あの、ママ」

 ルナは言った。

 「グレンに会わせてあげなくて、いいの」

 リンファンは、首を振った。

 「いいの」

 エマルもツキヨも、うなずいた。

 「いいのよ」

 ツキヨは背を屈め、ルナの肩に手を置いて、言った。

 「あんたがバクスターさんを、今度こそ、地球に連れてくるんだよ。そして、グレンやサルビアさんと一緒に、“月を見るの”。――そうしてあげなきゃ」

 ツキヨの言葉はまるで、このあと明らかになったことを、示唆しているようだった。

 

 



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