さて、こちらでも、何もぶっかけられてはいないが――仲間たちに――いや、ビニールシートの上でL7系の女の子たちに囲まれているのは、サルディオネだった。 占い好きの女の子たちに囲まれて、せがまれていたのだった。ある程度、この状態は覚悟してきていたのか、サルディオネは簡単に「いいよ」と言ったが、ZOOカードは並べていない。 サルディオネのOKが出た途端に、女の子たちは、誰が一番に占ってもらうか、じゃんけんで順番を決めはじめた。 レイチェルが一番になったが、サルディオネはレイチェルより先に、自分の妻を温かく見守っていたエドワードに告げた。 「あんたは、相談する相手を間違えてる」 エドワードは、いきなり言われて硬直した。エドワードは占いに特に興味はない。自分を占ってくれと言った覚えはなかったが、思い当たることはあった。周りは「何のこと?」と首をかしげたが、エドワードとレイチェルだけは分かっているようだった。 「……「傭兵のライオン」……ああ、あそこのもっさい軍人だけど、アイツに相談したってラチがあかないさ。あいつはちゃんと話を聞いてくれるから、アンタは一時楽になるだろうけど、何の解決にもならない。あんたは「図書館の猫」と話すべきだよ」 たしかのここのところ、アズラエルに相談に乗ってもらっていた。だがどうしてそれを、サルディオネが知っているのか。考えたが分からない。ルナから聞いたのか? 驚いたまま固まり――そして、聞いた。 「図書館の猫?」 「あ、ええと――、あれ」 サルディオネは、アズラエルたちに交じってラガーの店長を囃し立てている、アルフレッドを指さした。 「アル!? ――でも、彼はこのバーベキューパーティーで仲良くなったばかりで、」 「でも、運命の相手さ」 サルディオネは、笑って言った。 「勘違いしちゃいけない。なにも恋人ばかりが運命の相手じゃない。……少なくとも、彼はあんたと同じ悩みを抱えていて、目指すものもほぼ同じ。一度、ふたりだけでじっくり話をしてごらん。三日後がいい。意外な答えがもらえるよ」 エドワードは呆然として、何か納得したようにつぶやきながら、頷いた。 「彼が宇宙船を降りても、長い付き合いになるよ。あんたから交流を絶やさなければ、晩年まで付き合いは続く」 「よかったわね、エド!」 「……あんたは、そろそろ病院に行ってごらんよ」 「――え?」 「おめでたかもしれんと言ってるのさ」 サルディオネがにっと笑うと、レイチェルとエドワードが顔を火照らせた。 「え!? まさか! ……ほんとに!?」 「ほんとかどうかは病院にいってごらん。すぐわかるから」 互いに顔を見合わせて、嬉しげな顔をするふたり。シナモンがずいと飛び込んできた。 「あ、あたしは? あたしは??」 「ちょ、シナモン! 次あたし!」 リサが口を尖らせたが、シナモンはリサにお願い! というふうに両手を合わせ、サルディオネに詰め寄る。シナモンの必死な顔に、リサは嘆息して二番を譲った。 「あんたはねえ――、」 サルディオネはじいっとシナモンを見ると、こちらも嘆息した。 「今年が危険」 ジルベールがぶっと酒を吹きだし、レイチェルもリサも、「き、危険ってどういうこと!? 赤ちゃんが!?」 だが、サルディオネは「それ以前の問題だよ」と首を振った。 「あんた、この結婚後悔してないかい?」 言われて、シナモンは笑顔のまま固まった。ちなみに、シナモンはジルベールと結婚したことは、まだ口にしていない。エドワードと同じく占いに興味がないジルベールも、「どういうことだよそれ」とふて腐れ顔でやってくる。 「――あんたは、この宇宙船に乗って、いろんな男に出会って目移りしてるんだ。あたしの運命の相手はほんとに今の旦那かって、ね。どっちかいうとあんたの好きなタイプは、あそこらへんだろ?」 そういって、サルディオネはグレンとアズラエルがいる方を指さす。 リサとミシェルは爆笑した。シナモンがグレンをカッコいいと言い、アズラエルを渋いとうっとりした目つきで眺めているのは、周知のことだ。シナモンの軍人好きも。 ばつが悪そうに、シナモンは頭を掻く。 「もしかして、この宇宙船で運命の相手に出会えるんじゃないかって、どっかで思ってるんだろ。だから、今この男と結婚してよかったのかなって、そう思っている」 気持ちをすべて代弁されたかのようなシナモンは、赤くなって、それから開き直った。 「そうです! そうだよー!! だって仕方ないじゃんグレンさんカッコいいんだし!」 「し、信じらんねえ! 夫の前で言うかよそれ!!」 「でも、残念ながら、いくらルナとアズラエルと一緒に夕飯を食べてても、その席にグレンが呼ばれることはないし、グレンは残念ながらあんたに興味はない」 がくーっとシナモンは落ち込み、その分かりやすさに友人たちはふたたび後ろで爆笑する。 「サルディオネさん。……どんだけわかるんだよ」 彼女は、占い道具を並べてすらいない。ただ、シナモンたちの顔をじっと見るだけだ。 それでぜんぶ、分かってしまうのか。 ジルベールが怖そうに言うが、サルディオネは、「分かる分だけだよ」と軽く返す。 「……分かる分だけって」 だからどんだけだよ、とジルベールがぶつぶつ言っているが、サルディオネは続けた。 「でもね、あんたはこの宇宙船で、たとえ自分好みの軍人を見つけて乗り換えたとしても、宇宙船を降りてから後悔するよ」 「なんで?」 「あんたの運命の相手は、そこの男だから」 「そこの男ってやめて! 俺ジルベールって言うんだよ!!」 「あ、いやごめん。あたし、占いの最中は占ってる人間の名前呼べないんだよ」 「ジルベールが相手なの? ……つかもう、兄妹とか家族みたいで、あんま恋してる感ないんだよね」 「だからいいのさ」 サルディオネは笑う。 「あんたは彼と別れたら後悔するよ? あんたは恋多き女だから、火遊びが火遊びを呼んで、やがて晩年はただの派手なだけの独り者になる。そうなったら、孤独なうえ、あんたは自分の人生のむなしさに気付くだろう。あんたが望んでる子供もきっと生めない。子供を生むほど親しくなる前に飽きて、次へ乗り換えるからさ。そこの……、彼はあんたのそういうとこもみんな許してつきあってくれる、唯一の相手だと思ったほうがいい」 「許してっつうか――もう諦めてんだけどさ」 「あんたもさ、」 サルディオネはジルベールに向かって言った。 「彼女のことは置いといて、本業のダンスに打ち込みな。そのほうがアンタの魂が輝いて、惚れ直されるよ」 「俺、ダンサーとかひとっことも言ってねえんですけど……?」 「もう、そろそろあたしの番でしょ!」 リサと、ミシェルが割り込んではいる。サルディオネは、じっと二人の顔を見たが、やがて。 「あんたらふたりはまだ教えるときじゃない」 と、言った。 「ええー!? なんで!?」 リサがふて腐れるが、 「カードだけ教えてあげる。あんたは「美容師の子猫」。あんたは「ガラスで遊ぶ子猫」」 「カード……?」 「ZOOカードと言ってね、あたしの占いなんだ。カードに、占う人物の魂の形が出てくる。……簡単に言うと、あんたは、今世は美容師が天命だってことだね」 「やったあ! あたし、やっぱ美容師が天命なんだ!!」 リサは嬉しげに飛び上がった。 サルディオネは、「あげる」と言ってZOOカードを二枚取り出した。そして、リサとミシェルに渡す。無論、「美容師の子猫」と「ガラスで遊ぶ子猫」のカードだ。 シナモンが「いいなあ」と言ったが、シナモンは残念ながらカードをもらえなかった。 占いのカードというには、絵本の一ページのようなイラストのカードだった。大きさはトランプほどだが。 「美容師の子猫」はオシャレな格好の子猫が、はさみやら櫛やらをもって、お客であろう猫の髪の毛をセットしている。 ガラスで遊ぶ子猫は、まるでシャボン玉のようにたくさんのふわふわしたガラスが周囲に浮いていて、子猫はその中央でガラスを膨らませている。 リサは、描かれたイラストの可愛さに大喜びし、ミシェルも「すてき……」と思わず呟いた。色遣いが華やかで、ぱっと人目を引くあざやかさ。 「あたし、額に入れて飾っとくわ、これ」 今日の記念に。リサがバッグにいそいそとしまい入れた。
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