「ど・う・し・て! ど・う・してあたしがいいなあって思った男はみんなルナとかミシェルに行くの!?」

 シナモンが、キー!! と唸り、酒を仰いだ。

 「『女にしてやろうか? 俺が』……とかいわれてみたああああああい!!!!」

 「おまえ元から女じゃねーか」

 「だからダメなのよこの無神経オトコ――!!!」

 あっさりジルベールに突っ込まれ、シナモンは地団太を踏む。

 新しく現れたイケメン軍人――ロビンは、あっちでクラウドとミシェルを挟んで睨みあっている。

 「仕方ないわよ。シナモンは、もっと身近な幸せを大切にするべきだと思うわ」

 レイチェルがあきれ果てた声で言うが、ジルベールが、からかう様に笑った。

 「あっちも元軍人さんいるみたいだぜ。おまえ、あっちの役員集まってるとこに行ったら?」

 「なんでよ」

 「あの子、大モテだぜ?」

 ジルベールがビール缶で指した先には。

 

 

 「――あ、あの、……これ以上飲めません……」

 

 ユミコが、五、六人ほどの男性役員に囲まれて、狼狽えていた。中でも、両隣をしっかり陣取っているのは、バグムントと、チャン。

 

 「飲んで♪ 飲んで♪ ユミコちゃん♪」

 「ぐーっといって。ビール飽きたンだったら、カクテル作ってもらおうか?」

 「あの……でも、ほんとに飲めないんです、もう、」

 「くーっ! かーわいいー♪ もう飲めないんです、だって!」

 「まだいけそうだよ? 顔赤くないしさ、ほんとは強いんだろ?」

 「ね、ね、ユミコちゃん。付き合ってる男いるの?」

 

 ユミコが泣きそうになりながら、これ以上無理、と断るが、少しずつ減らしたコップには、またなみなみと注がれる。

ユミコを前と後ろで囲んでいるのは、若い、軍事惑星出身者の役員たちだった。

 

軍事惑星の男性役員はなぜか、L7かL6系あたりのコと合コンをしたがる――のだが、うまくいく可能性は十パーセント以下である。軍事惑星の連中は、母星の女たちとは対極の、華奢で、可愛くて、おっとりした感じの女の子が大好きだった。

軍事惑星の女は恐ろしいのが大多数を占めるし、L03あたりの女は何を考えているか分からないタイプか、潔癖すぎる女が多い。L4系はスレ過ぎて一筋縄じゃ行かないのが多いし(遊びには最適)、L5系に軍事惑星群の男はモテるのだが、なぜか軍事惑星の男は、L5系の、オシャレでキレイで、細い女には食指が伸びなかった。

本気でつきあうなら、L6系かL7系。(※あくまでも一般的統計である。)

それも、とくにL7系の子は、性格も温和で、腕に抱いたらすっぽりと収まりそうなくらい小柄で、磨けば光るタイプが多い。(田舎っぽいともいうが。)

L7系出身の上、スレていなさそうで、しかも独身のユミコは、軍事惑星出身の男たちのハートを一撃で仕留めた。

 

今日のバーベキューパーティー主催のルナちゃんも可愛いけれど、アズラエルの女だし、ミシェルちゃんはクラウドのお手付き。リサちゃんにも彼氏がいるし、レイチェルちゃんは人妻。ナターシャちゃんには完全に怯えられて、話しかけることもできなかった。

ここでどうしてもシナモンが出てこないのは、もはや運命と言うべきか。彼らは、シナモンという綺麗な子がいたな、それだけである。

彼らは、何が何でもユミコを落とそうと、さっきから必死だった。

 さっきから、バグムントとチャンが両隣なので、これ以上ユミコに近づけないのが難点だったが。

 

  それにしても。

ユミコは両隣の二人を、助けを求めるように何度もチラ見した。

両隣の二人は、彼らがユミコに酒を注ぎ続けるのを止めてくれない。

ユミコが飲めない、と言っているのを聞いているはずなのに。

 

 「……お嬢ちゃん」

 バグムントがようやく、口を開く。

 「もう飲めねえってンなら、はっきり言わねえとこいつらは分からねえぞ?」

 

 だから、さっきからそう言っているのに!

 

 ユミコはちょっと涙ぐんだ。これは、新しい役員に対する洗礼だろうか。イジメ? もしかして、アルハラ?

 「飲めないなら私が」

 チャンが見かねたのか、ユミコのグラスを取り上げ、ぐっと飲みほした。

 

 「あーっ!! チャンさん! それはずるいッス!」

 「それはユミコちゃんに注いだお酒っすよ!?」

 

 チャンが眼鏡をギラリと光らせたのを見て、バグムントが慌てて、

 「おまえら、ユミコちゃんにはもう付き合ってるオトコがいんだからよ。諦めろ」

 ユミコが思わずバグムントを見たが、バグムントはしーっと人差し指を立ててみせる。

 「マジかよ!! ユミコちゃん! それ誰!?」

 「まさかL7系とかのひょろっちいガキじゃねえだろうな!?」

 「ユミコちゃん!! 軍事惑星のオトコ嫌!? 強い男は嫌い!?」

 野太い声が、泣きそうに訴えるのを見ていると、すこし恐怖も緩んでくる。

 元傭兵だけあって、この三人も百八十センチはゆうにある、体格のいい猛者どもだ。だから余計ユミコは怖くて、きつく断れなかったのだが。

 

 「バカ言え。恋人はお――「私です」

 チャンが眼鏡を押し上げて言ったので、バグムントが口パクで『てめえーーー!』と怒鳴りかけた。

 

先を越された。

 

 「ですから、貴方がたは、とっとと撤収しなさい」

 若い役員たちは、「ええ……またかよお」「俺、去年からL7系の子にフラレてばっか……、」と嘆き悲しんだが、チャンが相手では、怖い。

 でかい男が肩をガックリ落としながら去る後姿が、ちょっとかわいそうと言えばかわいそうだが、しつこかった男たちがいなくなってユミコはほっとした。

 

 「す、すみません、チャンさん、バグムントさん、あの……、」

 「謝るくらいなら最初からはっきり拒絶しなさい。軍事惑星の男には、あいまいな態度では通用しないのですよ。彼らは単純で鈍いですから、言葉の裏を取るようなことはできません。あなたもあちらこちらにいい顔をしようとするから、「余計な」男まで寄ってくるんです。貴方にも責任はある」

 いかにもユミコが悪いという、チャンの手厳しい言い方に、ユミコは泣きそうになった。

 バグムントが、そっとユミコの頭を撫でてくる。

 「おまえ、言い方がきつすぎんだよ。……ユミコちゃんは悪くねえよ?」

 「いっ、いえ、私が悪いんです……、」

 「そう泣くな。……あっち見てみな。や、そっちじゃなくてあっち」

 バグムントが示した先には、レオナがいた。

 

 「もう飲めねえって言ってるだろうが!! 妊婦にこれ以上飲ませる気かっ!? てめーがのめ!!」

 とレオナがバーガスの襟首を捕まえ、口にビールを流し込んでいた。

 

 「分かる? 軍事惑星じゃ、あれが「断る」っていうんだ」

 「……」

 「ま、あれは軍事惑星でも特殊ケースですがね」

 「そうか? ああいう夫婦多いだろ?」

 「妻がL20傭兵に限り、多いと言えますね。……まあそれより、」

 チャンが、そっと席を外し、綺麗な包装紙でくるまれた瓶を持ってきた。

 「ユミコさんは、ビールがそう得意ではないのでしょう?」

 「えっ……?」

 確かにそうだ。でもどうして、チャンがそれを。

 「マックスさんからお聞きしました」

 そういう顔は、笑顔にすらなっていない。ユミコは、やっぱりこのひと怖いし苦手だな、と思ったが、さっき、自分のビールを代わりに飲んでくれたことといい、優しいことは優しいのだ。ユミコは、こわごわ、グラスに注がれたそのワインと思しきものを受け取った。ビールは苦いからあまり飲めないのだが、ワインは、カクテルみたいに甘いものもあるから、飲める。