ちょっと常識がないぞと、とルナはぷんすかした。

(役員さんたちには見えないし、やっぱり、リサの友達? 見覚えがあるような、ないような)

やはり、ここからでは遠くてよく見えない。ルナは精一杯背伸びをしたが、せのびをしたところで、いきなり視力が5・0になるわけでもなかった。

 

さらに、あの隣のテーブルの五人は誰だ? 子どもがいて男女の大人ということは家族づれか。

あと、四人のカップル組。

 

ヴィアンカと、バグムントとチャン。あとその知り合いの役員八人だけが、ルナがチェックした人数だ。

この八人は、事前に来るとわかっていた。バグムントがアズラエルを通じて、「八人ほど連れて行くけど、いいか?」とちゃんと予約してくれたからだ。

この八人を含めて、十人ほど余分に用意していた。肉が足りなかったらとカレーも作ったし、サラダや盛り合わせも作ってある。アントニオも、足りなくなることはないだろうと言っていたのに。

だけど、あの十人組ほかは、明らかに予定外だ。

「こういうこともあるわよ。仕方ないわ」とレイチェルはいい、

「今度は招待客オンリーで、友人は事前連絡がない限りはひとりだけ、とか決めようね」

と、アントニオも言った。

 

あの十人組や家族は、ミシェルかナターシャがチェックしたのだろうか。

名簿には、招待状を送った人の名しか書いていないから、ここにいては確かめるすべもない。

 

(参ったなあ……)

 

招待客であっても、アズラエルやクラウドの知り合いだったり、役員だったり、ルナが知らない人も多い。全員が誰の知り合いかなんて、把握できない。

ルナがぴょこぴょこテーブルに食材を運んでいたとき、受付にはミシェルとナターシャがいたから、ルナが知らなくても、彼女たちが知っているかもしれない。

ミシェルたちに確認しにリズンへ行きたいが、ここを離れられない。

こういうとき、携帯がつかえないと不便だ。

 

せっかくみんなで車座になって楽しもうとして、バーベキューコンロやテーブルを配置したのに、あの十人組や家族の人たちは勝手にコンロやテーブルを中央から離してしまって、彼らだけで楽しんでいる。

役員たちのグループとバーガスたちは、隣同士にいるのに。誰の知り合いか知らないけれど、あれでは、リサたちが戻ってきたときもみんなバラバラになってしまう。

みんなで一緒にやるから、バーベキューコンロもテーブルも足りていたのに。勝手に離して個々で使うから、足りなくなってしまったのだ。

さっき、買いに行くことになったアズラエルが、「あいつら誰の知り合いだ!」って、キレかけていたけれど。

(クラウドがなだめてくれなかったら、確実に暴力沙汰になっていたかも……)

クラウドがいてくれて、よかった。

 

 (にしても、グレンたちまだ来ないなあ)

 

 「あの」

 ルナに声をかけてきたのは、見知らぬ女性だ。ルナたちと変わらぬくらいの。

 「今日、リズンが休みって書いてたけど、ここでバーベキューできるんですか? あれ、借りられるの? いくらくらいですか」

 ルナは慌てた。 

 「え? い、いいえ、今日のは個人的なバーベキューパーティーで、リズンのではないんです……」

 「あ、そうなんだ」

「でもここ、公園ですよねー。バーベキューしていいんですか?」

 「今日はちゃんと許可もらって、やってるんです」

 「リズンのテーブルとかあるよー?」

「あ、それは、リズンの店長さんがお友達なので……。リズンの店長さんもお友達とかと一緒に参加してるんです」

 女の子が、受付テーブルの名簿とハート形の招待状を見て、

 「あ、ほんとだ。招待状とかないと入れないんだ」

 「そうなんだー。残念ー」

 なんかリズンのじゃないらしいよー、借りられないんだってー、と言い合い、女の子たちは去っていく。

 やっぱり、リズンの近くでやっていることもあって、みんな勘違いするのだろうか。

 

 (どうしよ。張り紙でもしてたほうがいいかな)

 

 立ち入り禁止、とか。それとも、こうやって勘違いしてくるひとにちゃんと説明できるひとに、ここにいてもらうとか――。

 

 (ミシェル〜! どこ行ったの〜! 一緒にいて〜!)

 

 少なくとも、メンズ・ミシェルや、リサのほうが、こういう場合、きちんと対応できるのではないだろうか。さっきの自分の、しどろもどろな説明を思いだし、ルナは消え入りたくなった。

 リサではなく、自分が運び屋になればよかったのだが、リサ曰く「ルナは足遅いからダメ」だそうだ。それももっともだ。自分は足が遅い。呆れを通り越して、感心されるくらい、遅い。

 

 (バーベキューパーティーなんか、計画したはいいけど)

 あたし、一番の役立たずだわ。

 

 ルナは、ウサ耳が完全にヘタレた。おまけに口がバッテン。

 具体的な計画を立てたのは、アズラエルとアントニオだし、アントニオがいなければ許可も取れなかったし、調理場が近くにないし、バーベキュー用具もないしでもっと大変だったろう。

 アズラエルがいなければ、バーベキューコンロの使い方や火の起こし方も知らない。お金だって、ルナももちろん出したけれど、会費が入る前までは、ほとんどアズラエルが立て替えてくれているのだ。

 レイチェルやナターシャのほうが、ルナより料理がうまい。ちゃんと分量を量って、同じ味を必ず作れるから。ルナは必殺目分量なので、同じ味は作れないのだ。だから、調理場にルナの入る隙間はない。レディ・ミシェルはものすごくセンスがいいから、サラダなどもきれいに盛り付けてくれる。基本的に何を作らせても芸術的才能を発揮するミシェルはすごい。

 簡単に、バーベキューパーティーやりたい、といった自分。

 それを実行してくれたのはみんなで、ルナはほとんど何もしていない。

 自分はリサたちに電話をかけ、カードを書いただけだ。

 なんだか自分が主催になっているが、(カードを書いたからだろうか?)自分はただのおまけなのに。

 (あたし、なんにもできないんだなあ……)

 ここまで、役に立たないとは思わなかった。

 

 ルナが落ち込んでいると、

 「ルナさん、おはようございます」と久しぶりに聞く声がした。

 「あっ! マックスさん、おはようございます!」

 マックスが、帽子を取ってルナに笑顔を向けていた。

 「今日は、お招きありがとう」

 そういって、ハートの招待状を差し出した。マックスは、ルナより少し上くらいの女の人を連れていた。

「友人なら連れてきてもいいと聞いていたんだが……、」

 「あ、だいじょうぶですよ!」

 ルナはマックスに、名簿にサインを書いてもらった。そして、二人分の会費を受け取る。そのあいだ、金髪の女性はルナに笑顔で会釈して、言った。

 

 「ルナさんですよね? はじめまして。わたし、今年の四月から、リサさんとキラさんの担当役員になります。ユミコ・F・リンネルです。よろしくお願いします」

 「えっ!? そうなんですか?」

 「はい。カザマさんは今まで通りルナさんとミシェルさんの担当役員なんですが、リサさんとキラさんは私が担当になります。今年合格したばかりの新米で、不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

 「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします」

 頭を下げられたので、ルナも深々とお辞儀しかえしたときだった。

 

 「あ、あんた、……ユミコさん!?」

 エレナの声だ。少し遠くの方から走ってくるのが見えた。

 「エ、エレナさん! 妊婦さんなのに走っちゃダメ!!!」

 ルナは思わず叫んだが、ルーイも慌ててエレナを止めている。だがエレナは大きなおなかを抱えるようにして、走ってきた。

 「あ――エレナさん!」

 ユミコも言った。

 ルナは驚いた。知り合いなのだろうか。

 

 「お久しぶりです。話には聞いてました。ご懐妊、おめでとうございます」

 ぜえぜえいいながら、エレナがにっこり微笑んだ。全速力で走ったせいで、息が切れて声が出ないのか、ルナに手を挙げて挨拶しつつ。

 「あ、ありがと……。でもあんた、あんたこそ、その、試験とやらどうなったの?」

 声が出せるようになると、エレナは開口一番、ユミコにそれを聞いた。

 「はい。晴れてL7系の派遣役員になりました。四月から、船客の担当をします」

 知り合い? とルーイがカレンに聞いている。カレンが「ルナ、久しぶり」と目配せしながら、知らない、と呟いた。